2022 雑誌 健康教室 2021年11月号 p52-3
応急処置アップデート the movie
#20
眼外傷
目次
動画解説
今回は目のけがです。目のけがで気をつけるべきことは、遅れて視力障害が出てくることです。そのため、ちょっと強い外力が眼球にかかったと思えば必ず眼科受診を勧めることと、定期的に経過を聞くことが大切です。
001
眼外傷で最も注意すべきは、遅発性の視力障害です。外力で傷ついた網膜がゆっくり剥離してくるものです。眼といえば経過観察。覚えておきましょう
002
眼窩周囲の打撲は冷却しつつ圧迫します。ます。このあたりの皮膚は薄く、皮下の組織も結合が緩いので、パンダ状の派手な血腫ができます。冷却と圧迫で血腫の発生を最小限にします。
003
眼球自体に外傷が及んでいるようなら両目とも隠して病院に搬送します。眼球は左右同じ動きをします。健側も覆わないと、患側の眼球も動いてしまいます。
004
異物が眼球に入っている場合は、眼球への圧力を避けるために紙コップを眼窩に置いて包帯巻きします。
005
受傷直後から視力に異常があれば誰でも気づきます。怖いのは数日から数け月経ってからの視力障害です。繰り返しますが、経過観察はしっかり行いましょう。
アップデート
1.経過観察の大切さ
目を強打した数日から数ヶ月経ってから眼科で手術を受けた例を経験したという先生は結構いるようです。旭川近郊のH先生は、来室した子の目が赤くなっていることを見つけて眼科受診を勧めたところ手術になった例を経験しています。結膜血腫の原因は日曜日のバトミントン大会で目にシャトルが当たったことでした。大会から4日後、頭痛の訴えで来室した時に目の異常に気づいそうで、観察の大切さがわかります。手術の内容は不明ですが、網膜剥離を起こしていたものと思われます。
ドイツでの18歳までの外傷性網膜剥離患者25例を検討した結果1)では、平均年齢15.3歳で男子が77%でした。網膜剥離の発生は受傷後3日から11年で平均は3.5ヶ月。受傷直後に発見された剥離は皆無ですし、最長で11年後に剥離が発見される例もあるので、平均の3.5ヶ月間は気を抜かず観察する必要があります。症状は1/3の患者では動画で示したような急性の視力障害、2/3は眼球内の色素沈着や索状構造物に起因する視力低下で発見されています。
2.遅発性網膜剥離の仕組み
眼球は薄い網膜を厚くて硬い強膜が覆っています。内側に網膜が眼球に過大な力が加わると眼球が歪みます(zu001)。この時外側の強膜のずれに内側の網膜がついていけない時は網膜が裂けてしまいます(zu002)。この裂け目を網膜裂孔といいます。裂けた部分が小さければ視野欠損もわずかですし、健側眼が視野を補うため、受傷直後には気づかないことになります。次に目の中にある水が裂け目を通じて網膜の裏側に入り込むと、今までくっついていた網膜も剥がれていき、視野欠損が拡大します(zu003)。
治療は、網膜剥離の範囲が狭い場合は外来でレーザーを照射し網膜にやけどを起こすことで網膜を固定します(zu004)。網膜剥離が広い場合はレーザーに加えて網膜復位手術を行います(005)。1週間程度の入院が必要です。
文献
1)Klin Monbl Augenheilkd 2013 sep;230(9):879-87
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
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唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
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旭川医療センター病理診断科
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