240520_今さら聞けない資機材の使い方_124_マルチガス検知警報器 (X-am5000) いわき市消防本部 木田壮

 
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基本手技

近代消防 2022/08/11 (2023/9月号) 


木田壮(きだたけし)
いわき市消防本部内郷消防署
(国際消防救助隊登録隊員)、
福島県いわき市出身、
平成17年4月拝命
趣味:野球、ゴルフ

題名マルチガス検知警報器(X-am5000)について

目次

1.はじめに

今回、近代消防「今さら聞けない資機材の使い方」の掲載記事を担当させていただくことになりました、福島県いわき市消防本部内郷消防署(国際消防救助隊登録隊員)の木田壮と申します。

全国的なニュースになった、スプレー缶のガス抜き作業中の爆発火災、ガス配管からの漏えいによる爆発火災及び工場での酸欠事故等、様々なガスによる火災や事故が発生しています。このような災害に対応するための資器材であるマルチガス検知警報器(X-am5000)の基本的な使用方法等について説明させていただきます。

2.消防本部の紹介

いわき市は、昭和41年10月に14市町村の合併により誕生し、福島県の東南端、茨城県との県境に位置しており、1,232㎢という広大な面積、南北に約60㎞の海岸線を有する豊かな自然環境と温暖な気候風土に恵まれています。東北地方では仙台市に次ぐ人口32万人を超える中核市で、製造業を基幹産業として、水産業及び農林業も盛んであります。南部には、石油コンビナート等特別防災区域があり、17の特定事業所が所在しています。また、2006年に映画「フラガール」の舞台となったスパリゾートハワイアンズや水族館の「アクアマリンふくしま」等の観光産業、更には昨年サッカーJ2昇格を果たした「いわきFC」等と連携し、スポーツイベント活動にも力を注いでいます。

いわき市消防本部は、1本部4課5消防署1分署7分遣所で組織しており(地図)、現在の職員数は364名となっております。平成21年度に高度救助隊を発隊、平成22年度から国際消防救助隊へ6名の隊員を登録しています。令和2年度に高度救助隊が運用する救助工作車Ⅲ型(写真1)が更新、緊急消防援助隊の登録車両でもあることから、多種多様な災害に対応すべく日々訓練を実施しています。さらに令和2年度に土砂風水害機動支援部隊に指揮車及び総務省消防庁から無償貸与された重機及び重機搬送車(写真2)を登録し、各登録消防本部と合同訓練を実施する等、技術の統一化及び連携強化を図っています。また、同年度に総務省消防庁から水上オートバイ(写真3)が無償貸与され、沖合の岩礁に取り残された要救助者2名を救助した実績がある等、長い海岸線の水難救助に潜水隊と連携し対応しています。

 

地図 map.docx

いわき市消防本部

      

写真1

救助工作車Ⅲ型

写真2

重機及び重機搬送車

写真3

水上オートバイ

3.X-am5000について

X-am5000(以下「イグザム5000」という。)は最大5種類のガスが検知可能で、当本部では可燃性ガス、酸素、塩素、硫化水素及び一酸化炭素のセンサーを選択しています。

イグザム5000、イグザムポンプ及び付属品の各部名称は次の写真のとおりです。(写真4,5)

イグザム5000及びイグザムポンプの技術仕様は次の表のとおりです。(表1、2)

写真4 commentあり

イグザム5000各部名称

写真5 commentあり

イグザムポンプ及び付属品の各部名称

      

表1

イグザム5000技術仕様

表2

イグザムポンプ技術仕様

4.使用前について

⑴正確な検知をするため、清浄な空気の下で電源を入れます。(緑ボタンを約3秒押し続けるとディスプレイに「3、2、1」とカウントが表示されます。)

⑵可燃性ガス表示が点滅するとともに「!」が表示されますが、5分以内に暖機運転が終わるので表示も消えます。その他エラー表示が出た場合は、使用を控え取扱説明書を確認します。

⑶イグザム5000の電源を入れた状態でイグザムポンプを取り付けると自動でポンプの電源が入ります。(写真6)

⑷気密試験の表示が出るためホースの先端を塞ぎます。ホースの先端を塞ぐことでポンプ及びホースの気密試験を実施することができます。

⑸気密試験が正常に終了すると、吸い込みが開始され検知可能となります。

写真6

イグザム5000及びイグザムポンプ等取り付け状況

5.検知活動について

⑴出動前や出動途上の車内で電源を入れ、現場に到着する前から測定が始められるように準備します。

原則として、風上側に部署します。測定ガスは空気比により滞留、拡散することから、測定箇所には注意が必要です。また、屋内外に関わらず、ちょっとした風や空気の流れで濃度が変化することから、検知活動は継続して実施します。

⑵測定ガスは次の表のとおり予備及び主警報が設定され、設定値以上の濃度に達した場合、アラーム及びランプが点滅します。(表3)

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※単位について

【vol%】

vol%は測定ガスの体積に対する割合を表したもので、大気中の酸素濃度を表すと20.9 vol%となります。比較的濃度が高い場合に使用される単位です。

【ppm】

ppmは測定ガスの濃度を百万分の1で表したもので、比較的濃度が低い場合に使用され、1%は10,000ppmとなります。

【%LEL】

%LELは測定ガスの爆発下限濃度を100%として可燃性ガスの濃度を100分の1で表したものです。爆発下限界(LEL:Lower Explosion Limit)は、可燃性ガスの着火によって爆発を起こす最低濃度を指します。なお、可燃性ガスの着火によって爆発を起こす最高濃度を爆発上限界(UEL:Upper Explosion Limit)と言います。

メタンガスでvol%と%LELについて説明すると、メタンガスは5vol%から15vol%が爆発範囲であることから、5vol%が爆発下限界になります。この5vol%を%LELで表すと100%LELとなります。(表4)

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⑶可燃性ガスはメタンガスを基準に濃度を換算することからガスの種類は特定されてなければなりません。当本部では、ドレーゲル社から受領した換算表を基に活動しています。また、ガス濃度が爆発下限界の30%LELを超える区域は火災警戒区域として全隊に周知徹底し、二次災害防止のため区域内の火気の使用禁止及び隊員の立ち入りを制限します。

⑷当本部では測定ガスの種類ごとに、人体に対する濃度別作用表を作成し活動の参考にしています。(表5から表8)

⑸先ほど紹介した濃度別作用表に許容濃度を記載していますが、私の救助隊では、日本産業衛生学会許容濃度を使用しています。定義は労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に、当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であれば、ほとんど全ての労働者に健康上の悪い影響が見られないとされる濃度であるとされています。

このことから、当本部では、活動終了の目安として、事業所等でガスが日常的に潜在する場合は測定値「0」ではなく、日本産業衛生学会が勧告する許容濃度を参考にします。もちろん、事業所等の責任者と協議が必要です。

⑹医療機関へ搬送する際の情報として、要救助者がいた場所、測定ガスの種類、濃度及び測定時の時間は現場本部等に報告します。

⑺環境改善については、空気ボンベ及び送排風機等により実施されますが、

吹き返し等を考慮し、消防警戒区域または、火災警戒区域を広く取るとともに、可燃性ガスの場合は、警戒筒先を準備します。(写真7)

⑻参考になりますが、検知活動と併せて熱画像直視装置を使用することで、ボンベ等からガスの漏えいがあった場合、ボイル・シャルルの法則で周囲よりボンベ表面の温度が低下していることから、漏えいしているボンベ等を特定することができます。(写真8)

※当本部の熱画像直視装置はFLIR社K65を使用しており、-20℃から650℃までが対象物温度範囲となっています。

表3

測定ガスの警報設定値表

表4

メタンガス濃度のvol%と%LELについて

表5

酸素の濃度別作用表

表6

塩素の濃度別作用表

表7

硫化水素の濃度別作用表

表8

一酸化炭素の濃度別作用表

写真7

検知活動及び警戒筒先の配備状況

写真8

温度が低下した空気ボンベを熱画像直視装置にてモニターした状況(右側空気ボンベのそく止弁を開放)

6使用後について

⑴検知活動後、イグザム5000内の残留ガスを除去するため、新鮮な空気がある場所で数値が安定するまでフラッシングします。なお、測定値が「0」にならない場合は、大気校正を行います。スパン校正はセンサーごとに実行可能ですが、市販の標準ガス等を準備する必要があります。準備されていない状態で暗証番号を入力すると、使用不能になることから注意が必要です。

⑵イグザム5000を取り外すと自動でイグザムポンプの電源が切れます。

⑶イグザム5000の緑と青ボタンを同時に約3秒押し続けると電源が切れます。

7マルチガス検知警報器を使用すべき施設等

⑴酸素欠乏及び硫化水素中毒の危険性がある場所

下水道等(労働安全衛生法施行令別表6に揚げられる場所)の酸素欠乏及び硫化水素中毒の危険性がある場所で、事業所等は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者を選任しなければならないことから、関連性のある現場では作業主任者から状況及び情報を聴取します。なお、作業主任者は上記の場所について、酸素の濃度を18%以上、かつ、硫化水素の濃度を10ppm以下に保つように換気しなければならないことから、活動の参考にします。

⑵圧縮アセチレンガス等の貯蔵・取扱いの届出がある防火対象物等

消防法第9条の3に基づくものです。圧縮アセチレンガス、液化石油ガスその他の火災予防又は消火活動に重大な支障を生ずるおそれのある物質で政令により定めるものです。事業所等の責任者と早期に合流し、漏えいガスを確定してから活動に入ります。

⑶化学物質及び高圧ガス搬送車両

化学物質や高圧ガス搬送時の万一の事故に備え、タンクローリー及びトラック等に関係者等が取るべき処置を記載した緊急連絡カードがあります。黄色の紙であることから、「イエローカード」(表9)と呼ばれています。運転手及びイエローカードからの状況及び情報を聴取します。また、河川への流出の可能性がある場合は関係機関と情報共有を図ります。

⑷危険物施設

消防法で指定された数量(指定数量)以上の危険物を貯蔵し、または取り扱う施設は、用途によって危険物製造所、危険物貯蔵所、危険物取扱所の3つに区分されます。事業所等の責任者と早期に合流し、漏えいガスを確定してから活動に入ります。

表9

イエローカード

8おわりに

今回説明させていただいたマルチガス検知警報器(イグザム5000)はガス酸欠事故等の活動における重要な資器材です。検知活動は関係法令等に基づき根拠のある活動が必要ですが、その場所の環境を測定して活動が終わるわけではありません。何らかの原因でガスが漏えいした場合は、被害の拡大を防ぐとともに漏えい個所の特定及び漏えいに対する処置を実施する必要があります。さらに、複数の要救助者が発生した場合は、ショートピックアップを考慮し、ガスの濃度が比較的低い場所を指定し、他隊に周知する等、関係機関と協力し安全、確実及び迅速に救助活動を実施しなければなりません。

最後に、マルチガス検知警報器(イグザム5000)は基本的な資器材です。使用方法はもちろんですが、関係法令や皆様の所属の活動要領等をもう一度見直していただければと思います。そして、この投稿が皆さんの現場活動における知識の一助になれば幸いです。

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