月刊消防 2023/03/01号 p78-9
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最新事情
はじめに
2019年に中国で始まった新型コロナウイルス感染症。この原稿が掲載される頃には春からの感染症区分の変更が決まり、マスク着用も徐々に解除されてきているはずだ。一方、中国では3年間続いたゼロコロナ政策が突然破棄され、日本をはじめとした西側諸国では中国人の受け入れを制限している。
現在の新型コロナ
今は風邪を引くとまず間違いなく新型コロナである。症状で共通しているのは上気道症状で、それに発熱が付いてくる。匂いがわからない、味がわからないといった神経症状が出れば、検査しなくても新型コロナとわかる。私もお正月休みに軽度の発熱と風邪症状があったので、多分新型コロナに感染したのだと思う(正月だったので検査も受診もしていない)。
ワクチン接種済みの場合、発熱は39度くらいまで上がる患者は少数で、多くは38度行くか行かないかくらいで2日くらいで平熱に戻る。その代わり咳や痰は1週間経っても続く、というのが患者や自分を診ていての印象である。咳や痰が長く続くのは新型コロナウイルスがもともと持っていた、肺炎を起こす性質によるものだろう。患者からは症状は「普通の風邪より上でインフルエンザ未満」と聞くし、経験したものもその通りと思う。
治療薬については、塩野義から軽症用の薬「コソーバ」が出ているが、私は処方したことはない。妊婦には使えないというのはすなわち若い女性には使えないということだし、飲み合わせ禁忌が多過ぎて高齢者にも使えないし、何より出たばかりの新薬を試さなくても解熱剤、さらに必要なら普通の風邪薬を加えれば対処できるからである。患者には「熱冷まし飲んで寝ていなさい」と言っている。
アメリカでは扱いが小さくなった
去年まではアメリカ疾病予防管理センターCDCのホームページを見ても、アメリカ国立図書館Pubmedのページを見ても新型コロナの扱いはものすごく小さくなっている。CDCでは以前はコロナ一色であった。今でも新型コロナが一番上に書かれているが、その次はインフルエンザ、RSウイルス感染症となっている。Pubmedではずっと下の方に文字が並んであるだけだ。
中国の動向
中国ではコロナ発生以来ずっと続いていたゼロコロナ政策が2022年12月7日に突然破棄され、その後一説には毎日1000万人が感染しているとも言われている1)。
西側各国では中国人に対して入国制限を始めた。CDCが2022年12月28日に発表した入国制限のアナウンス2)を読むと、制限の目的は感染者を国内に入れないようにすることよりも、中国で発生したかもしれない新たな変異株を国内に入れないことが主目的のようである。中国では大量の患者が発生しているにも関わらず、検査や症例報告が激減しており、さらに西側諸国とのウイルスゲノム配列データの共有もなされていない。懸念される新しい亜種の出現があった場合にその特定が遅れる危険性があるので、人の流れを抑えにかかっている。さらにアメリカ国内の7つの空港では、特定のフライトで到着した旅行者から鼻粘膜ぬぐい液を採取し、新型コロナウイルスが発見された場合には全例に遺伝子解析を行なって亜種の発生を特定するとしている。
ワクチンが必要な人たち
国は今もワクチン接種を推奨しているが、私も5回接種したし、またこれだけ感染者が出ると、ワクチンはもう止めて自然免疫で大丈夫なような気もする。ワクチンについての論文も見てみよう。
新型コロナワクチンは当初は感染を防ぐと言われていたが、現在では重症化を防ぐとされている。実際にワクチンを複数回接種していても再感染したという話も聞く。イタリアからの報告3)では、3回のワクチン接種で再感染リスクは有意に低下するとしている。これは、ワクチンの効果に加えて自然免疫が備わるためとしている。
また、新型コロナ感染はがん患者の死亡率を引き上げることがわかっている。高齢者、男性、ヒスパニック、白血病、リンパ腫、骨髄腫で死亡リスクを押し上げる4)。このことから、ハイリスクの患者に対してはこれからもワクチン接種は続けられるだろう。
アメリカでは人種間で接種率が大きく異なり、公衆衛生上の問題となっている。青少年に対して、ワクチン接種率が人種によって異なるか調べた研究5)では、アジア系が群を抜いて接種率が高かった。その後にヒスパニック系・ラテン系と続く。白人のワクチン接種率は最低レベルであった。なぜ白人で接種率が低いかは書いていない。
オミクロン対応ワクチン
現在のワクチンは二価ワクチンが使われている。二価とは、オミクロン以前の抗原とオミクロンBA4/BA5の抗原の二つを含んでいることを示している。2022年9月から11月の間で採取された36万検体を対象とした検討6)では、一価ワクチンの接種から時間が経っている人ほど二価ワクチンの効果が高くなることがわかった。
65歳以上の免疫不全患者において、オミクロン株対応の二価ワクチンは、それ以前の一価ワクチンと比較して、新型コロナ感染による入院を73%減少させた7)。
ファイザーとモデルナから出ているmRNAワクチンはターゲットとなる抗原を作り変えるのが容易であるという利点がある。新型コロナの変異がさらに進んでも適切なワクチンが出てくるだろう。
インフルエンザワクチンも忘れずに
インフルエンザとの同時感染のレポートも出ている8)。2021-22年のインフルエンザ感染期に、入院中の小児インフルエンザ患者の6%が新型コロナに感染していた。重複感染患者はインフルエンザ単独感染の患者に比べて呼吸器サポートを必要とする割合が高かった。またインフルエンザ関連死亡例では、16%が新型コロナに感染していた。重複感染者のうち、インフルエンザワクチンを接種していた患者はいなかった。インフルエンザワクチンの重要性を示した結果である
文献
1)https://news.yahoo.co.jp/articles/6b49c32448dbf2df38514ce986d428646e464008
2)CDC press release 2022/12/28
3)Viruses 2022 Nov 30;14(12):2688
4)CDC Morbidity and mortality weekly report, 2022/12/16
5)CDC Morbidity and mortality weekly report, 2023/1/6
6)CDC Morbidity and mortality weekly report, 2022/12/2
7)CDC Morbidity and mortality weekly report, 2022/12/30
8)CDC Morbidity and mortality weekly report, 2022/12/16
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