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月刊消防2001 11月号「最新救急事情」第28話 隊員の手の届かない重症外傷

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この原稿は東京法令出版の「月刊消防」並びに「プレホスピタルケア」に投稿された各原稿を、AEML会員のために、非公開ページにて公開するものです。掲載にあたって承諾いただきましたAEML会員の皆様に感謝申し上げますとともに、自分たちの学習資料として存在するページであることを認識し、他への持ち出すなどの行為は厳に謹んでください。


月刊消防2001 11月号「最新救急事情」第28話

隊員の手の届かない重症外傷

救急隊員の活躍次第で転帰が変わってくる話を過去にいくつか書いた。しかし、救急 隊員の手の及ばない症例も多くある。

事例:北海道歌登(うたのぼり)町

「道道歌登・咲来停車場線、咲来峠から2〜3km歌登よりの所で単独の交通事故が発 生し、複数の負傷者が発生している模様。救急・救助出場願いたい」と、所轄の警察 署から通報を受けた。

覚知と同時に非番招集し、救急隊1隊と救助隊1隊が出場した。複数の負傷者があり 事故の詳細不明のため、出場途上で本部所在地である枝幸消防署に応援出場の待機要 請をした。16分後救急隊現着。付近には数台の通行車両が停車しており、路外に逸脱 し横転した車両を数名の通行人が取り囲み、車両が転倒しないように支えていた。通行人の中に看護婦がおり、負傷者の救護に協力を申し出たので、協力をお願いした。 女性2名、男性1名の負傷者を確認すると同時に、枝幸消防署へ救急隊の応援出場を 要請した。

女性2名のうち1名は通行人らにより車外に救出されていた。仰臥位でJSC-1、右足 の内転変形が確認された。直ちに救急車に収容し先ほど協力を申し出た看護婦さんに 観察と処置を依頼した。もう1名の女性は横転した車両の後部座席でJCS-1、顔面出 血、胸部、腰部、左腕、左足の痛みを訴えていた。救急隊員2名と通行人により車外 へ救出し救急車へ収容し救命士が観察と処置に当たった。女性2名を収容し救急車は 現場を出発した。

運転席の男性1名は横転した車両の運転席窓から上半身が肩口まで出た状態で JCS-1、頭部裂傷、右耳裂傷、頸部及び右肩の痛みを訴えていた。車体の変形により 脱出不能状態であった。救急隊現着2分後に救助隊が到着した。通りかかりの移動式 クレーン付き大型トラックに救助活動の協力を要請し、クレーンにより事故車両を牽 引固定して転倒防止措置をとった。大型油圧救助器具を使用し、開口部を拡げ運転席 の男性を車外に救出した。バスケットストレッチャーに収容後観察と処置を行い応援 救急隊へ負傷者の観察結果を報告しながら到着を待った。枝幸消防署高規格救急隊が 現着したところで患者を引き継ぎ、直近の歌登町国保病院に収容した。

院内での検査・応急処置の後、女性2名は約80km離れた総合病院へ転院搬送となった が、搬送中様態急変1名はCPAとなり、CPR実施しながら最寄りの医療機関に搬入する も外傷性くも膜下出血により死亡。もう1名は総合病院到着直後に様態急外傷性ショ ックにより死亡(腎破裂)。結局女性2名が死亡という残念な結果になった。

当支署では職員数が少なく、本事例のように複数の負傷者が発生している場合には早 期(覚知時点)に応援出動を要請するべきであった。また、現場での高度な観察及び トリアージについての必要性を痛感した事例でもあった。

致死的頭部外傷

アメリカで頭部外傷のため救急外来を訪れる人数は一日3000人で、これは人口10万人 当たり444人になる。有病率を年齢別に見ると5歳以下の小児が最も多く、85歳以 上がそれに次ぐ1)。最重症の頭部外傷患者は10万人当たり8人発生し、これは年々減 少してきている。男性が7割を占める。交通事故によるものが48%であり、墜落が 42%と続く。これら頭部外傷全体の死亡率は3割であり、グラスゴーコーマスケールが 下がるほど死亡率は上昇する2)。

オーストラリアでは病院前治療チームが活躍している。GCS8点以下の患者に対して、 治療チームが扱った症例と救命士が扱った症例を比較すると、治療チームで現場滞在 時間が3倍になったが、気管挿管の頻度は100%であり(救命士症例は36%)、治療 成績も優れていた。しかしそれより患者の予後を左右するのは外傷スコアや年齢のほ うが重要であった3)。

二輪車の交通事故死についても、高度にトレーニングされたケアチームが死亡までの 期間を伸ばすことが示されている。ブラジルで二輪車での死亡者について、チームが 結成される前と後で事故から死亡までの時間を比較したところ、事故から1時間で死 亡する患者数が結成前では54%であったのに比べ、結成後は40%に低下した4)。

ここで基本が大切だという論文を紹介したい。小児での重症頭部外傷で病院到着前に 人工換気を必要とした症例578例を対象に、気管挿管の有無で転帰が異なったか調べ た。気管挿管を受けた群は年齢が高く、点滴を受けた頻度もペリコプターで搬送され た頻度も高かったのに外傷の程度は軽く、両群に死亡率に差はなかった。病院までの 距離や現場での医師の関与などの要因を無視しても、気管挿管ができないことがすぐ 患者の死亡に結びつくことはないようだ5)。同様のことは成人例でも当てはまる。文 献では現場もしくは病院到着直後に気管挿管する症例は死亡率が高いとした上で、気 管挿管を行う症例は全身状態が不良だから気管挿管になったのであって、気管挿管自 体が死亡率に影響しているわけではないと結論している6)。あれもこれもできないと 考えるのではなく、今持っている技術で最大の効果を得られるよう考えるべきだろ う。

本稿執筆にあたっては、南宗谷消防組合歌登支署 山本正典 救急救命士・吉田寿美  救急隊員の協力を得た。

引用文献

1)Acad Emerg Med 2000 Feb;7(2):134-40
2)J Trauma 2001 Sep;51(3):481-9
3)Injury 2001 Jul;32(6):455-60
4)J Trauma 2001 May;50(5):917-20
5)Semin Pediatr Surg 2001 Feb;10(1):3-6
6)J Trauma 2000 Dec;49(6):1065-70


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