220130_VOICE#67_あいさつ

 
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主張

 

月刊消防 2021/08/01, p65

月刊消防「VOICE」

 
 
 高校を卒業した頃の私は、今でいうフリーターをしており、主に郵便の配達業務を行っていました。郵便物のほとんどは建物の郵便受けに配達するのですが、手渡しとなることもあります。呼び鈴を鳴らして、「○○さん、郵便です。」や「○○さん、書留です。」と述べてその場でしばらく待ち、多くの場合は一期一会というと大げさですが、相手方と初対面になります。その後に書留の場合は、「こんにちは、郵便局です。書留ですので、印鑑をお願いします。」と伝え、印鑑を頂戴した後に郵便物を渡しつつ、「ありがとうございました。」とあいさつを述べて1件の配達が終了となり、これを都度繰り返していきます。
 
 ある真夏の暑い日、とあるお宅に配達した際に「あれっ?」と思うことがありました。それは私が、「ありがとうございました。」と述べた後に、「お疲れさまでした。」と返答されたことです。読者の皆さんにここで違和感などないかもしれませんが、当時の返答の多くは、「ご苦労さまでした。」でしたので、私はこの時、違和感を覚えたのだと思います。そしてこの日を境に、このお宅へ配達することが、なんだかよく分からないのですが、とても嬉しかったことを覚えています。

 
 約1年が経過して、私は消防職員の採用試験を受けました。そのときの作文試験の題材は『最近心に残った出来事』だったと記憶しています。私はこの『あいさつ』のことを回答用紙に書き、結果、現在に至っています。実は初任の頃、上司や先輩に対してこのあいさつをしていたところ、「消防は『ご苦労さま』だ!」と毎回指導を受けていました。私は懲りずにこれを受け入れませんでしたが、今でもこれを正しいと思えているのは、あの夏の日の出来事のお陰です。
 
 さて、今日の私ですが、どちらのあいさつも相手に感謝の気持ちを伝える言葉ですから、目くじらを立てて部下や後輩を指導することはしていません。むしろ、その気持ちをしっかり伝え、かつ伝わることが大切だと思っています。近年はメールやSNSが盛んに活用され、伝達手段として文字が重要視される傾向にはありますが、やはりたった一声の『あいさつ』はとても気持ちがいいものです。私だけかもしれませんが。
 
 

主張
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