160605病院外出産は保温が全て

 
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160605病院外出産は保温が全て

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 産科救急が得意だという救急隊員はいない。医者である私も、女性が目の前で産気づかれたら非常に困る。母親と新生児(胎児)の二人を一度に扱わなければならないのも困る。だが世の中には自宅で出産しようという人も一定の割合でいるし、病院に駆けつける前に出産してしまう人もいる。

 今回は病院外出産についての論文を見てみる。

増えている病院外出産

 まずはアメリカの現状1)を見てみる。アメリカでは計画的自宅出産数は年々増えており、2004年で0.56%、2008年で0.67%、そして2012年では0.89%に達する。また産院(助産師がいて医師がいない施設)での出産割合も2004年が0.23%であったのに対し2012年には0.39%とこちらも増加している。アメリカの統計では計画的自宅出産を行う母親自身には産科的合併状は少ないが、生まれてきた子供には何らかの合併症を持つ割合や死亡率が病院内の出産に比べて高いことが示されている。

死亡率が高い病院外出産

 この論文1)はアメリカのオレゴン州のデータを集めている。予定された病院外出産であっても新生児死亡率は高く、出産1000に対して病院内出産では1.8人、病院外出産では3.9人が死亡する。また新生児の痙攣発生率は高いものの、新生児ケアユニットに入る割合は低い。病院外出産は経腟分娩の割合が93%なのに比べて病院内出産では経腟分娩は72%に低下する。

 アメリカの報告は予定された出産であるが、予定されていない病院外出産では死亡率は跳ね上がる。フランスのパリからの報告2)がある。それによると、病院外で24週から35週で生まれた新生児の数は85名でそのうち83名を研究対象とした。院内で生まれた早産児132を対照として比較すると、死亡率は院外18%院内8%であり、院外出産では母親のHIV陽性率が高く出産年齢は低く、一度も病院を受診していない割合が高い。また新生児は気管挿管される割合が高く、低体重で低体温であった。

 ノルウェイからも同様の報告3)がある。予期せぬ病院外出産は出生1000人中6.8人の割合で起こる。既に何人も出産している若い女性が居住地から遠い場所で出産することが多い。病院外出産の新生児死亡率は出産1000人当たり11.4人で病院内出産の2.3倍である。この死亡率は時代が変わっても低下しないのに対し、病院内出産では死亡率は毎年3%ずつ減少している。

とにかく保温

 不幸にして出産に当たってしまえば、覚悟を決めて付き合うしかないだろう。パリからの報告2)を読むと、救急隊員にできることは一つしかない。保温である。素早く体を拭き、食用ラップやアルミホイル付きシートで保温をする。新生児は体表面積に占める頭部の割合が高いので、弾力包帯を帽子代わりにかぶせるのも有効である。パリの報告では、このように保温した上で母親に抱かせて体温低下を防ぐようにせよと書いてある。

帝王切開が増えるのは理解できる

 ついでに、帝王切開率についても触れておきたい。帝王切開とは妊婦のお腹を切って娩出される方法である。1994年から2005年までの病院外経腟分娩の割合については世界的に年々低下し、帝王切開率がどんどん増えてきている。これに関しては日本の医療経済研究機構の新野由子先生が出したレビューが詳しい。新野先生は分娩に対する帝王切開実施率を経時的に追って報告している。これによると、最も帝王切開率が多いのがオーストラリアで、1997年の段階でも28%が帝王切開で生まれていたが、2008年になると何と43.9%が帝王切開で生まれてきている。新生児2人に一人がお腹を切って生まれて来るなんてちょっと考えられない。次に多いのがイタリアで39.8%、韓国36.3%と続く。アメリカは2004年の時点で29.1%である。アメリカは1965の時点ではわずか4.5%であった。日本では19.2%であり、先進国の間ではまだ低い方である。

帝王切開率はなぜ上昇を続けるか。新野先生の考察では
(1)経済的優位性:手術をすることによって病院の収入が上昇する。また医師などのスケジュール管理もしやすくなる
(2)麻酔技術の進歩:硬膜外麻酔が普及することによって術後の疼痛管理が容易になった
(3)検査技術の進歩:超音波検査などで胎児の様子が簡単かつ正確に分かるようになった。逆子など経腟分娩で難渋しそうな症例はすぐ帝王切開に持っていける
この3つが代表的な理由だが、帝王切開に特有の事象もある。一度帝王切開を行った母親は、次の出産でも帝王切開を行うのである。これは陣痛時に子宮が前回手術した部分で裂けることを予防するためである。

 出産は本来は全く自然のものであり、今でも保険適応はない。だが母親と子供の2人のリスクを同時に抱える一大事でもある。医者とすれば、「自然に生むのが一番」とは思いつつも、少しでもリスクがあれば帝王切開を行う気持ちはよく分かる。訴訟リスクが最も高いのが産科であり、自分を守ることも必要だからだ。

文献
1)N Eng J Med 2015;373(27):2642-53
2)Acta Paediatr 2011;100:181-7
3)Acta Obstet Gynecol Scand 2014;93:1003-10
4)BioScience Trends 2011;5:139-50


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16.6.5/10:21 AM

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