240217最新救急事情(242)新型コロナとインフルエンザの比較

 
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最新救急事情

月刊消防 2023/07/01号 p66-7

240217最新救急事情(242)新型コロナとインフルエンザの比較

最新事情

新型コロナとインフルエンザの比較

目次

はじめに


新型コロナが感染症の第5類になって約2ヶ月が経つ。新聞を見ていると、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「まだ普通の病気ではない」と述べていた1)。その理由として、新型コロナが持つ高い感染力を挙げている。会長が言う「普通の病気」が何を指すのかよくわからないが、今回はインフルエンザと比較してみる。


死亡率はまだインフルエンザより高い

アメリカ発、米国医師会雑誌JAMAの論文2)。新型コロナが最初に流行した年にアメリカで出された研究では、新型コロナで入院した人の死亡率はインフルエンザで入院した人に比べ、30日死亡リスクが約5倍(新型コロナ17-21%、インフルエンザ3.8%)であった。その後は新型コロナが遺伝子変異を起こしたため死亡率は低下してきた。論文では2022年10月1日から2023年1月31日までの期間で発生した、新型コロナとインフルエンザの入院死亡率を比較した。追跡調査は2023年3月2日まで。対象は米国退役軍人で、その人たちの健康管理のためのデータベースがあるらしく、そこからのデータを使っている。検討項目は死亡率であるが、年齢やワクチン接種の有無などサブグループでの比較も行なっている。

結果として、新型コロナは入院8996例に対して死亡538例で死亡率は5.98%。インフルエンザは2403例に対して死亡76例で死亡率は3.16%であった。サブグループによる検討では、65歳以下の患者では新型コロナとインフルエンザの死亡率には有意差はないが、66歳以上では新型コロナの方が死亡率は有意に高かった。そのほかに有意差を認めた項目は、新型コロナワクチンを打っていないこと、新型コロナの初回感染であること、の2点である。ワクチンについては、ワクチンを1回でも打っていることが大切なようで、3回以降のブースター(維持)ワクチンには死亡率を減らす割合は低下する。感染回数については初回感染で死亡する例が有意に多く、2回以上の感染では死亡率は低下する。さらに、新型コロナに効くとされている新薬については、使うことで死亡率をインフルエンザ並みに下げる可能性を示している。


新型コロナの死亡率が低下してきたことについて、筆者らは、新型コロナ自体の遺伝子変異、ワクチンや過去の感染による免疫の獲得、治療の改善を挙げている。


オミクロン株BA.5はインフルエンザと同等かそれ以下

今度はドイツからの論文3)。集中治療を必要とした患者についての検討である。対象は新型コロナ1316例に対してインフルエンザ218例。インフルエンザと比較すると、最初に中国て出現した野生株、次に出てきたアルファ株、デルタ株の3つでは院内死亡、ICU入室率、機械換気の装着率が高かった。また野生株では膜型人口肺ECMOの装着率がインフルエンザと比べて高かった。しかしオミクロン株になると、院内死亡、ICU入室率、機械換気率、ECMO装着率のいずれもインフルエンザと同等であった。


論文で示されているデータを見ると、中国で新型コロナが発生した当初の野生株は全てのパラメーターに有意差があって、毒性がとても高かったことがわかる。それがアルファになると毒性が減り、デルタはアルファと同等の毒性、オミクロンになると有意差がないどころか、インフルエンザよりパラメーターが良くなっている。さらに、オミクロン の中でもBA1/2よりBA5の方がさらに毒性が軽減している。

この論文で示されたように、オミクロンBA.5は毒性が弱いので、日本での感染症分類が2類から5類に引き下げられることになった。加えて、このドイツの論文は症状がある人を対象とした後ろ向き研究であり、新型コロナでは無症状の保菌者が相当数いることを考えると、オミクロン BA.5はインフルエンザよりも毒性は低いのだろう。

しかし、スコットランドからの論文4)ではオミクロン BA.5はBA.2よりも死亡率が上昇すると報告している。ただこの論文が書かれた時点ではスコットランドにおけるPCRによる全数検査は終了しており、データの信頼性に欠ける。


石鹸を使った手洗いの効果

最後に、手洗いで石鹸を使うことの有効性を調べたメタアナリシス論文5)が出ているので紹介したい。水に加えて石鹸で手洗いすることで急性呼吸器感染症が減るかどうか調べたものである。対象は26の研究、人数は16万人。結果として、石鹸による手洗いは水だけの手洗いよりも下気道感染症(肺炎など)と上気道感染症(いわゆる風邪)を減少させたが、インフルエンザと新型コロナウイルスでは有意差は見られず、新型コロナウイルスの死亡にも影響は与えなかった。石鹸は接触感染防止に有効なのであって、インフルエンザや新型コロナの飛沫感染には効果がないことを示している。


文献

1)東京新聞2023/05/02, https://www.tokyo-np.co.jp/article/247630
2)Xie Y. JAMA Apr 6, 2023, published online
3)Bechmann L, J Hosp Infect 2023 Apr 29, Epub ahea
4)Robertson C. Lanceet Reg Health Eur 2023 May ; 28: 100638 Published online
5)Ross I, Lancet 2023 Apr 27, Online ahead

 

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