200605救助の基本+α(44,45) 支持点・支点 太田市消防本部 中央消防署高度救助隊 亀山真樹

 
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基本手技

月刊消防2020/3/1号、4/1号

月刊消防 「救助の基本+α」 投稿原稿

救助の基本+α

支持点・支点

目次

1.はじめに

群馬県太田市消防本部中央消防署高度救助隊の亀山と申します。どうぞよろしくお願いします。

今回は高所救助、低所救助又は牽引等での救助活動において要となる「支持点・支点」について注目しました。一般的に支持点(懸垂点、係留点)は、懸垂ロープや展張ロープを結着する箇所、支点は、カラビナや滑車を介し力の方向を変えるものと定義されています。

救助活動において「支持点・支点」と聞いて先ず思いつくのは、電柱やガードレール、立木などです。強固な地物として比較的どこにでもあるという点では身近な「存在」であり利用価値があるものと考えます。

また+αとして、我々が移動手段の一つとして使う「車両」も見方しだいでは「移動式の支持点・支点」として同等に利用価値があります。しかし、「車両」は、例え大型車両であっても固定された「地物」ではないため、使い方によっては「車両」が動いたり滑ったり部分的に壊れたりと救助活動に支障をきたすだけではなく、重大事故を招く要因になりかねません。

そこで今回は、「車両」がどの程度信頼を得る「支持点・支点」となるかを検証するため「ビークルアンカーの強度」とテーマを設け、廃車車両3台をある条件下で牽引しその結果を数値化しましたので報告させていただきます。

2.太田市消防本部の紹介

当消防本部は、群馬県の東部に位置し、東は栃木県足利市、西は伊勢崎市、南は三国山脈に源を発する利根川を隔てて埼玉県熊谷市、北は桐生市にそれぞれ接しています。

地勢は、標高239メートルの金山とそれに連なる丘陵が北西部に走るほかは、すべて平坦地で、工業生産高では県下一番の工業都市です。

現在は、大泉町より消防事務委託を受託しており、平成31年3月31日現在の管内人口は太田市224,271人、大泉町41,841人、合計266,112人で、面積については太田市175.54平方キロメートル、大泉町17.93平方キロメートル、合計193.59平方キロメートルで、1消防本部・4消防署・4分署・1出張所、職員339人体制で災害に対応しています。(平成31年4月1日現在)

3.支持点・支点(アンカー)とは

ロープを構造物や立木等に結着したり、カラビナや滑車等を通して、ロープの方向を変えたり、力のかかる方向を変える箇所に使うもの。そのものが力に耐え得るものなのか、綿密に点検することが必要です。

4.支持点・支点の目的

支持点は大きく、懸垂ロープを結着する箇所と、展張線を結着する箇所の2つに分かれます。また、三つ打ちロープと編み構造ロープでは、結索方法や、結着方法が異なるので注意します。

表1

支持点・懸垂点・係留点の関係

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図1

【三つ打ちロープ】懸垂点

 

図2

【三つ打ちロープ】係留点

 

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図3

【編み構造ロープ】懸垂点

 

図4

【編み構造ロープ】係留点

5.支持点・支点の種類(形)

(1)三つ打ちロープ【巻き結び】

小綱を折り返し、もしくは抱き合わせのダブルにした状態で巻き結びを作成。支持点の場合、2次支点を考慮した端末の長さを取ります。支点の場合、真中2本をカラビナにかけます。

 

   

図5

三つ打ちロープ【巻き結び】

(2)編み構造ロープ等を使った支点

編み構造ロープを使った場合、ウェービングを使ったラップスリー・プルツーやオープンスリングを使うことが多く、場合によっては直接結着することもあります。

作成方法が数多く存在するため、代表的なものを掲載します。

 

図6

ラップスリー・プルツー

 

図7

ブリッツアンカー

6.ワイヤーロープ及びベルトスリング

代表的なものを掲載します。

 

図8

ワイヤーロープ

 

図9

ベルトスリング

7.支持点・支点が取れる場所

(1)立木

場合によっては強度を大きくするために分散やバックタイをとることもあります。

 

 

図10

立木

 

図11

立木を支持点としたところ

(2)電柱

先端部付近に強度が書いてあるとも言われていますが、なかなか確認をしてから使うことはできません。俗に接地面から約1m上方で強度10tとも言われています。ただし、電柱の太さ、大きさ等で変わります。

 

 

図12

電柱

図13

電柱を支点としたころ

(3)構造物

壁や窓、柱等様々なものがあります。大きければ大きいほど強度は強くなりますが結索の難易度が増し、また当て布(毛布等)が必要となる頻度が増えます。欲しい場所に構造物があるとは限らず、場合によっては遠くから持ってくる場合もあります。

 

 

図14

構造物

 

図15

構造物を支点としたところ

(4)ガードレール、橋の欄干など

基本的な考え方は構造物と同じ。ガードレールや橋の状況によっては年数が経過していたり、強度不足も考えられるので注意が必要。

 

図16

ガードレール

図17

ガードレールを支点としたところ

8. +α

(1)ビークルアンカーについての検証

ビークル(vehicle):自動車、列車、船舶、航空機、ロケットなどを含む、乗り物、輸送機器、輸送手段のこと。主に消防においては車両を指します。

車両が現場に直近部署できれば、自由な位置に短時間で容易にアンカーを作ることができます。ただし、車両が進入できなかったり、地面の状況によっては使用できません。そのため、地面の状況と車両の大きさを変え、アンカー強度がどのくらいになるか検証しました。

1)対象

実験車両車両重量(※車両重量にあっては、年式・グレードによって重量が変化するため、参考値とする)

①軽自動車約650kg

②普通乗用車約1500kg

③ワンボックス車約1300kg

2)方法

数値は展張計を経由させた車両ウィンチで測定しました。滑り始めた数値、もしくは危険と判断した数値を採用しています。

3種類の車両をアスファルト床とコンクリート床に停車させて計測しました。

3)結果

①軽自動車

(a)アスファルト

     

図18

前輪 4KN

 

図19

後輪 3KN

 

図20

前後輪 5KN

(b)コンクリート

 

図21

前輪 5KN

 

図22

後輪 3KN

 

図23

前後輪 6KN

 

図24

参考:軽自動車横転し始め

 

②普通乗用車

(a)アスファルト

     

図25

前輪 7KN

図26

後輪 5KN

 

図27

前後輪 8KN

(b)コンクリート

 

図28

前輪 6.5KN

 

図29

後輪 5KN

 

図30

前後輪 7KN

 

図31

参考:普通乗用車横転し始め

 

③ワンボックス車

(a)アスファルト

 

 

図32

前輪 8KN

 

図33

後輪 4KN

 

図34

前後輪 10KN超

前後輪の測定時10KNを超えたため、それ以上の牽引は危険と判断し、測定を中止しています

(b)コンクリート

 

  

図35

前輪 7.5KN

 

図36

後輪 5KN

 

図37

前後輪 7KN超

 

図38

参考:ワンボックス車横転し始め

表2に結果を示します。

表2

検証結果

 

④砂利道での検証

今回の検証は好天での3車両のみです。様々な条件により数値は変化します。地面が砂利やウィット時は今後の検討課題です。

 

 

図39

ワンボックス車・砂利道

前輪4.5KN

図40

ワンボックス車・砂利道

前後輪6.5KN

 

(2)レスキュー42

当本部では、車両安定化器具としてレスキュー42という器材を保有しています。この機材は車両安定化のほかに、高取支点としても使用することができます。

今回は支点という観点から、代表的なトリポッドを掲載します。

 

 

図41

レスキュー42

 

図42

レスキュー42を支点として使用

9.最後に

「木を見て森を見ず」。ご存知のとおり一部や細部にこだわりすぎて全体を見ていないという意味です。今回の検証は、「支持点・支点」がいかに重要かを再認識するものとなりました。使用する資機材ばかりに目が行きがちですが、重要なことは安全な「支持点・支点」を見極めることです。見極めることは経験と知識が必要です。それを養うには言うまでもなく日頃の鍛錬なしに簡単に得られるものではありません。

これからも色々とテーマを設け「引出し」の数を増やすことを目的に訓練や調査、研究に励んでまいります。この検証が一つの目安となりお役に立てれば幸いであります。ありがとうございました。

図43

太田市消防本部 高度救助隊

【プロフィール】

著者:亀山真樹(かめやままさき)

kameyama.JPG

所属:太田市消防本部

中央消防署高度救助隊

拝命:平成18年

趣味:ランニング、バレーボール

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