健康教室2019年12月号
応急処置アップデート
21 溺水
目次
ポイント
1.静かに沈んでいく
2.すぐ人工呼吸
3.諦めない
初めに
児童生徒が溺れることが多い水泳を想定して記載します。日本で溺死が最も多いのは70歳以上の高齢者で次に4歳までの乳幼児です。場所は高齢者は浴槽、乳幼児は浴槽・トイレ・バケツなどです。男性の溺死者数は女性の2倍です。溺水の危険因子として、男性、飲酒、てんかんや不整脈などの基礎疾患が挙げられます。また貧困家庭の小児も危険因子です。
1.静かに沈んでいく
溺れる時には手足をばたつかせて騒がしくすると思っている先生方が多いと思います。しかし実際には音を立てずに静かに沈んでいきます(図1)。私が海水浴中に溺れかけた時には、口を出すだけで精一杯で手足をばたつかせる余裕はありませんでした。幸いにも浅い場所に流されたために今こうして原稿を書いています。水泳中に溺れた経験のある人は皆私と同じ経験をしていますし、助けた人は「いつの間にか沈んでいた」と証言します。
子どもを水辺で遊ばせるときには目を離してはいけません(図2)。
2.すぐに人工呼吸3回
溺水は窒息の一種ですから、呼吸させることが救命の絶対条件です。水中から引き上げた患児に意識がない場合、水面から出た時点ですぐ人工呼吸を3回行います(図3)。
通常の心肺蘇生では人工呼吸は「胸が少し上がる程度」ですが、溺水では思い切り息を吹き込みます(図4)。人工呼吸は陸に患児を上げるまで定期的に続けます。
陸に上げた後は通常の胸骨圧迫30:人工呼吸2の蘇生を行います。蘇生中に嘔吐は頻回に起こります。嘔吐した場合は口内から吐物を掻き出して窒息を防ぎます(図5)。
3.諦めない
溺水の転帰は全く障害を残さないか、死亡もしくは植物人間になるかの両極端に分かれます。ですが長時間水に沈んでいても回復する症例がありますので、特に若年者では諦めてはいけません。水没患者が助かる因子として
・水没時間が短い
・冷水
・若い
・基礎疾患がない
・迅速な蘇生開始
があります。過去には凍った湖の底に88分間沈んでいた4歳男児が助かった例もあります1)。
4.変わったこと
みなさんが一度は聞いたことがある項目を挙げます。
(1)気管に入った水を出す。胃に溜まった水を出す→気管の水は速やかに吸収されます。胃の水を出すことは窒息に繋がるため禁止です。
(2)首のけがの可能性があるので全身固定をする→溺水者で首の怪我をしているのは0.5%に過ぎません。また全身固定は蘇生の妨げとなります。蘇生に成功して感じが手足のしびれを訴えた場合にのみ全身固定をします(図6)。
(3)淡水と海水で治療が異なる→同じです。
(4)肺に水が入っているかいないかで治療が異なる→同じです。転帰を決定する最大の因子は無呼吸の時間で、次に引き上げた時の重症度です。
1)Prehosp Dissaster Med 1995;10:60-2
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