070704「病院前ACLS有効」は統計のマジック

 
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070704「病院前ACLS有効」は統計のマジック

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070704「病院前ACLS有効」は統計のマジック

 月刊消防2004年11月号に「病院前ACLS(直訳では発展的心臓生命補助)は無意味」という記事を掲載した。それから約3年、北海道では地方都市でもICLS(ACLSC基礎)コースが開かれ、支署レベルの消防署でも挿管・薬剤救命士が珍しくない状況となっている。

 5月末にNew England Jornal of Medicineからまた病院前ACLSに関する論文が出た。今回はこの論文を中心に病院前ACLSを再び考える。

呼吸不全患者の生存率を2%上昇

 この論文は「病院前ALCSは無意味」を出したのと同じグループが同じ地域で呼吸器疾患に焦点を当てて報告したもので、瀕死の患者の死亡をACLSが防げるか検討したものである1)。筆者らはACLSができる前の6ヶ月(BLS期間)3920例とACLSができた後の6ヶ月(ACLS期間)4218例で呼吸不全患者の死亡率に差があるか検討した。ここでACLSが浸透する前のBLS(基礎生命補助)で行うことは酸素投与、バックバルブマスク、AEDであり、ACLSで行うことはBLSに加えて気管挿管、点滴、薬剤静脈投与である。救急隊員がACLSを現場で行うためには6週間の座学、6週間の実技、12週間の現場実習が必要である。

 ACLS期間でACLSを行うことのできる救命士が患者に接触できたのは呼吸不全患者症例の57%であった。ACLS救命士が呼吸不全患者に行ったことは、バックバルブマスク2.9%(これはBLS期間でも2.3%あった)、挿管完了1.4%、点滴からの利尿剤投与14%、モルヒネ投与1.5%、急速静脈内補液投与1.1%。挿管以下はACLS期間になってできるようになったものである。またBLS期間・ACLS期間共通として、喘息患者に対する気管支拡張薬の吸入(BLS15%、ACLS60%)と胸痛に対するニトログリセリンの投与(BLS0.7%, ACLS9.4%)は行われている。

 結果は、全死亡率がBLS期間が14%に対してACLS期間が12%で2%の減少。これは病院着までの死亡の割合は両期間で同じだったが、入院期間中の死亡がACLS期間で少なかったことによる。また神経学的に後遺症が残らなかった割合はBLS期間が52%に対してACLS期間は62.5%であった。病院到着までに自覚症状が改善した患者の割合はACLS期間で有意に高かった。

有効性を示す論文

 この論文では死亡率の差は2%である。筆者らもこの数字の小ささを気にしているらしく、「250万人の地域では年間161人を救うことができる」とわざわざ述べている。さらに死亡率の差は2%だが神経学的に正常の割合が10%増えていることも強調している。また病院到着前に症状が改善した割合がBLSが25%なのに対しACLSでは46%であることもACLSが有効である証拠としている。

 この論文以外にも、ACLSを行うことで生存率が向上したという論文がいくつか出ている。オーストラリアからの心原性病院外心停止2975例の報告2)では生存退院率がACLSで6.7%BLS4.7%とACLSを習得した隊のほうが生存率が2%優れていたとしている。しかしこの論文ではACLS救命士が関与した症例ではバイスタンダーCPR施行率が対照群に有意に高く、この差が生存率の差に繋がったのではないかと考えられる。これがまたブラジルでは156名のCPA患者でACLSを習得した救急隊のほうが30日後と1年後の生存率が有意に優れていたとしている3)が症例の内訳ではACLS群で心室細動が多く(28%と対照15%)心静止が少ない(37%と対照56%)。

否定する論文

 病院前ACLSが導入された台湾でもACLSが行える救急隊と行えない救急隊で病院外心停止患者の生存率が改善されたか検討した4)。これによると、心停止患者1423人の73%にBLSが、27%にACLSが行われた。病院前の処置により心拍が再開したものがACLS29%BLS21%であり、また病院に入院となった割合はACLS23%BLS15%であった。これら2項目は有意差を持ってACLSが高かった。しかし生存退院率はACLS7%BLS5%と両者で差はなかった。生存率に最も関係したものは救急隊の現着時に除細動の適応があることとバイスタンダーCPRがなされていたことである。

 また誰が蘇生をしたかでACLSの効果を検証した論文5)もドイツから出ている。病院外心肺停止患者に対してACLSのできる救命士、BLSのできる医療従事者、BLSもおぼつかない一般パイスタンダーで患者の転帰を調べたところ、だれが蘇生を行っても生存率に差はなかった。生存を決める因子はここでもAEDを付けた時点での心電図波形、卒倒を目撃していること、救急隊の覚知から現着までが早いことであった。

危険なことはやめよう

 最初の論文はACLSと題名はついているが検討していることは生きている人への薬剤投与である。心肺停止患者への高度生命補助とは違う。挿管は2%未満の患者にしか行っていないし、アドレナリンは検討項目にすらない。だからこの論文をもって「ACLSは有効だ」とは言えない。これ以外の論文も生存率の差は2%とだいたい同じであって、結論は統計のマジックのような気がする。

 患者の転帰を決めるのはおそらくACLSではなく、台湾やドイツの文献が言うようにAEDを付けた時に除細動できる波形が出ているか、バイスタンダーがCPRをやってくれているかなのだろう。思い出して欲しい。先々号では人工呼吸すら蘇生には不要だという論文を紹介した。気管挿管や薬剤投与以前の段階で蘇生率は決まるのである。食道挿管の危険6)を冒すより、患者にも救急隊にも安全な手技を選択すべきだ。

文献

1)N Engl J Med 2007;356:2156-64
2)Emerg Med J 2007;24:134-8
3)Resuscitation 2007;72:458-65
4)Resuscitation 2007 Apr 24 Epub
5)Am Heart J 2007;153:792-9
6)プレホスピタル・ケア 2007;20:106 WEB1 WEB2


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07.9.4/10:06 PM

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