240112最新救急事情(240)医療従事者と新型コロナ

 
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最新救急事情

月刊消防 2023/05/01号 p78-9

ワクチン


医療従事と新型コロナ

目次

はじめに


この原稿が出る5月には、新型コロナが感染症2類から5類へ引き下げられる。夏にマスクしなくても良くなる。マスクをして走り回る気の毒な子供達を見ることもなくなる。有難いことだ。今回は、医療従事と新型コロナを扱った論文を紹介する。


病院内の新型コロナ


最初は国立感染症研究所から、日本の医療従事を対象とした研究1)。2020年8月から11月というコロナの初期の時期に、医従事の感染リスクについてPCR検査と血清抗体測定を用いて検討したものである。対象は1899例。これを性別や職種、職歴などで分類し、さらに感染への対処方法も追跡した詳細なものである。この研究でわかったことは、(1)女性が罹患しやすい。医療従事対象の研究なので対象も女性看護師が多いのだが、女性の感染は有意に多かった。(2)若い人ほど感染しやすい。感染は二十代が最も多く、年齢が上がると減少する。(3)医師・看護助手は感染したが栄養士・臨床検査技師・ソーシャルワーカーは感染しなかった。(4)事務職員は感染の危険は少ない。(5)基礎疾患と感染に関連はない。(6)新型コロナ患と接触歴と感染は相関するが、患のとの接触時間と感染は相関しない。患長時間看護したから感染するものではないらしい。(7)個人装備で感染防止に役立つのはゴーグルとN95マスクである。普通のサージカルマスク。手袋、ガウンには感染防止効果は認めない。(8)新型コロナ病棟では感染しづらい。一般病棟の方が感染する。個人装備の違いに起因しているのだろう。


面白い結果である。この研究では症状とは関係なしに血液検査で感染を確認しているので、活動性の高い若い看護師が感染し、その人たちが感染を広めていった可能性を示すものである。普通のマスクには感染防止効果がないのは過去の研究の通りである。


病院外の新型コロナ

日本の病院前救護のデータも出ている。2020年のコロナパンデミックとそれ以前では何が変わったかというものである。報告2)によれば、バイスタンダー心肺蘇生の実施率と神経学的に良好な転機を示す割合は増加し、公衆AEDの使用は減少した。救急隊による病院選定にかかる電話回数は増加した。またこれらの件数は非常事態宣言や地域によって変化することが示された。また神経学的に良好な転機を示す割合が増加する因子として、非常事態宣言期間以外での病院外心停止、非常事態宣言を出してない都道府県、心臓以外を原因とする心停止、放電適応外の初期心電図波形、日中があげられた。


非常事態宣言が患の転機に影響するのは興味深い。また、公衆AEDの使用率が減ったり救急隊が電話をかける回数が増えるのは当然のことだと思うが、バイスタンダー心肺蘇生率が上がったり神経学的に良好な転機を示す割合が上昇するのは理由がよくわからない


オミクロン株対応ワクチン

最後にワクチンの話。私は5回もワクチンを打っていたがコロナに感染した。最後の1回はオミクロン株対応のものであった。症状が軽かったのは、ワクチンの効果なのかオミクロンが弱かったのか。おそらく両方だろうと思う。5回目のワクチンが11月末で、感染が12月末なので、ワクチン投与後1ヶ月で感染したことになる。


小児を対象としたオミクロン株対応ワクチンの研究3)では、ワクチンの効果は1回目の投与後2-4週で24%に、2回目の投与でも66%に減少した。2週間以降も、時間とともに効果は減少した。重症化を防ぐ効果については、2回目投与の2-4週後で94%と高い値を示しているが、これも時間とともに減少してきて、120日以上では57%まで減少する。

別の研究4)では、オミクロン 株対応ワクチンの効果は、それ以前の新型コロナワクチンと比較して急速に効果が低下するとしている。これらの研究からも、新型コロナワクチンを定期的に打つ必要性がわかる。だが、新型コロナの病原性が低下し、感染による自然免疫獲得が増え、さらにワクチンが有料になればどの程度の人がワクチンを打つのだろう。インフルエンザワクチンのように、高齢に財政補助を加えて打たせるようになるのだろう。

一方、ヒトの免疫細胞であるリンパ球のT細胞とB細胞の反応を調べた研究5)では、結合抗体と中和抗体はワクチン投与6ヶ月後には減少するが、T細胞とメモリーB細胞は6ヶ月後であっても維持されていた。これにより感染時にはいち早く十分な液性免疫反応を示すことができる。新型コロナと長期にわたって戦うためにはT細胞が免疫情報を覚えていることが重要なので、それほど頻回のワクチン接種は不要なのかもしれない。


文献

1)Glob Health Med 2023 Feb 28: 5(1):5-14
2)Kurosaki H: Eur J Emerg Med 2023Feb 27 online adead
3)Piche-Renaud PP: Pediatrics 2023 Mar 3: e2022059513 online ahead
4)Glatman-Freedman A: Emerg Infect Dis 2023 Mar 2;29(4) online ahead
5)Moore SC: MED (NY) 2023 Feb 16 online ahead

 

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