月刊消防2022/1/01
「空気呼吸器」について
兵庫県小野市消防本部
藤原嘉晃・藤原潤
目次
著者
所属 小野市消防本部消防課救助係
出身地 兵庫県加古川市
拝命 令和元年
趣味 ジョギング、キャンプ
所属 小野市消防本部消防課救助係
出身地 兵庫県小野市
拝命 平成5年4月
趣味 釣り
1 はじめに
兵庫県小野市は、東播磨地域のほぼ中央に位置し、東経134度56分、北緯34度50分の地点にあります。市の面積は92.94㎢で、東西に11.8㎞、南北に11.2㎞の広がりを有し、 東と北は加東市、西は加西市、南は三木市及び加古川市にそれぞれ接しています。
小野市の大部分は平地で、西南端の一部に山地があり、市域の西よりを県下最大の流域を持つ加古川が北から南へ流れ、左岸には河岸段丘が発達しています。臨海部に比べると内陸性であるが、瀬戸内式気候に属し、温暖で暮らしやすい気候です。年間降水量は、平均約1,000mmで全国的にみても少ない値となっています。
(データ1 兵庫県小野市の位置)
2 消防本部の紹介
管轄面積92.94㎢、人口約5万人の当市は1本部2分署の総職員数73名で市民の安心・安全を守っています。すべての職員が消防・救急・救助と様々な災害現場に対応する兼任体制で業務しており、隔日勤務者は夜間に指令業務もこなします。
令和2年の救助出動件数は26件となっており、一昨年比でみると減少傾向(令和元年35件)にありますが、いつ何処で起こるかわからない災害現場に備え、火災救助対応から水難救助や山岳救助まで幅広い救助現場を想定し、日々訓練に励んでいます。
今回は多種多様な資機材がある中で主に火災現場、救助現場で使用する空気呼吸器について紹介したいと思います。
3 空気呼吸器について
様々な災害現場での有毒有害ガス、酸素欠乏空気等から我々消防隊員を保護する呼吸保護器具は隊員の生命を守るうえで消防活動上欠かせないものです。
呼吸保護器具には代表的に空気呼吸器と酸素呼吸器等があります。当本部ではライフゼムプレッシャデマンド形のZ30という空気呼吸器を採用しており、軽量3.5㎏で呼気・吸気抵抗を低減し呼吸が楽にできる仕様になっています。また、空気呼吸器用の面体は個人貸与しており、個人で管理を徹底しています。一般的に空気呼吸器はボンベ内の圧縮された空気を減圧させた状態で面体に供給し、呼気をそのまま外気に放出します。
また、着装者の呼吸量に応じて空気を供給するデマンド形と面体内を常時陽圧に保つプレッシャデマンド形があり、近年このプレッシャデマンド形が主流になっています。
デマンド形:デマンド形は息を吸い込む時に、面体内が負圧になってボンベから空気が送られるものです。
プレッシャデマンド形:プレッシャデマンド形は面体と顔の間に多少隙間があっても面体内部が陽圧のため外部から煙やガスが進入しにくいといったメリットがあります。
4 各部の名称と機能
- 中圧ホース
減圧弁からプレッシャデマンド弁に中圧空気を通す耐圧ホース。
- プレッシャデマンド弁
中圧空気を大気圧付近(約0.1MPaS)にまで減圧し、かつ、面体内の圧力を陽圧に保つプレッシャデマンド機能と、着装後の最初の吸気で面体内の圧力を陽圧に切り替える自動陽圧機能を持った弁で、呼吸に応じて作動する。
- 減圧弁
高圧空気を約0.6MPa(中圧空気)に減圧する装置。
- 呼気弁
呼気した時に開き、吸気した時に閉じる弁。
- 陽圧ロックノブ
プレッシャデマンド機能をOFFにするためのノブ。
- バイパス弁
使用中にプレッシャデマンド弁が故障した場合に、減圧弁側の空気がプレッシャデマンド弁を経由しないで直接供給するための作動弁で、また、点検使用後に器械内の圧力を逃がすためにも使用する。
- そく止弁
ボンベに付属する開閉用の弁。
- 背負具(ハーネス)
呼吸器を背中に着装するための装置。
5 空気呼吸器の点検及び着装要領
空気呼吸器は事前に十分な点検整備を行ってください。着装前に再度点検し、安全性を確認します。空気呼吸器だけでなく、消防業務において各種資器材の事前の点検整備を怠ってしまうと実際の災害現場での活動隊員の安全が損なわれ、重大な事故につながりかねませんので細心の注意を払います。
また、ボンベは「高圧ガス保安法」という法律で容器検査期間が定められています。鋼製は5年、FRP複合容器は3年ごとに容器の再検査を受けなければなりません。また、FRP複合容器には使用期限があり、製造後15年が経過したものは廃棄処分しなければなりません。当本部においても保管する全てのボンベを法律に基づいて適切に管理しています。
- 着装前点検の流れ
- 呼吸器本体を着装前に目視で外観点検を行い、安全の確認を行います。その際、ボンベに亀裂等がないか、各部の取り付けが適正かを確認し、Oリングに傷がないかも同時に点検します。
- バイパス弁が閉鎖されているのを確認し、そく止弁を徐々に開放します。圧力ゲージの上昇を確認後、そく止弁を全開放し、半戻しにします。全開放半戻しにする理由については全開放後に何らかの力が加わることによりさらに開放方向に過度に力が伝わってしまい、ボンベ本体が破損してしまう可能性があるからです。
- そく止弁開放時は圧力ゲージを左手に持ち、ガラス面を下に向けます。(開放する際に空気の圧力が一気にかかり圧力ゲージのガラス面が割れる可能性があるため。)その後、ガラス面を上に向け、圧力を確認します。
- ボンベの残圧を確認後、面体を着装し、深く呼吸をします。プレッシャデマンド弁から空気が供給されれば自動陽圧は良好ですので呼吸を止め、陽圧ロックノブで陽圧をオフにします。
- そく止弁を閉鎖し、バイパス弁を開放させます。そこで、圧力指示計の降下とともに始動設定圧力付近で警報作動の有無を確認します。圧力が抜き切ればバイパス弁を閉鎖します。
- 外観点検から陽圧作動及び警報作動等の一連の点検が完了すればいよいよ呼吸器本体を着装します。
- 本体着装
本体を背負う際は呼吸器を立て、保護枠とバンド部分をしっかりと保持し、周囲の安全を確認します。
背負うことができたら、脇バンド→胸バンド→腰バンドの順に締付けます。その際、バンドの締付けが甘いと活動時に呼吸器本体がずれてしまうおそれがあるので注意してください。また、締付けた際のバンドの余長は適切に整理します。
本体を着装し、面体を着けた際に陽圧作動の確認、気密点検を必ず行い、不具合があれば活動前にすぐに呼吸器の交換を行ってください。
6 呼吸器着装時の活動時間の算出
活動時間の求め方
ボンベ容量(L)×{ボンベ圧力(MPa)−警報器始動設定圧力(MPa)}×10
÷
隊員の毎分の空気消費量(L/min)
- 軽作業40(L/min) 歩く、早歩きする。
- 中作業60(L/min) 小走り、軽いものを持って走る。
- 重作業80(L/min) 救助活動(屋内進入)
※個人差があります。
呼吸器を着装し、屋内進入を開始する際は、必ず圧力確認を行い、残圧が最も少ない隊員の活動時間に合わせ、活動を行います。
空気呼吸器の使用時間は、使用開始前の圧力、作業内容によって異なります。活動中も、適宜ボンベの残圧確認を行ってください。
7 緊急ボンベ交換
当市で行っている空気呼吸器を使用した取り組みのほんの一部をご紹介します。
緊急ボンベ交換とは、活動のなかでボンベ内の空気残圧が残り少なくなってしまった際に、面体を着装したまま本体を離脱し、残圧の少ないボンベと新しく用意したボンベを交換するものです。
この方法は空気呼吸器の仕組みを十分理解し、交換要領の手技を迅速に行わなければなりません。
交換要領については次のとおりです。
① 交換用ボンベを着装者の近くに置きます。
② 面体を着装したまま呼吸器本体を離脱、交換用ボンベの横に置きます。
③ 圧力指示計で残圧を確認後、ボンベ固定ベルトを外したら大きく呼吸をし、そく止弁を閉鎖します。
④ 圧力指示計の降下とともにバイパス弁を開くことにより早く空気を抜くことができます。
警報作動及び指針0を確認後、迅速に減圧弁を取り外し、ボンベを新しいものに取り換えます。
⑤ 新たなボンベを設定、取り付け方向と角度に注意しながら再び減圧弁を取り付け、そく止弁を全開放半戻しさせます。
このボンベ取り外しから取り付けまでの間、空気供給がなくなるため呼吸が出来なくなります。減圧弁の取り付けを確実に行い、迅速な手技が求められます。
⑥ ボンベ交換後、固定ベルトをし、ボンベが確実に取り付けられているか確認します。
⑦ 本体を再び着装し、緊急ボンベ交換の完了です。
8 終わりに
消防車両には数多くの資器材が積載されていますが、空気呼吸器はその中の一つにしか過ぎません。その数多くある資器材一つ一つの点検整備、取扱い方法に誤りが生じないよう日々の訓練と研修を繰り返し行っています。
近年、超高齢社会に伴う救急件数の増加、多種多様な自然災害による大規模事案の発生と、消防組織の需要がより一層高まりをみせています。そんなめまぐるしく変化する社会の中でも我々消防吏員は組織一体となり、市民の生命・身体及び財産を守り小野市の安全・安心のため努力を重ね更なる進化を遂げていきたいと思います。
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