240812応急処置アップデート Q and A 16 『火傷の処置』

 
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救急の周辺

雑誌 健康教室 2023年7月号(2023/06/10発行号)p64−5

応急処置Q and A

火傷の処置について

目次

Q

 火傷をした場合、まずは患部を流水で冷やし、Ⅱ度以上なら受診、Ⅱ度以下ならドレッシング材で患部の保護を行っていますが、どのような処置を行えば痛みの緩和になるだろうかと悩んでいます。

 最近は水溶性の火傷用ジェルもあるので、買ってみましたが、ジェルを塗布した後にドレッシング材で覆っていいのか、そのままにしておいたほうがいいのか迷います。

中学校の先生からの質問

A

痛む時は冷やします。病院へ行く途中なら保冷剤に布を巻いて患部に当てます。布を巻くのは過冷却を避けるためです。ドレッシング材については受傷直後はラップ剤が無難な選択です。

解説

熱傷については、冷却温度や冷却時間、被覆材の優劣など、この10年間で推奨する内容が変化してきました。

1.冷却温度と冷却時間(001)

2015 1)

 熱傷は、できるだけ早く、少なくとも10分間、冷たい水または冷たい飲料水で冷却する。流冷水を利用できない場合は、清潔な冷水または凍らない程度の冷湿布が熱傷の冷却の代用として有用である。

2020 2)

ハイドロゲルによる被覆は熱を保持してしまうリスクがある。

2021 3)

冷却時間は少なくとも20分間。冷たい流水に創部を晒す。氷は使わないこと。新鮮な流水がない場合には冷却湿布を使用する。ハイドロゲルドレッシング(火傷用ジェル)を冷却に用いるのは、推奨するガイドラインと禁止するガイドラインがあって一定していない。 

コメント

軽い火傷であっても長時間の冷却が必要です。冷却することで痛みも軽減します。

冷却には水道水を用います。氷は細胞の代謝を止めて細胞死をもたらす可能性があるので使いません。

 

2.被覆材(002)

2015 1)

通常のガーゼなどのドライドレッシングと比較してハイドロゲルドレッシングが有用であるという証拠はない。ドレッシングに抗菌薬を混ぜることも有用性は確認されていない。

創部に蜂蜜を塗ると感染リスクや治癒期間の減少をもたらすという報告がある。

2020 2)

データが少ないため、表在性の火傷に推奨できるドレッシング材はない。

2021 3)

非固着性の乾燥したドレッシング材、清潔な布またはシーツ、ラップフィルムのいずれかで覆う。熱傷創の応急処置として軟膏の使用は避ける。

コメント

現時点では、傷口には何も塗らずラップフィルムで覆って病院へ行くのが最も好ましいようです。I度熱傷で皮膚が剥がれないようなら、患部を守るために通常の絆創膏でもかまいません。

3.火傷用ジェルの効果

冷却剤としては効果は限られていますし、ゲルが熱を溜め込んでしまう危険もありますので、他に冷却手段がないときに用いるようにしましょう。

現在、ハイドロゲルは冷却剤としてではなく、治療での創傷治癒促進剤として用いられています4)。

4.低温やけど5)(003)

低温やけどは、低音の発熱体に長時間接触することで起こる熱傷の総称です。弱い熱のため気づくのが遅れること、長時間かけて熱が深部まで浸透することから、熱傷面積に比較して深部まで組織の損傷が起こります。原因は、湯たんぽ、ホットパック、あんかなど。受傷場所は下肢と足が最多ですが、全身どこでも起こり得ます。手術を必要とする割合は湯たんぽ損傷で15-87.4%、ホットパックで91%と非常に高いため、低温やけどを疑った場合は必ず病院を受診させます。

養護の先生が経験した症例

中学3年生の女子生徒が下腿の痛みを訴えて保健室に来室しました。昨夜、湯たんぽを使用して就寝し、湯たんぽに長時間下腿が接触してしまったようです。やけどしてしまったと思い、保冷材で冷やしたのですが痛みが治まらなかったとのこと。季節柄、カイロや湯たんぽによる「低温やけど」についてのポスターを掲示していたこともあり、その生徒は相談に来たのでした。

来室時は、皮膚の赤みとヒリヒリする痛みを訴えていました。痛む部分を確認すると、痩せて背の高い彼女の細い前脛部に赤みがありました。水ぶくれはなく、一見すると軽いやけどのようでしたが、低温やけどは見た目で重症度が判断しづらいと聞いていたので、保護者に連絡し、すぐに皮膚科の受診を勧めました。

受診したところ、第2度の熱傷と診断されました。皮膚の深部まで損傷が及んでいたとのことで3か月ほど治療を行いました。

文献

1)AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート2015. シナジー、東京, 2016

2)JRC蘇生ガイドライン2020. 医学書院、東京、2021

3)Cureus 2021 Jun; 13(6): e15779

4)Clin Transl Med 2022 Nov; 12(11):e1094

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