240512_今さら聞けない資機材の使い方_123_ビデオ硬性喉頭鏡 留萌消防組合消防本部 阿部康平

 
  • 262読まれた回数:
基本手技

近代消防 2022/07/11 (2023/8月号) 


留萌消防組合留萌消防署
阿部康平(アベコウヘイ)
平成27年4月1日消防士拝命
出身小樽市
趣味トレイルランニング、スノーボード

今さら聞けない資機材の使い方

2023/07/11発行号(2023/8月号)p70-4

今さら聞けない資機材~ビデオ硬性喉頭鏡~

目次

1.はじめに

今回「今さら聞けない資機材の使い方」を担当させていただきます、北海道留萌消防組合留萌消防署の阿部康平と申します。今回はビデオ硬性喉頭鏡について説明させて頂きます。ビデオ硬性喉頭鏡は、特定行為として認められた行為の中では新しい手技であり、気管挿管の成功率を上げる資機材として大変重要です。注意事項や禁忌事項などを含め、ポイントを押さえながら確認していきましょう。

2.ビデオ硬性喉頭鏡とは

マッキントッシュ型喉頭鏡など従来の喉頭鏡を用いて声門を直接視認するには、喉頭展開を適切に行う必要があり、非常に高い技術が求められます。特に、視野の妨げになる障害物(顎、舌、歯、喉頭蓋)を避ける操作が重要となり、熟練した技術がなければ声門を視認出来なかったり、歯を折損させる可能性もあります。そこで、声門部の確認を容易に行えるよう特殊な形状のブレードや光ファイバーを組み合わせて開発されたのが『ビデオ硬性喉頭鏡』です。

現在、救急隊用として使用が認められている機種は、エアウェイスコープ・King VISION・AIRTRAQの3種類となります。

3.ビデオ硬性喉頭鏡のメリット・デメリット

●メリット・・・

•スニッフィングポジションの必要がなく、硬性喉頭鏡では禁忌とされていた頸髄損傷が強く疑われる症例に対して挿管可能となり、外傷事案でも実施可能。

•ブレードにチューブガイドが付いてることで、スタイレットを使用しなくても操作可能。ただし、チューブ操作を愛護的に行わなければ、カフに穴をあける可能性もあるので注意が必要。

•モニターが付いてることにより、声門を広い視野で確認でき、チューブが声門を通過するまで正確に視認できる。

●デメリット・・・

•どの機種も電池を使用するため、電池切れに注意。

•屋外(晴天)での使用の際、太陽光の反射により、モニターが視認しにくいことがある。

•ビデオ硬性喉頭鏡のブレードは、硬性喉頭鏡のブレードより厚みがあるため、歯牙損傷のリスクがあり、開口操作を適切に行う必要がある。

•いずれの機種も口腔内の異物、特に水や血液などの粘液貯留では、カメラがさえぎられ視認しにくい可能性がある。

上記のように、ビデオ硬性喉頭鏡にもデメリットがあり、傷病者の状態によっては硬性喉頭鏡を選択する場合もあります。傷病者の状態を適切に判断し、ビデオ硬性喉頭鏡、硬性喉頭鏡それぞれのメリットを活かした選択をしていかなければなりません。

4.機種の説明

①エアウェイスコープ

エアウェイスコープは、2.4インチの液晶スクリーンとCCDカメラを持つ本体、そしてイントロックと呼ばれるディスポーザブルブレードから構成されているビデオ硬性喉頭鏡です。ブレードの形状は、従来の喉頭鏡とは異なり、喉頭の形状にフィットするL字型になってます。モニター上にターゲットマークが表示されることで、直視下と比較して容易にチューブを挿入することが可能となりました。また、外部モニターへの出力が可能で、多くの人と挿管状況を確認することが可能となり、病院でも活用されています。あらゆる角度から気管挿管が可能と言われていますが、現在、私が住む地域(北海道救急業務高度化推進会議)では、正中線に合わせた挿入角度以外の使用が認められていません。

(写真①)エアウエイスコープとイントロック

②AIRTRAQ(エアトラック)

AIRTRAQはディスポーザブルのビデオ硬性喉頭鏡で、エアウェイスコープやKingVISIONとは違い、液晶画面に映像が反映される資機材ではなく、アイピースを覗き込む事により観察できる資機材です。他の資機材と比べると安価であるという利点があります。また、電子ヒーターが装備されているため、曇り止めを塗布する必要が無いのもポイントです。

●使用時の重要ポイント●

•挿入時、舌を押し込まないよう注意が必要。

•挿入時、AIRTRAQを入れすぎないよう注意が必要。

•声帯が良く見えるよう、本体を常時持ち上げる必要がある。

④ 声帯を画面中央に位置させる為に、本体を左右にひねったり、手前に引い

たり持ち上げたりして微調整が必要。

•KingVISION

KingVISIONは2.4インチカラー有機ELモニターとチャンネルブレード及びチャンネルaブレードから構成されるビデオ硬性喉頭鏡です。また、モニターには、反射防止コーティングが施されており、屋外での活動時、太陽光等の反射を軽減できます。チューブ挿入の目安となるターゲットマークがなく、訓練で習熟度を上げ、画面のどのあたりに声門を映すか確認する必要があります。単4電池3本で約90分間動作可能であり、使用環境温度は10℃~40℃までです。冬の北海道では、外気温がマイナス温度を記録するため、使用する際の使用環境温度を確認する必要があります。チャンネルブレード及びチャンネルaブレードには、防曇レンズが装備されており、曇り止めの必要がありません。(写真②)

KingVision

3機種の特徴比較

 

5.使用方法について

留萌消防組合留萌消防署では、現在、2台のKingVISIONビデオ硬性喉頭鏡を保有し救急車へ積載しています。今回は、普段使用しているKingVISIONビデオ硬性喉頭鏡を活用して使用方法について説明させて頂きます。

•本体に単4アルカリ電池×3本を入れ、点灯及び照度の確認を実施します。

(写真③)使用前に確認する
注意点としてランプが赤で点滅している場合は電池の交換時期を示しているので早めの交換を行って下さい。

•ディスプレイにブレードを取り付ける際は、必ずスイッチオフにして取り付けます。スイッチオンの状態で取り付けると、画面が適切に映りません。又、ディスプレイとブレードに隙間が出来ないようしっかりはめ込みます。

 

※差し込み不十分(失敗)

※差し込み十分(成功)

•水溶性の潤滑剤を使用し、挿管チューブ・ブレードのチューブガイド及びブレード先端を潤滑します。レンズ部分に潤滑剤が付着しないように注意が必要です。

水溶性の潤滑剤を使用する

潤滑剤がレンズに付くと視界不良になる

•挿管チューブをブレードにセットします。セットする際、挿管チューブの先端がモニター内に写り込まないような位置へ調節が必要です。合わせて、ガイドの滑りを確認しましょう。

↑適正位置 角度があるため、チューブ操作時注意

↑適正位置不適正位置

•傷病者の口を開口し正中線に合わせてブレードを挿入します。硬性喉頭鏡との違いは、開口時、舌を喉頭方向に押し込まないように注意が必要です。また、ビデオ硬性喉頭鏡本体が長いため、ハンドルが胸に当たる可能性があります。

•ブレード先端を喉頭蓋の方向に向け、ディスプレイ上に声門を表示しやすいようにします。ブレードの先端は、間接拳上・直接拳上どちらでも挿管が可能となってます。チューブの進む方向ですが、エアウェイスコープでは、画面のやや右側をチューブが進む為、喉頭蓋や右披裂部に当たりやすいです。KingVISIONでは、画面の中央を下向きにチューブが進む為食道へ向かいやすいので注意が必要です。(写真⑨)

↑KingVISIONでは、画面の中央を下向きにチューブが進む為食道へ向かいやすいので注意が必要

•ディスプレイの中央に声門が表示されるようにし、チューブをゆっくと進めてカフが声門を通過するのを確認します。リングマークの位置を確認して、チューブが抜けないよう保持し、ハンドル部分を傷病者の胸の方向に回すようにし、ビデオ硬性喉頭鏡を取り外します。取り外す時に、チューブの位置がずれる恐れがあるので注意して下さい。

 

●ビデオ硬性喉頭鏡と硬性喉頭鏡のプロトコルの違い●

おわりに

私自身、実際にビデオ硬性喉頭鏡を使用した症例は1件しか経験していませんが、その症例では、第1選択として、ビデオ硬性喉頭鏡を選択し、準備中に硬性喉頭鏡を活用して口腔内の確認を行いました。確認の結果、CormackGrade3のため、ビデオ硬性喉頭鏡による気管挿管としましたが、挿入抵抗があり挿入不可。再度、硬性喉頭鏡にて喉頭展開し声門確認すると、声門付近に異物を発見し除去。3cm程の油あげが取れ、視野が改善し挿管成功となりました。この症例では、ビデオ硬性喉頭鏡のモニターでは確認出来ない異物を直視下で確認することができ、改めて硬性喉頭鏡の重要性を感じました。

ビデオ硬性喉頭鏡の使用が認められたことにより、気管挿管を確実・迅速に行えるようになり、蘇生できる可能性が上がっていると感じると同時に、便利な資機材ではありますが、合併症や注意点など気を付けなければいけないポイントも多数あり、使い分ける必要があると考えます。この記事を参考にして頂き、注意点や各地域のプロトコルを再確認して頂けると幸いです。

自分自身がより一層知識と技術を深めていき、信頼される救急救命士を目指し努力していきたいと思います。

次回は「マルチガス検知警報器(X-am5000)」です

コメント

タイトルとURLをコピーしました