230706最新救急事情(234)頚椎損傷と頭部固定

 
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最新救急事情

月刊消防 2022/11/01号 p64-5

 

 

ネックカラーは無意味

頚椎損傷と頭部固定


知り合いの救急隊員から症例報告用の原稿が送られてきた。交通事故で環椎破裂骨折を起こした話で、意識清明の患者にネックカラーなどの脊椎運動制限を施し、それが有効であったというものである。ところが現行のガイドライン2020には「意識がある患者には用手固定は不要」と書いてあるし、ネックカラーの有効性はガイドライン2015の段階で否定されている。ガイドラインを知っている人から質問が来れば、反論は難しい。

目次


ガイドラインでの頭部用手固定

ガイドライン2020のp365「推奨と提案」の欄には、「用手頸部固定について、十分なエビデンスがないため、推奨も否定もしない」と書かれている。さらに読み進めるとJRCの見解として、p366「覚醒している成人の傷病者に対しては、用手固定は必要ないかも知れない」とまで書かれている。JPTECで「スイカを持つように」とか「前腕を地面に付けて」と厳しく頭部保持を叩き込まれたのは何だったのだろう。


用手固定の意味不明の引用文献

ガイドラインなら結論は論文から帰納されるべきものである。なのでガイドラインで引用されている文献を見てみる。
文献番号222 1)はログロールで首のどこを持つかで頭の動きが変わるというもの。私がjPTECで教わった、耳介背側に手のひらを当てて頭を保持するより、あごの下あたりの首の始まりのあたりを持った方が頭の動きは少なかった。保持する人間は多い方が頭の動きは少ないとしている。
文献番号223 2)は文献番号222の内容に加えて、リフトアンドスライドとログロールの比較をしている。持つところの比較では頭より首を持った方が良いことと、リフトアンドスライドの方がログロールより首の動きが少ないとしている。
以上二つの論文はどこを持てば良いかという話であって、用手固定の良悪を示したものではない。なぜこの二つを引用しているのか理解できない。


用手固定の意味のある引用文献

「意識のある患者には用手固定が不要」と書かれているのは文献番号224 3)である。この論文は原著でなく総説である。ここで取り扱う論文は5編。モーションキャプチャを用いた研究によれば、健常人ではKEDや頚椎カラーで機械的に頭を固定するより、自分の意思で動きを抑える方が良く、症例によっては固定に比べて動きは1/4になる。意思の力は頚椎損傷患者であっても同様である。「意識清明の患者には固定不要」の根拠はここにあるのだろう。
さらに、文献番号225 4)は具体的な数値が書かれている。被検者16名に対し車外救出を行い、頚椎カラーの有無で頚椎の動きに差があるか検討したものである。結果として、被検者自ら動きを抑制した場合には首の動きは角度として平均13.33°であったのに対し、器具を使用した場合には平均18.84°であり有意差を認めた。また身長が高いほど、体重が重いほど、有意に動きが大きかった。


ガイドライン2020と頚椎カラー

次に、頚椎カラーを見てみる。ガイドライン2020p367には「訓練を受けたものであっても頚椎カラーを使用しないことを提案する」としている。頚椎カラーについてはJPTECの前身のPTCJの時代から「本当に必要なのか」という声があったので妥当な判断だろう。何せ、頚椎カラーをつけていても首は自由に動くのだから。
頚椎カラーについては6つの論文が引用されている。新しい順に文献番号230は2018年の論文5)。商品名Xカラーがほかの二つのカラー、フィラデルフィアカラーとスティッフセレクトカラーより首の動きを抑えるという論文。フィラデルフィアカラーは病院でよく使われる、肌色で柔らかくて喉仏のところに丸く穴が空いているもの、スティッフネックセレクトカラーというのは黄色と青紫であごの高さが変えられる、どこにでもあるものである。内容はお粗末かつ頚椎カラーの使用を問うものではないので、引用理由は理解できない。
次に新しい論文はすでに紹介したもの3)。その次は2011年の文献番号231 6)。首吊り自殺を図った男性が頚椎カラーを付けられたことでどんどん神経症状が悪化していき、カラーを外すと神経症状の悪化が収まったという1例報告。首吊り後でどんどん首が腫れてきたところに頚椎カラーを巻いたことで、頸動脈狭窄をきたし神経症状が悪化したものである。あとの文献は2009, 2007, 2002と古いものだし、頚椎カラーの効果はガイドライン2015で明確に否定されているので読んでいない。


JPTECは宗教みたいなもの

この原稿をあらかた書いた後に、知り合いの救急救命士大学の先生に「消防でネックカラーは今も使っているのか」と尋ねたところ「カラーは、相変わらず使ってると思いますよ。何よりJPTECで宗教のように広まってますから」との返事であった。確かに私の受けた頃のJPTECは熱狂的だったし、その思想は「信じれば救われる」という宗教に似ている。だから、科学的に頭部保持が否定されたとしてもここしばらくは頭部保持もネックカラーも相変わらず行われていくのだろう。


文献

1)Prehosp Emerg Care 2015 Jan-Mar;19(1):116-125
2)Clin J Sport Med 2011 Mar;21(2):80-8
3)Eur J Emerg Med 2017 jun;24(3):158-61
4)Emerg Med J 2015 Dec; 32(12):939-45
5)Hong Kong J Emerg Med 2018 Nov 12;27; 24-9
6)Emerg Med J 2011 Jun;28(6):532

 

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