近代消防 2022/04/11 (2023/5月号) p59-61
今さら聞けない資機材の使い方
マギール鉗子
吉永雄栄
指宿南九州消防組合消防本部南九州消防署
目次
1.はじめに
マギール鉗子とは,気道・口腔内にある固形物を把持し,異物を除去する救急資器材です。救急現場における気道異物除去の処置は一刻を争い,その際に使用されるマギール鉗子は迅速かつ正確に取り扱わなければなりません。また救急救命士のみならず,救急標準課程修了者も使用が可能です。ここで,用語の定義として,「補助者」はマギール鉗子を渡す隊員。「術者」はマギール鉗子を受け取る隊員とします。
今回は、マギール鉗子の基本的な使い方に加え、マークをつけることで手渡しの成功率が上がることを紹介いたします。
2.基本的な使い方
教科書1)にはこのように書かれています。
(1)適応
意識がない傷病者で用手による気道異物除去が不成功に終わった場合,あるいは咽頭より下方に異物が推定される場合には,喉頭鏡およびマギール鉗子を使用した異物除去を試みる。
喉頭鏡とマギール鉗子により除去できるのは咽頭から声門までの異物である。
(2)方法と手順
1)喉頭鏡による喉頭展開で異物を発見したら,異物から目を離さないように注意しながらマギール鉗子を手に取る(001)。
2)マギール鉗子のリングハンドルに母指と環指を入れ把持する(002)。
3)視線を遮らないように口角横からマギール鉗子を挿入する(003)。
4)リング状の先端で異物を把持して除去する(004)。
3.マークを付けると手渡しが容易に
(1)背景
訓練や現場にて,マギール鉗子の取扱いに際し,リングハンドルを逆に渡してしまったり,渡されたりした経験はあるでしょうか。当本部で実施したアンケートでの失敗経験率は40%という結果でした。
原因を表1にまとめました。
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表1
マギール鉗子に手渡しを失敗する原因
1:現場での使用頻度が少ない。当本部の過去3年間の調査によると現場での年間使用率は0.1%を下回っていました。
2:術者の手掌方向が一定ではない(005)。手掌の向きが一定ではありませんでした。
3:通常,想定されている補助者の位置は術者の右側のため,位置が変わった場合混乱する(006)
4:マギール鉗子は特殊な形状であり把持方向を間違えると使用できない(007)
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そこで、マギール鉗子の,術者の母指側に来るリングハンドルにマークを付けることで、補助者の成功率上昇及び時間短縮を図りました。
005
術者の手掌方向は様々である。写真は手掌が下を向いている
006
どの方向で鉗子が要求されるかわからない
007
マギール鉗子は特殊な形状であり把持方向を間違えると使用できない
(2)材料と方法
術者の母指側となるリングハンドル側に何等かのマークをつけ,容易に識別できるようにしました。マークの方法として,母指側に来るリングハンドルにテープを巻き付けた(008)り,塗色(009)をして識別できるようにしました。ここで,なぜ母指側にマークをつけるかといいますと,手掌を一見したときに母指が容易に識別できるためです。
リングハンドル母指側に何等かのマークを表記し,術者の様々な手掌の方向・位置で実施し,その成功率の差及び所要時間を測定しました。なお,検証の対象者は救急救命士及び救急業務に従事する消防職員としています
手掌の様々な方向ですが,上・下・横、その他,補助者が術者の右側に位置しない場合などを想定しています。
008
母指側に来るリングハンドルにテープを巻き付ける
009
母指側に来るハンドルに色を付ける
(3)結果
塗色マークによる使用例です。マギール鉗子操作中に特段,支障はありませんでした(010)。
成功率は,マークなしマギール鉗子の成功率は95.5%,マークつきマギール鉗子が99.3%とマークをつけたマギール鉗子の方が成功率が上昇しました(011)。
所要時間についても,最長・最短・平均タイムいずれも時間の短縮となりました(012)。
010
塗色マークをつけても操作に支障はない
011
マークを付けると成功率が上がる
012
マークを付けると時間短縮できる
(4)考察
マギール鉗子はほとんど使われることがないため、訓練を含め補助者の失敗を多く経験しています。その原因の一つとして、術者がマギール鉗子を受け取る際の手掌方向が一定でないこと、マギール鉗子は特殊な形状であり把持方向を間違えると使用できないことが挙げられます。私はマギール鉗子の母指側にマークを付けることで補助者の成功率を上昇及び時間を短縮させることができました。
また、消防職員からは「蛍光塗色であれば暗い場所での操作も容易になる」「リングハンドル母指側のマークだけではなく,ギザギザ刻印を入れれば感触での判断が可能となる」という意見があり、今後の導入課題といたします。
引用文献
1)救急救命士標準テキスト 改訂第10版 P.350
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