090712ガイドライン2010:バイスタンダーは人工呼吸不要

 
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090712ガイドライン2010:バイスタンダーは人工呼吸不要

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 AHAでは条件付ながら人工呼吸を省略したHands only CPRが蘇生の第一選択になったのは以前お伝えした。今回はヨーロッパ蘇生協議会からも同様の声明文が出たので紹介する。アメリカ・ヨーロッパと同じ方法で統一されたことで、ガイドライン2010ではバイスタンダーCPRで人工呼吸が省略されることが確実となった。

救命講習にコースを設ける

 この声明はヨーロッパ蘇生協議会の機関誌であるResuscitationに掲載されたものである1)。ここでは救命講習を難易度別に3コース設けて、入門編では胸骨圧迫のみを教えるよう提案している。

 具体的には、救命講習に金・銀・銅の3コース作り、上位は下位の発展形とする。入門編である銅コースは地域住民を対象とし、突然倒れた成人に対して胸骨圧迫を効果的にかつ確実に行うことを目標とする。実習はシンプルに、講習は短く、人工呼吸は教えない。このコースでは修了後にはフォローアップトレーニングが必要であることを伝えて銀コースの受講を促す。銀コースは銅コースのリフレッシャーコースである。ここでは胸骨圧迫の手技の確認がメインとなる。加えて、いくつかの病態では人工呼吸が必要であることも伝えて人工呼吸のやり方も教えるが、人工呼吸を嫌がる受講者には無理にやらなくてもいいことも伝える。金コースは、救命が仕事の一部でありその救命には人工呼吸が欠かせない人たち、例えば小児相手の保母さんや溺水相手のライフセーバーなどを受講者とする。ここでは蘇生のフルコースを教える。

小児や呼吸不全は少ない

 AHAでHands only CPRを提唱した際には、この方法が「心臓が原因」で「目の前で卒倒」した「成人」のみに適用されるとしていた。しかしヨーロッパの声明はこの条件をなくし、事実上バイスタンダーCPRを胸骨圧迫のみとした。なぜ条件をなくしたか。声明ではエビデンスを並べて論じている。つまり、

(1)短時間の胸骨圧迫のみCPRは有効である
(2)訓練された救助者でさえしっかりしたCPRは難しいのに、さらに人工呼吸までやろうとする
(3)難しいことより簡単なほうが覚えられる
(4)小児や呼吸不全による心停止は重要だがまれである

 人工呼吸が不要なのはCPRが短時間で終了する場合だけであり、長時間蘇生処置を行うときには人工呼吸は必要である。しかしバイスタンダーが延々とCPRを行うとは考えづらいし、素早い119番通報で人工呼吸なしの時間は短くできる。胸骨圧迫だけのCPRに比べて人工呼吸を追加したCPRでは手技的にも時間的にも雑なCPRになる。小児と呼吸不全については。この病態で蘇生させるためには人工呼吸は必要であるが、西側諸国でそのような症例は全体の2%であり、わずかの症例のための人工呼吸がバイスタンダーCPRを妨げるよりは、人工呼吸を廃してバイスタンダーCPRを増やした方がいいとしている。

AHAより単純に

 AHAが発表した胸骨圧迫のみCPRについても言及している。AHAのアルゴリズムでは卒倒した患者が「成人」か「小児」か判断させて、次にその原因が「心臓」か「心臓以外」かを判断させる。この判断はバイスタンダーという名の医学的素人が行うことになっている。さらに自分は「全くの素人」か、「訓練を受けたことのあっても自信のない素人」か、「訓練して自信のある素人」か自分で判断する。それらの判断を基に蘇生法を決定し、ようやくCPRに着手できる。考えてみればあまりに複雑である。講習をランク付けし、受けたコースによって自分のできる範囲が明らかになっていれば、この煩わしさから解放される。

全く呼吸しないのも良くない

 一方、全く呼吸をさせないのも良くないらしい。ブタを用いて1分間に10回呼吸させた群と2回呼吸させた群での比較をしている2)。それによると、頸動脈の血流量は10回の呼吸に比べて2回の呼吸では半分に、脳の酸素分圧は1/6になった。この原因として、呼吸が完全に止まると肺の虚脱が急速に進むため、肺にある微小血管も潰れてしまう。そのため肺動脈抵抗が増し、体全体としても抵抗が増して血流量が低下するとしている。また、今回のデータは他の動物実験結果に比べても数値が悪い。この原因として筆者らは、通常の動物実験ではあえぎ呼吸が残り肺の完全な虚脱が避けられるためと考察している。逆に考えれば、今まで言われていたとおり、死戦期のあえぎ呼吸があるうちは人工呼吸は行わなくていいということになる。

 この論文を載せた雑誌の査読者がコメントを寄せている。「この強力な結果にもかかわらず、過去に低換気が良くないとした動物実験や人での研究は全くない」とし、「逆にほとんどの人はバイスタンダーCPRをしないという報告は山ほどある(ので低換気が良くないと批判するより胸骨圧迫だけでもして欲しい)」と述べている3)。しっかりしたデータではあるが発表した時期が悪かったようだ。

講習でコースを作るだけ

 G2010の発表まで1年ちょっととなった。2005で多くの変更をしたためか、その後は人工呼吸以外にはこれと言って目新しいものはないようだ。理論では新しいものはなく、講習の仕組みを変える程度である。だいたい、AEDが入っても人工呼吸がなくなっても救命講習は3時間のままというのは考えれば変な話である。聞く話ではそれぞれの消防でいろいろ工夫を凝らして講習を行っているらしいので、講習のコース作りも案外簡単に実現できるのかなとも思う。講師・受講者ともに負担が少なく得るものが多い講習を目指して知恵を絞って欲しい。

文献
1)Handley AJ. Resuscitation 2009 Epub
2)Respir Care 2008;53:862-70
3)Respir Care 2008;53:855-7


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https://ops.tama.blue/

09.9.6/6:23 PM

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