110507G2010急性冠症候群

 
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最新事情

 

 ガイドライン2010

 急性冠症候群

 

 ガイドラインが示す内容は心肺蘇生だけではない。狭心症や心筋梗塞といった急性冠症候群・脳卒中・応急手当なども含まれる。今回は心筋梗塞を中心とした急性冠症候群について解説する。

 

 現場での心電図12誘導

 

 救急隊員が現場で12誘導を行うことが推奨された。救急現場での12誘導の有用性は10年前から確認されていたので、この項目自体には新鮮味はないのだが、ガイドラインに正式に記載されたことで、救急車への12誘導心電図の搭載が進む可能性が出てきた。推奨の理由は以下の2つが挙げられている。

 (1)12誘導心電図は高い確率で心筋梗塞患者を発見できる。胸痛を伴う患者について、病院前または救急部門での12誘導心電図の急性心筋虚血の診断は、感度(100人患者がいて何人選び出せるか)が76%、特異度(100人選び出した中で本当の患者は何人いるか)が88%とされている。

 (2)ST上昇型心筋梗塞なら救急隊が現場で12誘導心電図を取ることによって十分判断が可能である。判断については看護師であっても問題がないらしい。

 さらに「救急隊員の誤った判断が救急隊の全般的診断精度に影響を与える可能性を示す根拠はほとんどない」と書いてあるが、これは救急隊は医学的な診断よりも総合的な判断が重要だからと言うことだろうか。

 現場で12誘導を取って診断がつくと、病院に入ってからの処置や治療が格段に速くなる。どれくらい速くなるかというと血栓溶解療法のスタートが20-60分短縮、心臓カテーテルの開始時間が15-65分短縮できる。患者が病院に到着する前から準備ができるためである。

 また、心電図には以前からコンピュータが内蔵されており、医師に代わって診断をしてくれている(「医師の確認が必要です」と但し書きまで付いている)。この内蔵コンピュータがどれほど信頼に足るかという議論は数多くなされていて、コンピュータの方がいいという報告もあれば、医師の方がいいという報告もある。現在でも私のような専門外の医師よりはコンピュータのほうが正確な診断をしてくれるし、これから時間が経てばさらに改良が進んで診断精度が上がるだろう。AEDのように救急隊の扱う12誘導は全て内蔵コンピュータが診断する、と決めれば救急隊員の負担も少なくなりそうだ。

 

 12誘導でトリアージ

 

 現場で心筋梗塞が確実に診断できれば、運ぶ病院も選ぶことが可能となる。普通の病院より血栓溶解療法のできる病院のほうが有利だし、血栓溶解もカテーテル血栓除去も両方できればさらに有利だろう。血栓溶解療法のみの病院へ運ぶより、救急隊員の自主的な判断によってカテーテル病院へ運んだほうが、報告によって差はあるものの患者にとって有利な結果が出ている。この点からも12誘導の救急車配備は進んでいくだろう。

 

 酸素の効果は不明

 

 酸素は虚血性疾患の場合にはいつも問題となる。体が酸素を求めているときには有益だが、吸入に応じて活性酸素が作られ、それが虚血で弱った細胞を破壊するためである。アメリカ版は酸素飽和度が94%以上あれば酸素投与は不要としている。それに対して、日本版ガイドラインでは酸素が有益なのか有害なのか分からないとしているものの、「少なくとも…ショックの徴候があるときには酸素投与を開始するべきである」との書き方からは、酸素は投与しても問題がない、と感じられる。脳梗塞で酸素投与が厳しく制限されるのとは、同じ虚血性疾患であっても異なるようだ。

 

 ニトログリセリンは効果不明

 

 ニトログリセリンは強力な血管拡張薬であり、心筋梗塞で早期の投与は血栓溶解療法が広まる前までは間違いなく有効とされていた。血栓溶解療法との併用ではニトログリセリンを先に投与しておくと血栓溶解剤の効果を減弱させるという報告がある。病院前救護の領域でのニトログリセリンの有効性については、その効果は不明とされながらも、ニトログリセリンは胸痛を緩和することが多いのも事実なので、発症早期や病院前救護の段階で投与されるのは続けられるだろう。

 

 アスピリンはすぐ飲ませる

 

 アスピリン(小児用バファリンなど)は血小板が集合するのを妨害するので、血管の詰まる程度を軽減させる。病院前救護で症例を問わず投与を求められるのはアスピリンだけである。

 アスピリンを血栓溶解療法の前に投与すると長期生存率が上昇する。病院前救護でアスピリンを投与すると院内合併症が減少し、7日後と30日後の死亡率も減少する。これらは胸痛発症後4時間以内に投与された場合に効果が見られるとされており、近い将来119番を受けた通信員が「バファリンを飲んでください」と口頭指導するようになるかも知れない。

 

 病院前血栓溶解療法は強力だが医師のみ

 

 血管が詰まる病気なら、詰まった物を取り除くのが速ければ速いほど症状も後遺症も軽減するはずである。実際に血栓除去もしくは血栓溶解は発症12時間以内なら有効であり、心原性ショックの患者ならこれより遅れても有効である。このため従来病院で行っていた血栓溶解療法を現場で行うように考えるのは自然であろう。

 報告では病院前で血栓除去溶解療法を行うと患者の大多数で症状の完全消失が認められ、死亡数の減少効果も認められた。またこれらの効果は発症から短時間であればあるほど効果が高い。つまりこの病院前の血栓溶解療法はさらに勧められるべきであろうが、いかんせん医師しか投与できないし、副作用の重大さから考えるとこれから医師以外が投与できるようになるとも思えない。ドクターヘリやドクターカーがある地域なら有力な治療法となろう。


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11.9.18/3:29 PM

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