近代消防 2023/7/11 (2023/08月号) p58-61
マンホール救助の1事案
目次
土浦市の紹介
土浦市は茨城県南部に位置し日本第2位を誇る霞ヶ浦を有しており、春には桜が咲き誇り(001)、秋には全国花火競技大会(002)が行われる、1年を通して楽しめる魅力的な都市である
001
土浦市の桜
002
全国花火競技大会
はじめに
マンホール救助という特異な事案を経験した。核生物化学(nuclear-biological-chemical, NBC)災害については教養・訓練等を実施し知識として備えていたが、有毒ガスが発生したマンホール救助事案を経験し検証した結果、当消防本部NBC災害活動マニュアルの改善点が見つかったため、その報告も行う。
事案
発生日時はx年10月某日 発生時間は19時50分頃。発生概要はマンホール(003,004)内で下水の詰まりを除去する作業中、41歳男性が意識消失し、その後、助けに行った38歳男性も意識消失したため、地上で作業していた同僚が救急要請したものである。
出場隊は指揮隊 救助隊 救急隊 タンク隊の計4隊。出場途上に救急隊 タンク隊 ポンプ隊 資器材搬送車 広報車2隊 計6隊の追加要請をし、合計10隊、人員30名が出場した。
003
現場となったマンホール
004
現場位置図および配管系統図
現場に到着し、車両から降りてすぐに異臭を感じた。先着救急隊隊長及び隊員にて通報者から情報収集をし、隊長は三次医療機関二施設に対し心肺停止による指示要請及び収容依頼を実施した。その後、救出までの間、15分間隔で収容先病院へ状況を報告した。
先着タンク隊及び救助隊による環境測定結果を005に示す。硫化水素の最大値は50ppmでマンホール下部から検出された。また救助後の傷病者の体表からも硫化水素が50ppm検出された。
005
環境測定結果
マンホールの構造を006に示す。深さ約6.9mの円柱形で入口開口部は約60cm、さらに入口から約3mの深さに踊り場が設けられており、踊り場開口部は約65cmと、かなり狭隘空間で救出に苦慮した。最下部には下水が流れており流れもかなり急であった。
006
マンホールの構造
要救助者の状況を007に示す。要救助者はマンホール最下部に膝屈曲位でうつ伏せになっており意識なし。汚水の流入で体は水没していた。救助隊による救出状況を008,009に示す。
007
要救助者の状況。膝屈曲位でうつ伏せになっており意識なし
008
三脚を用いた吊り上げ
009
マンホール内部の様子
時間経過を010に示す。1人目救出完了まで現着から2時間20分、2人目救出完了まで現着から2時間47分の時間を要した。前述したとおりこの間、適宜病院に状況報告を行った。胸骨圧迫により傷病者の呼気から硫化水素の数値が検出され続けたため、タンク隊から救急隊に引き渡すまでに時間を要した。
現場及び搬送中の処置としまして、救急隊は環境測定結果を受け指揮隊と共に消防ホースを使用し、消防警戒区域の設定及び安全管理を実施した。救出後、タンク隊によって水的除染及びスクリーニング後、心肺蘇生を行いながら全脊柱固定を実施し、救急隊に引き継いた。車内収容後、すぐに気管挿管、静脈路確保、薬剤投与を実施した。
搬送先は2名とも三次医療機関へ搬送したが、2名とも死亡が確認された。
010
時間経過
考察
本事例は、マンホール内が非常に狭隘なため救助隊員が呼吸器を背負い進入できず、加えて、下水の流れも激しいため救出までの時間を要する状況であった。
当消防本部NBC災害活動マニュアルでは、警戒区域の設定をホース、ロープ、パイロン又は標識等を活用すると明記されている(011)。しかし、ホースの使用は誤認を招き、ロープは夜間の暗い環境では視認しづらい。消防ホースを使用し消防警戒区域を設定することは、水的除染用のホースと区別がつかず、また夜間という暗い環境であったので後着隊、他の関係機関等には消防警戒区域の伝達が上手くいかず、区域内へ関係者が進入(012)し二次災害の危険を招くことになった。
消防警戒区域と水的除染用ホースの配置図を013に示す。消防警戒区域の統制ラインと水的除染用ホースとの距離も近くなってしまった。
ホース、ロープの活用を除外し、人員を配置し喚起することにより一層、明確な警戒区域を設定することが可能になると考える。このことを踏まえNBC災害活動マニュアルの変更し今後の現場活動に活かしていきたい。
011:写真に文字が入ります
マニュアル通りに警戒区域を設定した
012:写真に文字が入ります
暗かったため区域内へ関係者が進入した
013
消防警戒区域と水的除染用ホースの配置図
ここがポイント
硫化水素の危険性については、自殺で使われたことから広く知られるようになった。温泉でのゆで卵のような特徴的な匂いが硫化水素の匂いである。神経毒の作用がある。即死する濃度が700ppmであり、100ppmで嗅覚を麻痺させるため、知らないうちに高濃度地帯に進入し死亡する。救助に入った男性が死亡したのは硫化水素の匂いが分からなくったためだろう。
本稿では、ゾーニングの方法について問題点を挙げている。ネットで訓練の様子を見ると、コーンを立てるだけで整然とゾーニングが行われているが、今回は放水ホースを用いてはっきりした境界を示しても、暗闇であったりホースのある意味がわからないことで、ゾーンは容易に破綻する。読者もそれぞれの所属でどうすればいいか考えてくださればと思う。
参考
日本薬学会
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