211124救急活動事例研究 50 新しい生活様式を取り入れた救急講習の実施指針 (兵庫県 西はりま消防組合 萩原裕基)

 
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近代消防 2021/06/10 (2021/7月号)

救急活動事例研究 20

目次

筆者

 

①名前(読み仮名)

萩原裕基(はぎわらゆうき)

②所属

兵庫県西はりま消防組合相生消防署消防第2課救急係

③出身地

兵庫県相生市

④消防士拝命年

平成26年

⑤救命士合格年

平成26年

⑥趣味

サッカー、ドライブ

3歳になる長女と1歳になる次女と遊ぶこと

秋は秋祭りの練習に没頭しています

 

1.西はりま消防組合について

当消防組合は2013年に発足した消防組合である。管轄地域は、兵庫県南西部から北西部にかけて位置する、相生市、たつの市、宍粟市、太子町、佐用町の3市2町であり、2018年4月からは事務受託により上郡町光都を管轄している。管内は南北に長く、南は瀬戸内海、北は標高1,000mを越える山々が連なっており、多様な地域構成を擁していることから、水難事故や雪山における山岳事故など様々な災害形態に対応している(001)。

消防力は1本部5署3分署4出張所で283名の職員を有し、救急隊は17隊である。で管轄人口約20万人、管轄面積は1,294㎢で、面積は兵庫県下では最大である。2020年中の救急出動件数は8,349件であった。

001

西はりま消防組合

2.目的

2019年12月に中国で最初の新型コロナウイルスへの感染が確認され、2020年1月16日には国内初の感染者が確認された。感染者は瞬く間に増加し、兵庫県では2020年4月7日から緊急事態宣言が発令され、活動の自粛・制限を余儀なくされた。緊急事態宣言は2020年5月25日に解除されたが、各種イベントの開催には新しい生活様式を考慮する必要が生じた。

私の勤務している相生消防署は組合構成市町の一つである相生市にあり、各種イベントは相生市の指針に準じる必要がある。救急業務における普及啓発活動のうち、特に感染が懸念される救急講習について、指針の下で効果的な講習を行うことができるか検討したので報告する。

3.検討項目

相生市の指針を表1、2に示す。

これらをもとに、相生消防署では下記の3項目について検討し指針を作成した(表3)。

(1)個人感染防止対策及びフィジカルディスタンスを考慮した講習会場の設定

(2)感染者発生時の追跡調査を目的とした個人情報の管理

(3)講習の実施要領をはじめとする、講習内容の精査

これらそれぞれについて検討を加えた。

 

     

表1

相生市の指針1

表2

相生市の指針2

表3

相生消防署としての指針

4.相生消防署の指針

(1)個人感染防止対策及びフィジカルディスタンスを考慮した講習会場の設定

表4に指針を示す。

「最大20名に制限」については、講習に起因した感染症が発生した際、消防業務を継続させることを最優先とするため、講師1名で対応可能な人数を考慮して設定した。

(2)感染者発生時の追跡調査を目的とした個人情報の管理

主催者、受講者、見学者を問わず、講習会場に居合わせた全ての人を対象に、感染者発生時の注意喚起や発生源特定を目的として、氏名・住所・電話番号の個人情報を集約した名簿を作成し(007,008)、受講者側の代表者である主催者に最低1か月間管理することとた。

(3)講習の実施要領をはじめとする、講習内容の精査

表5に指針を示す。

表4

個人感染防止対策

表5

講習内容の精査

002

受講者のマスク着用を徹底

003

主催者に受講者用手指消毒薬の準備を依頼

004

受講前に受講者全員の健康状態を確認

005

3密回避を徹底し、受講人数は収容人数の半数もしくは最大20名に制限

006

夏場は熱中症対策のため、空調設備のある会場の設定を徹底

007

個人情報を集約した名簿

008

記入しているところ

009

人工呼吸は実施しない

(写真にX をつけてください)

010

蘇生人形にも X をつけたマスクを着用

011

訓練資器材の消毒

5.指針の具体化

指針をひとまとめにして、【消防署からのお願い】(012)として、救急講習の申し込みもしくは事前相談があった際、主催者へ口頭で詳細説明と資料配布を行い、条件を全て承諾する団体に対して、救急講習を実施している。

受講者名簿は救急講習申し込みもしくは、事前相談に訪れた主催者の方に口頭での説明、記入要領及び1か月間の保管について依頼し、講習当日に名簿が作成されていることを確認している。

012

消防署からのお願い

6.指針の運用

指針策定後(R2.6~R3.3)の講習会開催について表6に示す。今回の取り組みは相生消防署単独での取り組みであるため、西はりま消防組合全体では救命入門コース及びその他の講習の受講者数平均が、指針で定めた20名を上回る結果となっている。

表6

指針策定後の講習会開催結果

7.考察

今回、講習の開催を自粛もしくは躊躇していた主催者に対して、新たな指針を示したことで、講習実施に対する不安を取り除き、徐々にではありますが従来通りの講習実施にむけた環境・雰囲気を取り戻しつつある。

指針を策定することで、

(1)講習申込時の対応

(2)講習に対する問合せへの対応

(3)講習会実施中の感染防止対策等

が明確化され、効果的かつ安全な救急講習が実施できるようになった。また、主催者や受講者の方からは、感染防止を徹底した指針が策定されていることで、安心して講習を開催、受講することができたとの意見も多く寄せられた。

逆に指針により講習の受講人数を制限(最高20人)と制限したことで、講習の開催を見送るなど、主催者側へ負担をかけてしまうような事象もあり、調整に苦慮したことも経験した。この経験を踏まえ、現在は受講人数が20人をオーバーしそうな場合は、講習を複数回に分けて実施(例:4月1日に30人の講習申込みがあった場合、4月1日に15人、4月2日に15人で実施するように調整)するか、講習時間内で受講者を分割(例:30人で1時間の講習申込みがあった場合、15人で30分ずつに分割)することで、受講人数を制限して講習が実施できるように対応している。

新型コロナウイルス感染症への対策は、市町村や保健所に委ねられることが多くある。その中で、広域消防である当消防組合は複数の市町で構成され、管内を管轄する保健所も2か所であることから、統一したマニュアルの作成には苦慮するところである。今回のように、新しい生活様式に合わせた普及啓発活動の実施については、各市町を管轄する署単位で担当部局との調整が必要不可欠であり、ワクチン接種が開始されている中でも、感染拡大の終息目途が立たない今、地域の状況を考慮し、普及啓発活動の継続及び中止も遅滞なく判断できる体制の構築が求められるところである。

今後は、今回策定した指針を有効に活用しながら、コロナ禍においても従来通りの救急講習を実施し、応急手当及び救命処置の有効性・重要性を一般市民に伝えることで、より多くの傷病者の命を救い、生存率・社会復帰率を向上させることに繋げていけるよう、今後も努力していこうと考えている。

8.結論

(1)新しい生活様式を取り入れた救急講習の実施指針を策定した

(2)実施指針により効果的かつ安全な救急講習が実施できるようになった

 

ここがポイント

新型コロナ蔓延により一時期は救命講習が開けなくなった。その後はそれぞれの工夫により救命講習を開くようになったが、内容は新型コロナ以前ものもから大きく減退している。例えば旭川市のホームページでは一般救命講習は座学が原則で実技は救急隊員による展示のみと書かれている。人形やAEDに触らずに手技が会得できるとは到底思えないが、現状では致し方ないところである。世界的に見てもヨーロッパ諸国では救命講習の中止・縮小が相次いでおり、アメリカからは病院外心停止患者の死亡率上昇、バイスタンダー心肺蘇生率の低下が報告されている。ワクチンが一巡するまではこの状況は変わらないだろう。

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