雑誌 健康教室 2022年7月号48-9
応急処置アップデート Q and A
#4『救急搬送の判断のアセスメントは…』
目次
Q
校庭のタイヤ飛びをしていたところ、
肘から転落した様子で肘関節の怪我をした児童がいました。
患部を動かすことができず、強い痛みと、脱臼を疑う変形がありました。
全身症状の変化、ショック症状を疑う様子は見られませんでした。
整形外科への受診を判断しました(保護者が学校へかけつけて病院へ)。
結果、肘の脱臼骨折をしているとのことで総合病院へ紹介状がでて搬送、
その日は入院して翌日に手術になり、3か月の固定となりました。
結果を受けて、
(1)学校から救急搬送が必要な対応だったのか
(2)外科で救急搬送を判断するためのアセスメントの不安
(3)肘を曲げられず三角巾でつらずにシーネをあてて固定してみましたが、
望ましい固定の仕方であったか自信がありません。
小学校の先生からの質問
A
(1)医学的には保護者が連れて行っても大丈夫な症例ですが、救急車を呼んでも良かったかもしれません
(2)意識障害やショック状態が絶対適応。相対適応として強い疼痛や変形、症状の急激な増悪
(3)患児の痛みが少ない形で固定します
解説
(1)小児の骨折
小児の骨折のほとんどは手術せずに固定だけで治癒します(001)。これは年齢が低いほど骨の再生能力が高いからです。またポキっと折れずにクシャッと折れ曲がることが多いのも特徴です。
小児の骨折で手術になるのは(a)整復が困難な場合(002)(b)神経や血管を圧迫している場合(c)将来変形をきたす可能性がある場合です。今回の症例は多分(c)に当たります。
(2)肘の骨折
肘を骨折するのは5−10歳までの男子がほとんどです。ほとんどは転倒するときに体をかばうために肘を伸ばした状態で落下し骨折します。
肘骨折は骨折した場所によって3種類に分かれます(003)。
このうち後遺症が多いのが上腕骨外顆骨折で、骨がつきにくいために肘の変形をきたし、将来的に内反肘になる可能性があります(004)。そのため骨がずれていれば積極的に手術が行われます。
(3)救急搬送について
骨盤骨折や大腿骨骨折では大量の内出血がおきてショック状態になることがあり救急搬送の対象となります。それ以外の、全身状態が安定している場合は本症例のように翌日以降に手術を行います。そのため救急車を呼ばずに保護者を通じて受診させることで問題はありません。ただ明らかな変形があるようなら救急車を呼んでも問題にはならないでしょう。
(4)固定について
病院へ搬送する時の固定の目的は疼痛の軽減です。加えて骨折端の動きを止めることによる内出血防止・神経損傷防止も目的です(005)。ですので児童が望む、痛くない形で固定するようにしましょう。病院では医師がレントゲン写真を元に最適な形に固定し直します。
こんなことがありました
症例1
体育の時間に鉄棒をしていた男子小学生が、手を滑らせて地面に肘から落下しました。激しい痛みがあり、肘が変形していました。その子がそれ以上苦痛にならない程度に肘に沿ってシーネを当て固定し、保護者に連絡。その後保護者が本児を連れて整形外科を受診。その結果、肘の骨折と診断され、総合病院に搬送され入院し、翌日手術となりました。
症例2
昼休み、小6男児が友だちとグラウンドでサッカーをしていたところ、ゴール付近でボールの競り合いとなり、身体が接触して転倒しました。その際、右手を強く地面につき痛めてしまいました。男児は保健室に抱えられるようにして運ばれてきましたが、大泣き興奮状態で、右腕は明らかに変形し、肘から下が違う方向に曲がっていました。すぐに骨折を疑い、その重症度から救急車を要請しました。シーネで固定しようとしましたが、少しでも触れると痛がるため、結局だらんと下げたままで、体側にそわす形でゆるくシーネを当てただけでした。救急隊が到着すると、ストレッチャーに座位で振動の影響を受けないよう固定し、近所の整形外科に搬送。大きな骨のズレがあり、その場で整復術を受け、手術することなく回復しました。救急救命医経験のある医師からは、学校側の迅速な対応と連携におほめの言葉をかけていただきました。
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