211112救急隊員日誌(205)第一印象

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2021/06/01, p79
 
 
空飛ぶクルマ
第一印象
 
毎朝の車両点検では、救急車の「右ウインカーよし、左ウインカーよし、赤色灯よし、サイレンよし」と電気やサイレンを確認し、車内の救急資器材の点検を毎朝実施している。

私が救急隊となって1年が経った頃のこと。いつものように電気やサイレンの確認後、車両の救急資器材の点検を行い、出動に備えて事務室で待機しながら事務処理をしていたところ、その当時の救急隊長に「さっき救急車の電気やサイレン、車内の資器材の点検はしていたけど、救急車のボディが汚れている。救急車は救急隊の顔やから汚れている救急車で現場出動したら、第一印象がダメだ。救急車が汚れていると清潔感が感じられない。自分の家族が救急要請して汚れている救急車が来たら嫌じゃないか」と怒られた。救急隊長の言う通りである。この日以降、毎朝の点検時、電気回りの点検、車内の資器材の点検後、救急車の外観(ボディ)の洗車を行っている。



毎朝救急車の洗車をしていると、いつも消防署の前を散歩している住民から「毎朝、救急車を綺麗にされていて気持ちいいですね。ピカピカで清潔感がありますね」と声を掛けられる。搬送先の看護師からは「毎朝、消防署の前を通って通勤していますが、いつも救急車の洗車をしていてピカピカですね」と褒められる。その言葉の都度、救急車は救急隊の顔であり、第一印象は大事であると感じさせられる。

アメリカ合衆国のプリンストン大学心理学部教授アレクサンダー・トドロフの著書「第一印象の科学」には、第一印象とは「見た目の顔から受ける印象は絶大なものがある。第一印象は信頼性、支配性の要素が形成され、そこに魅力性がプラスされる」と書かれている。国語辞典では「物事や人に接したとき、最初に受けた感じ」と記載されている。
傷病者にとって「救急現場」は非日常的現場であり、一生に一度しかないようなことである。傷病者もその家族も救急隊を選ぶことはできない。自分の知らない救急隊員に搬送されるため、不安や心配もある。第一印象の与える影響が良ければ信用してもらうことができ、その後の救急活動がスムーズに行える。

私が救急隊となった当初、救急車の洗車は若手隊員の仕事であるといった雰囲気であったが、市民からの声を署内で共有することで、今現在は、階級に関係なく勤務する全員で救急車の洗車を行っている。救急隊となった当初の救急隊長の一言が、今でも忘れられない言葉であり、私の救急活動の原点となっている。救急車が輝いていると清々しい気持ちで仕事ができる。さあ、当務開始の車両点検、救急車の洗車から始めよう。

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