230801最新救急事情(235)ターニケットの利点・欠点

 
  • 467読まれた回数:
最新救急事情

月刊消防 2022/12/01号 p68-9

 

ターニケットの利点・欠点

ターニケットの利点・欠点

ラグビーW杯を期にテロ対策として日本でも2018年に採用されたターニケット。この連載でもエビデンスがないのに普及していると批判的に紹介したことがある。ターニケットの採用から4年経過した。どの程度のエビデンスが出てきたのか確かめてみよう

目次

生存率

ターニケットは止血帯だから、出血をコントロールできれば生存率も上がると思われるのだがそう簡単な話では無いらしい。

ロザンゼルスからの報告1)では、タニケット の対象患者は994例、そのうち救急隊がタニケット を装着していたのは97例で10.3%しかなかった。多変量解析によると、タニケット の使用により死亡率は1/3に低下した。
一方、同じ雑誌にテキサスから発表された論文2)では、死亡率に有意差はなかったとしている。研究対象患者数は1026例、救急隊がターニケットを巻いていたのは181例であり、対象数はロサンゼルスの報告とほぼ同じ、救急隊がターニケットを巻いている数は2倍である。ターニケットの使用時間は平均77分である。死亡率はターニケットを使用した群では3.9%,で使用しなかった群の5.2%を下回っているが有意差は認めていない。だが多変量解析を用いると、ターニケット使用は死亡率を有意にに低下させた。

今回調べた範囲では、ターニケットと生存率を論じている一次論文はこの2つしかなかった。数字をいじくらないと有意差は出ないような微妙な差のようだ。論文を横断的に解析するメタアナリシス論文3)では、ターニケットが生存率を高めるというエビデンスはないとしている。

その他の利点

ターニケットがもたらす他の利点も見ていこう。病院前でショック状態に陥る患者割合を減らす(タニケット あり13,0%:なし17.4%)4)。ターニケット使用により現場滞在時間を減らし(あり15.4分:なし17.0分)、病院までの生存率を高める(あり83.6%:なし75.1%)5)
病院到着時の収縮期血圧の維持(あり120mmHg: なし112mmHg), 輸血量の減少(あり赤血球2単位:なし9.3単位)、新鮮凍結決勝必要量の減少(あり1、4単位:なし6.2単位)。筋膜切開施行率の減少(あり12.6%:なし31,4%), 四肢切断率の減少(あり0.8%:なし9.1%)。神経麻痺、二次感染は有意差なし6)。

欠点は過剰な使用

ターニケットは手足を縛り上げる紐だから、使用によって神経損傷などの合併症がでてくる。だがターニケットを使えば止血は容易になるため、圧迫止血で済むところをターニケットを使用する例がでてくる。スウエーデンからの報告7)では、病院前でターニケットを巻かれた患者の28.6%は圧迫だけで止血可能であったとしている。ターニケット使用に不適切な例はなかったとしている論文8)もあることはあるのだが、四肢の出血がターニケットに安易に結びつかないよう、状態を観察する必要はありそうだ。

巻くならしっかり巻こう

シカゴから面白い論文9)が出ている。ターニケットをちゃんとした部位に巻いていない症例が一定数存在するというものである。シカゴの外傷センター9施設で1年間にターニケットが使われたのは209名216回。92%は病院前にターニケットが巻かれていた。巻いた人は救急隊員56%、警察33%,残りはバイスタンダーである。病院で確認した時に巻いてあった部位は、創の上流が95,5%であったが, 傷から遠い上流に巻いてあったものが全体の70%であった。4%は創の直上に巻かれていて、0.5%は創の下流に巻かれていた。最初から創傷の下流に巻くことは考えづらいので、多分搬送中にずれてしまったものだろう。止血帯の意味がない。

文献

1)J Am Coll Surg 2021 Aug;233(2):233-9
2)J Am Coll Surg 2018 May; 226(5):769-76
3)Int J Environ Res Public Health 2021 Dec 6; 18’23):12861
4)J Trauma Acute Care Surg 2022 Jun 1; 92(6):997-1004
5)Prehosp Emerg Care 2022 Feb 3;1-7
6)J Trauma Acute Surg 2019 Jan; 86(1):43-51
7)Eur J Trauma Emerg Surg 2021 Dec;47(6):1861-6
8)Am Surg 2022 Jan 3; 31348211060422
9)J Trauma Acute Care Surg 2022 May 1; 92(5): 890-6

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました