220307最新救急事情(223-2)新型コロウイルスと空気感染

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/08/20日号 p89

最新救急事情(223-2)

新型コロウイルスと空気感染

 

新型コロナの中で現在急速に感染比率を高めているインド株(デルタ株)は感染力が高い。その強さは「瞬間的接触で感染」1)と表現されるほどである。その高さをもたらしているのが空気感染とされる。今回は空気感染についての文献を紹介する。

 

目次

空気感染とは

 

病原体が空気中を漂うことで、それを吸入した人が感染することを空気感染と呼ぶ。マスコミではエアロゾル感染と称されていることが多い。この連載でも2020年10月号で空気感染について解説している。

新型コロナが空気感染を起こすことはWHOは当初否定していた。2020年の1月末に中国から空気感染についての報告が出た2,3)のを皮切りに多くの報告が出るようになり、WHOは2020年7月になって空気感染を認めたという経緯がある。

 

歯科医のガイドライン

 

仕事中にコロナにかかりやすいといえば何と言っても歯科医だろう。歯科領域で、EU加盟国に加えスコットランド、スイス、イギリスのガイドラインを比較検討した報告4)が出ている。比較項目は、トリアージ、うがい、個人防御装備PPE、感染の可能性がある人への対処方法である。またこれらガイドラインをWHO、アメリカCDCなどのガイドラインとの比較も行なった。

集まったガイドライン数は30。すべて2020年中に発表されたものである。全てのガイドラインで患者トリアージと感染が疑われるものへの急がない治療の延期を求めている。うがい薬として推奨しているのは1-1.5%の過酸化水素水(オキシドール)であり、うがいはウイルスの繁殖を防ぐためとしている(24ガイドライン/全30。以下同じ)。PPEについてはサージカルマスクが21/30、N95マスクもしくは同等の高性能マスクが16/30、N96マスクとフェイスシールドを併用(24/30)となった。感染疑い患者に対しては全てのガイドラインで最大のPPEを装着し、個室で治療することを求めている。

 

N95マスクでも容易にすり抜ける

 

歯科医のガイドラインではN95マスクが推奨されているが、物理的にはザル状態である。コロナウイルスの直径は100nm。感染症の時に用いるN95マスクやN98マスクはフィルターの穴が300nmであり、コロナウイルスはマスクを容易にすり抜けることができる。コロナウイルスが通過できないようなフィルターが開発されてはいるがかなり高価で消防で大量に買うことはできない。N95マスクでもフィルター面に銀を塗布することによってウイルスを不活性化することができると書かれているが、このマスクも高価になるだろう5)。

 

胸骨圧迫と空気感染

 

救急隊や救助隊が患者から新型コロナに感染するリスクはどのくらいなのか。過去の論文を調べるメタアナリシスの手法で研究した論文がでている。

まずは2020年6月の論文6)。この時点ではコホート(一つの集団を長期に追うもの)研究2件、コントロール研究1件、症例報告5年、マネキンを使った模擬実験が3件を調査対象としている。著者が調べたところ、胸骨圧迫や除細動によって空気中にウイルスがばらまかれることも空気感染が起こることも明らかな証拠は見つからなかった。マネキンを使った実験では、空気感染を防ぐ装備を治療者がつけることによって患者への対応が遅くなることが示された。

次は2021年6月に出た論文7)。開放空間での胸骨圧迫で感染するかというコンピュータシミュレーション実験である。胸骨圧迫による体液の移動や熱の移動がエアロゾル発生にどのように影響を及ぼすか調べた。結果として、風の有無と温度湿度で危険性は大きく変化した。筆者らは、胸骨圧迫を開始する前に特に感謝の風上に位置してエアロゾルの暴露を防ぐように勧めている。

 

アクリル板越しの気管挿管ではビデオ喉頭鏡は不利

 

最後に面白いものを見つけたので紹介したい。新型コロナ患者には余程の理由がない限り気管挿管しないようになっている。それでも挿管する時には喉頭鏡は何を選んだら良いのか、サウジアラビアから報告が出ている8)。

53人の麻酔科医を集めて、人形に挿管させる研究である。使った喉頭鏡はビデオ喉頭鏡と通常のマッキントッシュ型喉頭鏡。患者条件としてはアクリル板の箱を人形の頭にかぶせてその箱の中に麻酔科医が腕を入れるパターンと、患者の頭から腹までビニールで覆い、その隙間から挿管するパターンである。挿管にどれくらい時間がかかるか調べた。結果は、アクリル板ではビデオ喉頭鏡39秒、マッキントッシュ型喉頭鏡27秒。ビニールではビデオ喉頭鏡47秒、マッキントッシュ型喉頭鏡37秒であった。全体で最も時間がかかったのはビニール+ビデオ喉頭鏡。麻酔科医の印象としてもマッキントッシュ型喉頭鏡の方が挿管は簡単との印象であった。一方、1回目の試技で挿管できたのはビデオ喉頭鏡では100%であったが、マッキントッシュ型喉頭鏡ではアクリル板で98%、ビニールで96%であった。

マッキントッシュ型喉頭鏡は口の中にブレードをさっと入れて喉頭展開できるの対し、ビデオ喉頭鏡はゆっくり挿入する必要があるのに加え、筆者らが使っているものは外部モニター用にケーブルが喉頭鏡本体から伸びている。このため動作が遅くなったのだろう。

 

文献

 

1)Forbes Japan, 2021/06/30 YAHOO! JAPAN配信記事。https://news.yahoo.co.jp/articles/c61d4595e7af15ee25be076f927e80a0a47d0f65

2)Jiang, Y: medRxiv 2020.02.25.20028043; doi:https://doi.org/10.1101/2020.02.25.20028043.

3)Emerg. Infect. Dis. 2020;26:1343–1345.

4)Becker K: Clin Oral Implants Res 2021 Jun 30, online ahead

5)Antimicrob Resist Infect Control 2020:Jul 6;9(1):100

6)Resuscitation 2020 Jub;151:59-66

7)Emerg Med J. 2021 Jun 29; Online ahead

8)Saudi J Anaesth 2021 Apr-Jun;15(2):86-92

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