240601_救急活動事例研究 75 初期症状が腹痛であったアナフィラキシーショック例 京田辺市消防本部 杉江春日

 
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症例

近代消防 2023/09/11 (2023/10月号) p679

 


初期症状が腹痛であったアナフィラキシーショック例

 

目次

京田辺市消防本部の紹介

京田辺市は京都府の南部に位置しており、豊かな自然に恵まれた文化田園都市である。す。面積は42.92km²、人口は74,351人。京田辺市消防本部は京田辺市及び隣接する井手町、宇治田原町を管轄しており、1本部1署3分署を配している(001)。

        

001

京田辺市消防本部の地勢と管轄人口

症例

59歳女性。

x年9月x日、正午頃、腹痛及び立ちくらみを訴え動けなくなったため本人から救急要請があった。活動時の時間経過を002に示す。現場滞在時間は14分。この年の本消防本部の現場滞在時間は約11.5分でありこれを上回った。

現場到着時、傷病者は自宅玄関先で腹臥位の状態で歩行不可(003)。強い腹痛を訴えた。全身の発赤(004)及び末梢皮膚の湿潤を認めた。

傷病者からの情報では、同日の午前中に咽頭痛があり、近くの開業医を受診。帰宅後、処方薬を服用(005)して約5分後に強い腹痛(006)及び立ちくらみを自覚(007)し救急要請したものであった。また新型コロナウイルス感染スクリーニング情報として、傷病者の職場では2名の新型コロナウイルス感染者がでており、傷病者は濃厚接触者であることが接触時に判明した。

接触直後に酸素をリザーバー付きフェイスマスクにて10L/分で投与を開始した(008)。車内収容後の観察では、JCSはⅠ-1、呼吸数毎分20回、脈拍数毎分92回、血圧48/35、SpO2リザーバー付きフェイスマスク酸素毎分10L投与下で89%、脈波は不安定、体温は35.4℃。皮膚所見としては全身発赤、末梢皮膚湿潤を認めた。喘鳴等の呼吸器症状は認めなかった。内因性ロード&ゴーと判断して、搬送を優先した(009)。

車内で傷病者から薬物アレルギーの既往があるとの情報を聴取したが詳細は不明であった。エピペンの処方もなかった。傷病者が症状発症前に服用した処方薬を010に示す。

病院連絡内容としては、明らかなショック状態であること、強い腹痛と全身発赤を認めアナフィラキシーの疑いがあるが、喘鳴等の典型的な呼吸器症状は欠くこと。また新型コロナウイルス関連情報として、傷病者は濃厚接触者であり咽頭痛を発症して近医を受診していることを伝えた。この時期は新型コロナウイルス感染症の第5波かつ緊急事態宣言下で、医療機関の受け入れの点で困難があった。医療機関は搬送時間約7分の直近二次医療機関を選定した。本事例で選定に要した時間は約7分であり、その年の本消防本部の病院選定時間は約3.2分で通常より時間を要した。

病院ではアナフィラキシーショックと診断され、傷病者は治療を受け翌日に退院した。

002

時間経過

003

現場到着時、傷病者は自宅玄関先で腹臥位の状態で歩行不可

004

全身の発赤

005

処方薬を服用した5分後に症状出現

006

強い腹痛

007

立ちくらみ

008

接触時に酸素投与を開始(リザーバー付きフェイスマスク酸素10L/分投与)

009

内因性ロード&ゴーと判断して、搬送を優先した

考察

アナフィラキシー患者では皮膚および粘膜症状、気道症状は多数の患者で認められる。腹痛を含む消化器症状も最大45%認められ、腹部症状も重要な症状である。アナフィラキシーの重症度分類では消化器症状として自制不能の持続する強い腹痛は最も重症度の高いグレード3と評価される1)。また、アナフィラキシーの誘因別の緊急度として、呼吸停止または心停止までの中央値は、薬物5分、ハチ15分、食物30分とされている1)。

今回の事例では、薬物摂取直後にアナフィラキシー症状を呈していることから、早期にアドレナリン筋肉注射が必要と判断し、搬送を優先したが、新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者かつ咽頭痛があったため、病院選定に時間を要した。また傷病者はショック徴候が認められており、病院選定に時間を要するのなら心停止前の輸液も考慮するべき事案であった。

情報が多く混乱した事例であったが、本症例を通じて、多くの消防職員等がアナフィラキシーについて考えるきっかけにしていただきたいと考える。

参考文献

1)一般社団法人日本アレルギー学会:アナフィラキシーガイドライン2022

https://anaphylaxis-guideline.jp/wp-content/uploads/2022/12/anaphylaxis_guideline2022.pdf

ここがポイント

本症例は・薬物服用のあとに皮膚症状と腹部症状が出現してショック状態になっているので、アナフィラキシーの判断は容易であった。

筆者も述べているように、腹部症状はアナフィラキシーの重要なサインである。腹痛に加え、嘔吐や下痢も起こす。まれに皮膚症状を欠き腹部症状だけのアナフィラキシーもあるとされるが、そうなると急性胃腸炎や食あたりと区別がつかず、低血圧の理由が説明できない。丁寧な問診と観察でアナフィラキシー に思い至るかが病院選定で重要になる。

【名前】
杉江 春日 (スギエ カスガ)


【所属】
京田辺市消防署 北部分署救急第1係


【出身地】
京都府京田辺市


【消防士拝命年
平成31年4月


救命士合格年
平成31年


趣味
写真、バイク
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