200317救急隊員日誌(189) 小さなドアを開けたその先に

 
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救急隊員日誌
月刊消防2020/2/1,p69
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小さなドアを開けたその先に

「どうすれば消防士になれますか?」小学3年生になると、社会科学習の一環として消防署の訪問がある。「そうだねー。走ったり、筋肉トレーニングをしたり・・・。あ、でも勉強もしなくちゃいけないよ?」という回答が定番か。そんな話をしていたら、別の小学生が言った。「・・・警察官と同じじゃん。」あまりに大きい独り言だったので、その声は車庫いっぱいに響いた。担任の先生は苦笑いをしている。どうやら消防署を訪問する前は警察署だったらしい。そこでもやっぱり「どうすれば警察官になれますか?」と質問したようで、警察官はやはり“体力トレーニングと勉強”と答えたのだそうだ。丸かぶりの回答に拍子抜けさせてしまっただろうな。悪いことをしたな。

そんな中、夕食の時に「なぜ消防士になったか」という話題になった。一人ずつ順番に話を聞いていくと、“消防士の漫画を見てかっこいいと思ったから”“警察よりも消防の方が派手な感じがして”“お父さんが消防団で、火事の時に出かけていく時の背中がかっこいいと思っていた”などなど。チームメイトの過去を聞くのは楽しいもので、“いやいや、警察も十分派手だろう”と突っ込んだり、“親父の背中?それ子供に言われたらめっちゃ嬉しい!”と共感したり・・・。結局分かったのは、「きっかけはみんな同じようなもの」ということだった。でも私たちは、倍率10倍と言われる消防の採用試験を突破して消防士として働いている。合格と不合格の差は一体なんだろう・・・。

昨年は、人類が月面着陸してちょうど50年。各地で宇宙関連のイベントが目白押しだった。ペンネームにもあるように私は宇宙が大好きなので、千葉県つくば市にある宇宙研究開発機構(通称JAXA)へ行った。そこにはいろんな展示物があるのだが、小山宙哉著の漫画「宇宙兄弟」の名場面も大きなパネルで展示されている。私は「夢の扉」というタイトルのパネルの前でその答えを見つけた。

そのパネルは、ベテラン宇宙飛行士が、子供から「どうやったら宇宙飛行士になれますか?」と質問を受けているシーンから始まる。その宇宙飛行士はこのように答えた。「宇宙に行くという夢はとても大きくて、かないっこないって思ってるんじゃないかな?みんなそうやって目の前の大きなドアに驚いて、挑戦することをやめてしまうんだ」「でも大丈夫。本当ははじめからそんな大きなドアなんてない。小さなドアがいっぱいあるだけだ。その小さなドアを開けるたびに、君の夢は少しずつかなっていくよ。手探りでもがむしゃらでもいいから、意地でも次のドアに手を伸ばしてみよう。そんなことを続けていると、君も宇宙遊泳しているかもよ?」と。そのセリフを聞いて「僕、勉強頑張る!」「サッカー頑張る!」と興奮する子供の様子が描かれて、そのパネルは終わっていた。

そうだった。私はもともと体が弱くていつも入院していた。放課後に先生と二人で勉強していたなあ。みんなと違うのが嫌でしょうがなかったけど頑張った。救急救命士の専門学校は毎週テストばかり。退校するやつもいる中みんなで励まし合って乗り切った。それにしても消防学校はきつかった。もともと体力ないし何度教官に怒られたことか。

消防士になりたいと思った時、こんなに辛いことが待っていると知っていたら私はきっと消防士に挑戦しなかっただろう。「まずは、ちょっと頑張って、当たり前のことを当たり前にこなせば開けられるドアをたくさん開けること。」「そして、「ひとつのドアを開けた後で、次のドアに手を伸ばすこと。」そうすれば、いつの間にか僕たちと一緒に消防車に乗ってるかもよ。」今度、小学生に質問されたらそうやって答えてみようかな。

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