231223救急隊員日誌(226)思い込みと勘違い

　深夜2時、脳卒中ホットラインで搬送病院医師の携帯電話へ「62歳男性、左半身麻痺、左口角下垂、構音障害を認めています。発症時刻は30分前の〇時〇分です。受け入れ可能ですか？」と連絡。搬送先医師から「受け入れ可能です。当院へ搬送してください。」との返答であった。脳神経外科医師は、当直室で仮眠していて電話を受けたため、救急外来で待機している看護師へ「t-PA（血栓溶解療法対象患者）が来るから、準備しておいて」と連絡。電話を受けた看護師は、救急外来に待機していたスタッフに「CPA（心肺停止患者）が来るから、準備しておくように〇〇医師から電話がありました。」とスタッフに周知した。救急隊が病院に到着すると、看護師が胸骨圧迫していないのを確認してから「心拍再開ですか？」と言われ、心拍再開？？？？？よくよく看護師に話を聞くと、t-PAをCPAと聞き間違って、看護師がCPAと思い込んでいたのが原因であった。現場が病院の直近であったため、救急隊が病院に到着した時、当直医はいたが、脳神経外科医師が救急外来に来ておらず、スタッフはCPA対応の準備で待機していたのだ。

この事案後、思い込みや勘違いをなくすために、改善策を考えていた矢先、別事案で、t-PA疑いを搬送した同じ病院へ救急搬送。病院到着時に医師へ「50歳女性、意識レベルJCS30です。夫が帰宅した18時には台所で倒れていて、いつから倒れていたか、不明です。高血圧と貧血で〇〇クリニックに通院しています。バイタルサインは、呼吸24回/分、脈拍125回/分、血圧158/96mmHg、血中酸素飽和度99%、体温36.8度です。アルコールにアレルギーがありますので、注意お願いします。」と申し送り、医師から看護師へ「アルコールにアレルギーがあるから、採血する時注意して。」と伝えられたのを聞いて、病院から引き揚げた。

　翌日の朝、勤務を終え帰宅しようとすると、昨日救急搬送した傷病者の夫が消防署を訪れた。すごい剣幕で「昨日、救急搬送された〇〇の夫です。昨日の救急隊に、アルコールアレルギーがあるので、病院で点滴とか採血するなら、注意するように医師に伝えてほしいと言ったのですが、病院へは伝えたのか？アルコール消毒綿で皮膚がかぶれて、かゆくなり、呼吸困難となってたいへんでした。」と怒られた。傷病者の夫へ、病院のスタッフへ伝えていたことを説明すると納得はしてくれた。病院スタッフに確認すると、医師からアルコール禁止の指示を聞いた看護師が、他の看護師に採血を依頼して、その時にアルコール禁止のことを伝えたと思い込んでいたのが原因であった。

　「失敗の心理学―ミスをしない人間はいない」の著書、立教大学現代心理学部名誉教授の芳賀繁氏によると、「何にどれくらいのリスクがあるか、そのことを冷静にアセスメント（評価）すれば、それぞれの失敗に対して、どのような対策を取りどれくらい力を入れるかも変わってくる」と言っている。

　このやりとりを聞いていた救急隊員が、トリアージタッグのような「アルコール禁止タッグ」を作って、腕に付けましょうと提案した。思い込みや勘違いをなくす改善策となったのだ。