221031救急隊員日誌(215)優秀な人の視野には秘密があった!

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2022/04/01, p64
 
 
 
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「優秀な人の視野には秘密があった!」

 高さのついた点滴ポールで、カーテンを引っ掛けてしまう。さあ立ち上がろうと踏み出して右足で吐物を思いっきり踏んでしまう。最近こんなことが多くて年のせいかなあと思っていたら、実はそうでも無いようである。今回はそんなうっかりさんに朗報な話をお届けしたい。

 救急活動も中盤。傷病者をストレッチャーに乗せ換え救急車へ収容するところだ。私はいつもの様子で、ご家族さんに救急車への同乗を求めたのだが、「あの・・30分くらい後からではダメですか?」と彼女は答えた。傷病者に急変はつきものだ。いざという時のために、「奥さんは同乗してください」と答えようとしたその時、「わかりました。少しお待ちください」と隊長。病院と何やら調整し始めた。最終的に、奥さんが携帯電話でいつでも連絡がつく状態にしておくことを前提に、後から向かうというその要求を受け入れることになった。私は奥さんを救急車に同乗させなければならないと思った。反対に隊長は、乗せなくても良いと判断した。私と隊長は一体何が違ったのだろうか・・・。

 活動を振り返ってみる。私は傷病者宅の玄関から上がる時に隊員が搬出しやすいように靴の向きを確認した。私は先行した隊長に追いつくために足早に傷病者のいる居間へ向かった。私は、傷病者に話しかけながらバイタル測定を行った。

 隊長はどうであったか。「あー。そのことか・・。」と気だるそうに隊長が話し出す。「傷病者宅の玄関から上がる時、靴の種類で家族構成を確認したよ。傷病者のいる居間を目指しながら周囲を見渡し生活状況を確認した。そして傷病者を観察し家族に病状を説明しているとき、家族の後ろの壁に子供が書いた絵が飾られているのが見えたんだ。」だから俺は、この家庭には保育園の小さな子供がいるんだなあって思ったんだ。ちょうどお迎えの時間だったから、傷病者の妻に寄り添った対応をしたというだけだけど、それがどうかした?と・・・。

 カーテンに点滴ポールを引っ掛けてしまうのも、隊員が気づいていないモノに隊長が気づいているのも、人間の視野が関係しているかもしれない。そう思った私は、人間の視野について調べてみることにした。すると、人間には「2%の範囲かつ興味を持って見たものしか理解できない」という視野特性があるということがわかった。人間の視野は200°と言われているが、それは単に視界に入っていることに過ぎず脳は認識していない。その中に何があるかということを脳が認識するには、40°の範囲に視線を納めなければならない。これを「有効視野」と言うらしい。ただし有効視野であっても、後から細かいことを聞かれたところで大して覚えていないのだそうだ。見たものを情報としてしっかり認識するにはどうしたら良いか。それは「中心視」と呼ばれる視野で見なければならず、これがたった2°の範囲しかない。物事を考え判断するためには、「2°の中心視で見ること」が人間には必要だったのだ。

 この2°という範囲。非常に狭いのだが簡単に注目できる方法がある。それは「指差し」だ。指差しの先端が「中心視」の2°と言われており、それに呼称を加えた「指差呼称」はあまりにも有名である。

 できる人とうっかりさんでは視野の使い方が違うようだ。私はさっそく中心視を活用して、昨日の妻の服装をズバリ当ててみせた。おかげでその日の夕食が豪華になったのは良かったのだが、妻に指を差したので叱られてしまった。指差呼称は大変結構だが奥さんに指を差すのだけはやめておこう。

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