240929_救急活動事例研究_79_電動式チェーンソーによる頸部外傷_埼玉県央広域消防本部_関根尚・荒井章太・浅見信吾

 
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症例

近代消防 2024/01/11 (2024/02月号) p85-7


電動式チェーンソーによる頸部外傷

関根 尚 荒井章太 浅見信吾
埼玉県央広域消防本部

目次

1.埼玉県央広域消防本部の紹介

当消防本部は、埼玉県のほぼ中央に位置し、鴻巣市・北本市・桶川市の三市を管轄している。
管内人口は令和4年4月現在、25万8千人で、1本部・3署・6分署、職員数332名で業務にあたっており、令和4年度の救急出動件数は約1万4千件であった(001)。

 

           001
埼玉県央広域消防本部

2.はじめに

電動式チェーンソー外傷傷病者に対し、通報段階で指令課からドクターヘリ初動要請を行ったうえ救急隊現場到着後、ドクターヘリ医師現場派遣要請に至った症例を報告する。なお、002,004,009は実際の写真であり、それ以外は再現写真である。

3.症例

75歳男性。


x年4月x日、午前9時xx分覚知。通報内容は「75歳男性、電ノコで頸部切創」。鴻巣1隊と自隊である救急鴻巣西1隊がPA連携出動、指令課初動要請にてドクターヘリが要請され、ヘリ支援として天神1隊が出動した。自隊は3人構成で全員救急救命士であった。

傷病者に接触して状況を聞くと、「松の木に梯子をかけ(002)、枝を剪定中にチェーンソーが跳ね返り(003)、怪我をしてしまった。玄関までは自分で歩いてきた。」とのことで、家族により救急要請がなされていた。接触から間もない傷病者を004に示す。自身は傷病者の身体を支えながら、局面指揮者として救急隊員及び警防隊員に指示を出していた。

観察の結果、チェーンソー先端が左頸部に喰い込んでおり、チェーンソーを離脱できない状況での搬送は不可と判断、隊員に命じドクターヘリ医師現場派遣要請を行った(005)。初期評価で、循環血液量減少性ショックを認めたため、機関員にショック輸液を命じ、病院から指示要請後、実施した(006)。救急有資格者の警防隊員に対しショック輸液の補助(007)と、バイタルサインの測定(008)を命じた。表1に輸液前後のバイタルサインの変化を示す。

ドクターヘリが飛行場外離着陸場に到着後、天神1隊が現場まで医師を搬送、到着した医師が刺入物を除去し、チェーンソー離脱が完了した。チェーンソーを観察すると、傷病者の衣服がチェーンソー本体に巻き込まれ(009)機械が停止したため、死亡を免れたと推測された。

その後、飛行場外離着陸場の埼玉県消防学校まで搬送、空路にて埼玉医科大学総合医療センターに搬送した。
初診時傷病名は左頚部挫創、傷病程度は中等症であった。
時間経過を表2に示す。覚知から医師が到着するまでは、34分であった。

002
松の木に梯子をかけた。実際の写真

003
枝を剪定中にチェーンソーが跳ね返った

004
傷病者のようす。実際の写真

005
医師現場派遣要請
※隊員別がわかるように、活動服で撮影した。

006
ショック輸液を実施した
※安全のため、チェーンソーは外して撮影した

007
ショック輸液の補助

008
バイタル測定

表1
輸液前後のバイタルの変化

009
チェーンソー。実際の写真。傷病者の衣服がチェーンソー本体に巻き込まれたことで機械が停止し、死亡を免れたと推測された

表2
時間経過

4.考察

現場周辺地域から直近の三次医療機関まで陸路で22Km、平均搬送時間は31分である。本症例で現場滞在を10分として算出すると、覚知から病院到着まで57分となり、ドクターヘリ医師による医療介入が34分で実施されたことは傷病者にとって有益であったと考えられる。また、チェーンソーが左頸部に喰い込んでいたため、無暗に移動させることにより、血管損傷を引き起こす可能性があったため早期の医師介入は有効であった。


埼玉県ドクターヘリ運航開始の平成19年度から令和3年度まで、指令課に配属されている職員のうち救急救命士が占める割合と、ドクターヘリ要請が初動(覚知)段階で行われた割合を調査したものが010であり、指令課における救急救命士の割合と初動要請の率は関連性があると考えられる。初動要請のメリットは、消防隊による飛行場外離着陸場の安全確保や散水作業などを早期に行い、10分以内に飛行して来るドクターヘリの上空待機を減らすことで、フライトドクターの傷病者接触までが円滑になる。


一方、初動でドクターヘリを要請することは傷病者の状態を把握せずに要請することになり、オーバートリアージの可能性も高くなる。しかし、私は病院実習中に、フライトドクターから「通報段階でヘリを要請、それがダメなら収容依頼1件目でヘリを要請。オーバートリアージOK!キャンセルOK!軽症ならヘリは帰るだけ。病院連絡もするし、家族説明もするよ!」との言葉をもらったことがある。私たちはこの言葉に委ねることがないように覚知・初動段階から傷病者の正確な情報を得られるよう精励し邁進していく所存である。

010
指令課に配属されている職員のうち救急救命士が占める割合と、ドクターヘリ要請が初動(覚知)段階で行われた割合の関係


〇プロフィール

名前
関根 尚
フリガナ
セキネ ヒサシ
所属
埼玉県央広域消防本部
出身地
埼玉県鴻巣市
消防士拝命
平成6年4月
救命士合格
平成19年4月
趣味
楽器演奏、読譜

 

ここがポイント


チェンソーについては本誌2023年4月号「今さら聞けない資機材の使い方」で取り上げられている。それによると、「チェンソーを安全に使用し活動を行うために、防護服等を正しく着用する義務があ」ると書かれている。また危険事項としてはキックバックとして鋸歯が作業者に跳ね返ってくることが書かれている。今回の事例は、防護具を全くつけていない作業者がキックバックなどでコントロールを失った鋸歯によって頸部を損傷したものである。総頚動静脈がある場所を切っているので、命があるのはただただ幸運だった。
救急隊ができることはこの原稿に書かれてある通り止血とショック輸液である。ドクターヘリを呼ぶのも適切な行動であった。

 

〇プロフィール
名前
関根 尚
フリガナ
セキネ ヒサシ
所属
埼玉県央広域消防本部
出身地
埼玉県鴻巣市
消防士拝命
平成6年4月
救命士合格
平成19年4月
趣味
楽器演奏、読譜
症例
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