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191121救急活動事例研究(32) 中山間地域で地元診療所と連携して救急活動を行った3症例 ( 唐津市消防本部消防署東部分署 永冨康弘 )

中山間地域で地元診療所と連携して救急活動を行った3症例

永冨康弘

唐津市消防本部東部分署

著者連絡先

永冨 康弘

ながとみ やすひろ

〒849-5111

佐賀県唐津市浜玉町南山2730-2

唐津市消防本部消防署東部分署

主査

電話0955-56-8142

FAX0955-56-8120

1.佐賀県唐津市消防本部の概要

唐津市及び玄海町(委託)は佐賀県北西部の位置にあり、総面積は523.5㎢である。唐津市消防本部は1本部、1署、5分署で構成されており、職員数は180名、うち救急救命士42名(挿管認定2名)救急隊7隊で5451件(平成29年、不搬送を除く)の救急業務にあたっている。管内人口は128,781人(平成29年)である。

唐津市ホームページより引用

図1

唐津市の位置

2.七山診療所について

東部分署から最長直線距離約10kmに、中山間地域の七山地区(図1)がある。平成の大合併で2006年(平成18年)に現在の唐津市に編入合併されるまでは、佐賀県東松浦郡七山村という村であった。その名のとおり七つの山々に囲まれた場所であり農業と林業を主な産業とする典型的な山間の農村である。面積はJR山手線内ほどの広さで、62.89㎢という広大な山間部に集落が点在している。一人暮らしの高齢者が多く、現状は高齢化率40%を超えている。温泉施設や滝登りイベント、産地直売所など地域興しも盛んであり、週末は福岡都市部からの観光客も多い。七山地区の人口に対する救急件数の比率は市全体とほぼ同じ(表1)だが七山地区は高齢化率が高い(表2)。

七山地区唯一の医療機関として七山診療所がある。医療法人慈孝会が運営する診療所で、理事長・院長は阿部智介医師である。先代院長の意思を引き継ぎ故郷である七山地区を守るため地域医療に携っている。診療所の職員は医師1名、看護師5名である。七山診療所の地域医療の取り組みとして巡回寺子屋がある。七山14集落を2週間に1回のペースで回り、保健師、歯科医師と一緒に健康教育や啓蒙活動にあたるものである。また週に1回、山間地集落の巡回診療も行っている。

図1

七山地区

表1

唐津市及び七山地区の人口に対する救急件数の比率

表2

唐津市及び七山地区の年齢3区分別割合

3.連携した3症例

(1)水難事故症例

平成xx年9月x日発生。滝(図2)で遊泳中の19歳男性が下流に流され行方不明と警察から119番通報があった。出動途上、救車内から医師に現場応援を要請した。医師、看護師と現場付近で合流し下流から上流へ検索しながら現場へ向かった。現場到着時すでに陸上に引き揚げられバイスタンダーによる心肺蘇生が実施されていた(図3)。口腔内から吐物多量(図4)。心電図波形は心静止であった。医師により現場で気管挿管及び気管内吸引が行われた。ルート確保後アドレナリンも投与されたのちに医師同乗のもと直近3次病院まで搬送したものの病院内で死亡確認となった。

図2

事故のあった滝

図3

陸上に引き揚げられバイスタンダーによる心肺蘇生が実施されていた(再現)

図4

初期観察(再現)

(2)グループホームでの窒息症例

平成xx年x月x日発生。85歳男性。グループホームで食事を喉に詰まらせ心肺停止状態と入電があった。バイスタンダー心肺蘇生あり(図6)。119番通報と同時に、施設職員から医師にも連絡済みであり現場に向かっているとの情報であった。現場到着時吐物多量であり、心電図波形は無脈性電気活動であった。ほぼ同時に現場に到着した医師により気管内挿管及び気管内吸引実施。同時にルートを確保しアドレナリンが投与された。医師同乗で救急車にて病院へ搬送中に自己心拍が再開したが、翌日死亡した。

図5

施設職員により心肺蘇生が実施されていた

(3)土砂崩れ事案

平成30年7月6日発生(平成30年西日本豪雨災害)。山間部の住宅裏山が崩落(図7,8)し、80歳女性の頸から下が埋没し動けないと入電があった。緊急性が高いと判断し、救急車内から医師に現場応援を要請した。現場到着前に家族により救出されたとの連絡があった。医師と七山地区在住の非番救急救命士、及び地域住民と協力し傷病者を診療所に一端収容し初期対応した。市内二次病院へ転送を試みたが、東部分署から診療所へ向かうすべての道路が土砂崩れで寸断されていたため、別の救急隊が迂回ルートを用い、発災から約180分後に市内二次病院へ収容した。骨盤骨折、左腓骨近位骨折が認められたが現在は普段どおり生活されている。

図6

裏山の崩落現場

図7

土砂が家屋に入ってきた

4.考察

高齢化が進む中山間地域では今後も救急件数が増加することが推測される。救命率を向上させるためには、早期の医療開始とともに、当地区の医療情報に精通し地域住民と強い絆をもつ医師と救急隊の信頼関係が必要不可欠である。一次医療機関と救急隊との連携にはメリットとデメリットがある。

メリットとして

(1)早期の高度医療開始が可能。3症例以外にも119通報前に家族から医師に直接連絡が行われ、医師が先着している現場が多い。

(2)観察処置に専念できる。早期の現場離脱が可能。救急隊現着時、搬送先を既に選定されているので追加情報を入れるだけで病院選定が不要(現場に医師不在でも搬送先を選定されている)。早期の現場離脱に繋がる。

(3)傷病者や家族にとって安心感につながり、急変時への対応に心強い

可能な限りかかりつけ医が救急車に同乗管理するため、救急隊のみの搬送より傷病者及び同乗家族に精神的安心感を与える。

(4)救急車の適正利用に繋がり医療資源の温存になる。

(5)現場でトリアージが行われ、医師の判断で救急要請を中止できる。

一方でデメリットとしては

(1)応援対応中は診療所が医師不在となる。地域住民の理解が必要不可欠である。

(2)安全管理上の問題。中山間地域という地域性から消防が現場到着まで時間がかかる。応援要請で医師が現場に先に到着した場合、安全管理が行き届かない可能性がある。その場合医師が不測の事態、事故に遭遇するリスクが高まる。

今後は、巡回寺子屋に救急隊も加わり、救急医療に対する住民意識を向上させるべく啓発活動を実施し、阿部医師と共に中山間地域の救命率向上を目指していきたいと考える。

5.結論

(1)中山間地域で地元診療所と連携して救急活動を行った3例を報告した

(2)当地区の医療情報に精通し地域住民と強い絆をもつ医師と救急隊の信頼関係が必要不可欠である

プロフィール

名前永冨康弘(ながとみやすひろ)

所属唐津市消防本部消防署東部分署

出身福岡県福岡市

消防士拝命年平成11年

救急救命士合格年平成17年

趣味ドライブ

ここがポイント

地域の医師との素晴らしい連携事例である。救急隊とすればこれほど頼もしい環境はないだろう。私は医師なので医師の視点からポイントを述べたい。

私が恐れるのは医師の疲弊である。また現場出場は何時間かかったとしても1万円ちょっとにしかならない。それなら院内で外来をやっていた方がずっと儲かる。

(1)呼ぶ回数は最小限度に

医師の出場は救急隊や家族にとって安心をもたらす。しかしここの医師には大きな負担となるので出場の回数は少ないほど良い。ドクターカーの医師は輪番制で休む時間も他の仕事をする時間も別途与えられているし在宅医療の医師は出来高払いで呼ばれるほどお金になる。しかしここの医師は定額かつ全部自分で抱えなければならない。ドクターカーや在学医療とは立場が異なることを覚えていてほしい。

(2)感謝を言葉と態度で明快に示す

こちらの方が大切かもしれない。時間を取られても大した金額にならなくても、自分がこの地域を支えているという自負心があれば続けていける。全ての救急隊員がはっきりと医師に感謝を示してほしい。

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