121225胸骨圧迫のみの蘇生が日本でも好成績

 
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121225胸骨圧迫のみの蘇生が日本でも好成績

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121225胸骨圧迫のみの蘇生が日本でも好成績

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アメリカでのHands-only-CPRと違い,日本ではガイドライン2010になってもきちんと人工呼吸を教えている。ただ教える比重はどんどん下がって来ていて、それほど熱心には教えなくなって来たようである。今回は日本でも胸骨圧迫のみのほうが成績が良かったという報告をお送りする。

日本全国対象の研究

著者はこの連載でもおなじみ京都大学の石見先生である。この先生は論文だけではなく単行本を出したり救急グループの指導に当たったりとここ数年の活躍は目覚ましい。

論文1)では2005年1月から2009年12月までに日本で起きた病院外心停止症例のすべてを対象とた前向き調査である。これら膨大な患者の中から「病院外心停止」「心臓原性の卒倒」「目撃があること」「公衆AEDにより除細動を受けたもの」の4項目を満たすものを抜き出した。抜き出された患者を蘇生方法によって2群に分けた。最初に蘇生を受けたときに人工呼吸を省略していたのが「胸骨圧迫のみ群」、人工呼吸と胸骨圧迫を行っていたのが「人工呼吸群」である。最終の評価点は1ヶ月後に神経状態が良好で生存していることである。

結果として、5年間で1376名の患者が集まった。506例が「胸骨圧迫のみ群」であり、870例が「人工呼吸群」であった。「胸骨のみ群」では病院到着前の自脈再開率(50%対人工呼吸群41%)、1ヶ月生存率(46%対40%)が有意に高く、さらに最終評価項目である1ヶ月後に神経状態が良好に生存している割合についても「胸骨圧迫のみ群」では41%であったのに対し「人工呼吸群」では33%であり、「胸骨圧迫のみ群」の方が有意に好成績だった。

結論は、目撃がある卒倒で公衆AEDが使えるのなら胸骨圧迫のみで人工呼吸を行わない方が神経学的に良好な生存を期待できる、ということである。

筆者らはなぜ胸骨圧迫だけの蘇生が良いのか、いくつか理由を述べている。第一に人工呼吸は難しいこと。第二に人工呼吸は胸骨圧迫を中断させること。第三に人工呼吸を最初にすると胸骨圧迫の開始がそれだけ遅れること。これはガイドライン2010でも述べられていることで新鮮さはない。

バイスタンダーCPRは目撃していても半分以下

5年間で集まった病院外心停止症例は約55万人。年間11万人もいることになる。心原性の卒倒は29万人で目撃があるのはその1/3の10万人。だがバイスタンダーCPRを受けているのは半分以下の4万3000人しかいない。バイスタンダーCPR率は年々上がっているとはいえ、まだ半分にも達していないのが実情である。

この論文ではほかに面白い数字も載っている。今回の研究に使われた1376名を検討すると、家族の前で卒倒するのは全体の1割にすぎず、9割は家族以外の前で卒倒する。だがこれはAEDを使った症例だけで、家の中で倒れた症例が含まれない(家にAEDがある家庭は少ないだろう)ため数字が下がったのかもしれない。いったん卒倒してしまえば家族であっても他人であっても他人であっても生存率は3割を期待できる。また卒倒してからAEDを装着するか心肺蘇生を開始するまでに3分弱の時間がかかっている。

課題はバイスタンダーを増やすこと

今回の報告はバイスタンダーCPRと公衆AEDの効果を示している。この論文は、筆者によると今までで最も成績の良い結果を出した論文らしい。確かに心臓が止まったのにその後社会復帰可能な状態になる人が41%もいるのだから驚きである。だが課題もある。

最も大きい課題はバイスタンダーCPR率を増やすことだろう。今回の結果でも、目の前の卒倒にも関わらず患者の半分以上は何もされずに放置されている。またAEDのある施設で卒倒したとしてもAEDが使われるのは1/3に過ぎないことからAEDのある場所の周知が必要である。

今回の報告は5年間の病院外心停止55万人の中からの1376人というごく限られた対象による検討であった。割合からすれば0.25%という、統計的には無視できる数でしかない。ではこのような限られた症例ではなく、蘇生全体としては胸骨圧迫のみの蘇生が推奨されるのだろうか。筆者らはバランスの問題とはしているが、胸骨圧迫のみの蘇生は教えるのも習うのも覚えるのも行うのも易しいこと、心臓が原因で卒倒する患者では胸骨圧迫のみの蘇生が有利であること、現場で人工呼吸入りの蘇生を行うことは困難であること、バイスタンダーを増やすことが重要なことから、筆者らは一般人が行う蘇生は胸骨圧迫のみとすべきだとしている。また人工呼吸を指導するのは人工呼吸を必要とする人たちと接する職業、学校の先生や海の遊泳監視人などに限るように提言している。

短時間講習では対象者に合った教育を

私は短時間で蘇生のエッセンスを教える講習を受け持つことがよくある。その時にはその開催地の消防の人たちと一緒に講習を行うことが多い。多くは参加者が少しでも多く胸骨圧迫とAEDを体験できるように時間を組んでいるが、中には自分が話したいことだけ喋って教えてほとんど実技をさせない人もいる。今までこの稿で書いたように,成人には人工呼吸は不要だし,小児であれば人工呼吸と異物除去が絶対必要である。参加者が何を求めているかちゃんと考えて教えるようにしよう。参加者もせっかく自分の時間を割いて来てくれているのだから,満足して帰ってもらえるように努力しよう。公務員は公僕であることを忘れてはいけない。

文献
Circulation 2012;126:2844-2851


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13.4.6/10:13 PM

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