雑誌 健康教室 2022年8月号48-9
応急処置アップデート Q and A
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目次
Q
顔面打撲をして嘔吐があったら…
(1)ボール遊びをしていた際、ボールを取りに行こうと走ったら、友人の頭で顔(主に右頬)を打撲した。
(2)走って下足箱に向かっていたら、滑って転倒し木製ベンチで顔(主に額~眉間)を打撲した。
(1)は目の痛み、顔面蒼白にて家庭連絡にて早退後受診。受診中に嘔吐、眼窩底骨折の診断にて療養のため2日間入院(抗生物質を点滴にて投与)。
(2)座って冷やしていたが、「横になりたい」と訴える。氷で冷やすが「氷が当たると重みで痛い」と泣く。受診のため、保護者が抱き抱え移動後に嘔吐。受診後、経過観察で自然治癒を待つ。
上記事例について、両者とも嘔吐がありました。
1)移動させたことが、嘔吐の誘発になったのでしょうか。また、
2)顔面打撲の場合の安静体位(寝かすべき、座位保持すべきなど)はありますか。
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A
1)頭部打撲が嘔吐の直接の原因です。移動は誘引にはなりますが原因ではありません。
2)本人の望む体位で構いません。
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解説
今回の「打撲と嘔吐」は私がこのQ and Aを書くきっかけとなった動画1)(2022年4月号参照)で扱われていました。動画の中で講師は「健康教室(で私が書いた記事2))に『子どもはよく吐きます。悪心・嘔吐は重症度の目安にはなりません』とあるが本当のことか」と質問されて「どうなんですかねえ」とはっきりとは答えてはいませんでした。
1)健康教室2022年4月号p48
2)健康教室2021年6月号p58-9
(1)子どもはよく吐く
子どもはよく吐きます。頭を打っても、咳しても、食べ過ぎでも便秘でもよく吐きます。私が小学校の時には、何ら誘引なく授業中突然吐く同級生が何人かいました。学年が上がるにつれて嘔吐の頻度は減っていきます。学校の先生方に聞いたところ、小学校の先生は頭部・顔面打撲で嘔吐する例を経験されている方がほとんどですが、中学校になると経験しなくなるようです。
子どもがよく吐くのは中枢神経の未熟さと関係しています。片頭痛での検討では年齢が上がるにつれて嘔吐する患者の割合は減っていきます3)。
3)Headache 2017 Jun;57(6):899-907
(2)頭部・顔面打撲後に吐くメカニズム
小児が打撲後に吐くメカニズムは2つあります。
1)末梢性(自律神経反射)
嘔吐中枢は延髄にあります。頭部顔面の痛みは三叉神経を通じて橋に入り、信号が延髄の嘔吐中枢に伝えられ嘔吐します(001)。頸部以下の痛みは知覚神経と迷走神経を通じて延髄に入り、嘔吐中枢に伝えられ嘔吐します。片頭痛での嘔吐も同じ仕組みですが、痛みの新たな発生はないので、吐く回数は少なく、重篤感もありません。今回の質問では2例とも短期に回復していることから、自律神経反射による嘔吐と思われます。
2)中枢性
失神するような重大な外力が加わった後に頭蓋内出血が起こり、脳圧が上がることで嘔吐中枢が直接刺激されて吐くものです(002)。嘔吐することで頭蓋内圧を下げようとする生理的反応ですので、嘔吐は長時間・頻回で重篤感があります。
(3)危険な嘔吐
頭部・顔面打撲後に救急車を考慮すべき嘔吐は以下のとおりです(003)
・一過性の意識消失があった or 現在意識が変だ
・他に神経症状がある
・頻回で長時間の悪心嘔吐
(4)他の先生の記事を見てみると
「子どもで頭部・顔面打撲のあとに嘔吐する」という記事はWEBでたくさん探すことができます。私の見た限りでは単回、筆者の先生によっては2回程度の嘔吐では、全身状態に問題がないようならそのまま様子を見てよいという意見が全てでした。読者の先生方には、嘔吐という派手な事象に囚われることなく、全身を観察して重傷度や緊急性を判断して下さい。
こんなことがありました
本児が体育の時間に鉄棒をしていて、誤って落下。その際マットに後頭部を強打しました。たんこぶなどは見られませんでしたが、激しい局所の痛みがあり、保健室で冷やすなどの処置をしました。だんだん顔色が悪くなり大量の嘔吐。保護者に連絡をして迎えに来てもらい、そのまま病院を受診。結果、異常は見られずそのまま帰宅となりました。
結果として異常はありませんでしたが、大量に嘔吐をした時点で救急車を要請した方が良かったのかもと後で反省をした事例です。
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