230103最新救急事情(229)ウクライナ侵攻と医学雑誌

 
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最新救急事情

月刊消防 2022/06/01号 p64-5

最新救急事情(229)
ウクライナ侵攻と医学雑誌

 

230103最新救急事情(229)ウクライナ侵攻と医学雑誌

2022年2月24日木曜日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。去年の暮れからロシアはウクライナに侵攻するという話がアメリカやイギリスから出ていた1)。また2022/2/19にはアメリカのバイデン大統領が「ロシアのウクライナ侵攻が数日中に始まる」と発表した2)。しかし、日本を含め世界中の論調は懐疑的であった。私も「侵攻はないだろう」と思っていた。ウクライナは国土が広く小麦がたくさん取れるだけで地下資源に富んでいるという話は聞いたこともないし(その点では湾岸戦争は石油の奪い合いなので納得できた)、21世紀にもなって戦争が始めるなんて信じられなかったからだ。しかし、実際に戦争は始まってしまった。
今回は医学雑誌での声明を読んでみる。

 

目次

Sciencec(アメリカ)

 

誰もが知る世界最高峰の科学雑誌であるScienceでは16の記事と28のニュースを載せている。
侵略当日の2022/2/24付記事3)は「ウクライナ侵攻をやめろとロシアの科学者が訴える」とある。ウクライナ侵攻の直後にロシアの教授が授業をキャンセルして学生たちと戦争について意見交換をしたという記事である。
ウクライナに関するEditorialは2つある。おそらく最もScienceの立場を表していると思われるのが2022/3/4付の記事4)で、ウクライナの科学の再構築を行うべきであるというもの。ロシアに関しては国際活動がロシアの政府・経済・軍隊を間接的にも支援しないように注意すべきとしている。

 

New England journal of Medicine(NEJM)(アメリカ)

臨床系の世界最高峰雑誌であるNEJMには執筆段階でウクライナ侵攻の記事は見られなかった。この雑誌は週刊誌なので書けばすぐ発表できるはず。意図的に避けているのかもしれない。

 

JAMA(アメリカ)

2022年4月1日付で2つの記事が出ている。「視点」のコーナーで「医療機関が攻撃を受けている」という記事5)。国連の無力さと改革を訴える内容となっている。2022年3月31日、世界保健機関WHOはウクライナで少なくとも82の医療機関が攻撃を受け、72名が死亡し43名のけが人が出ている。ほとんどの攻撃は重火器によるもので攻撃対象は医療機関とそこにいる職員及び患者、さらには医療供給サービスである。マリウポリでは医療従事者と患者の少なくとも17名が死亡し、この中には妊婦も含まれていた。これらの攻撃は直接的な死亡や外傷を引き起こすだけではなく、腎不全患者の透析や新型コロナなどの感染症への治療へも影響する」と現状を述べている。この記事によると医療機関への攻撃はWHOに監視システムがあるのだが、攻撃の対象と使用された武器、死傷者だけを報告するもので、どこで誰によって引き起こされたか項目がない。また紛争国では事例を過小に報告するため信用できない。国連安全保障理事会ではロシアが拒否権をもっているため機能せず、国連人権委員会では子供への虐待についても特定の国がリストから外れているなど不備がある。これらを改善することでウクライナをはじめとする紛争地域での悲劇的な状況の改善につながるとしている。またこれら戦争犯罪に関わったものを法廷の場に引きずり出し判決を受けさせる必要についても論じている。

 

Nature(イギリス)

NatureはScienceと並ぶ世界最高峰の科学雑誌である。雑誌の記事で9編、Nature nwesとして4編が載っている。Natureとしての立場は2022/3/4のEditorialとして書かれている6)。「ロシアからの研究をボイコットする世界的な動きがある。Nautureはその動きに理解は示すが賛同しない。ロシアからの研究論文も受け付ける。これは科学が誰も置き去りにしないために必要なことである」と述べている。

 

Lancet(イギリス)

NEJMと並ぶイギリスの臨床系医学雑誌であるLancetには2022/4/2までに40の記事がある。去年2021/12/18付の記事ではすでにロシアとウクライナの緊張状態についての解説が載っており7)、Lancetがウクライナ侵攻に強い関心を持っていることがわかる。論調も今回紹介する雑誌の中で最も強硬である。2022年3月24日付SIGHT Commision8)ではロシアによる民間人・医療従事者・インフラへの攻撃を非難し、国連総会でのロシア非難決議を支持すると書かれている。また世界の保健コミュニティに対して難民支援と戦争犯罪の記録を求めている。さらにロシア国内での言論弾圧の中止も要求している。

文献

1)BBC NEWS JAPAN, 2021/12/24
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-59767571
2)BBC NEWS JAPAN, 2022/2/19
https://www.bbc.com/japanese/video-60442175
3)https://www.science.org/content/article/step-nowhere-russian-scientist-organizes-protest-ukraine-war
doi: 10.1126/science.ada1681
4)SCIENCE  4 Mar 2022 , Vol 375, Issue 6585,  p1071
5)JAMA Viewpoint April 1, 2022
6)Nature 04 March 2022, EDITORIAL, 603, p:201 (2022)
7)The Lancet Vol. 398No. 10318 p2222 Published: December 18, 2021 WORLD REPORT
8)The Lancet COMMENT, APRIL 02, 2022, VOLUME 399, ISSUE 10332, P1284-1287,

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