月刊消防 2024/01/01号 p19-22
入東Ladder Rescue System「ラダー・レスキュー・システム」~早期安静救助を目指して~
目次
1考案経緯
一般住宅やマンション、ビル等において宙吊り状態からの救出事案が発生した際、はしご車の部署不能、活動階に上部支点が取れないことや活動スペースが限られ、後方に強固な支持物等もない状況下で救出が求められる現場があるかと思います。そのような条件下においても要救助者を安静及び安全に救出できるシステムを構築するため考察を重ねた結果、かぎ付きはしご2台及びロープレスキュー資機材を活用した宙吊り救助システム、SuspensionLadderRescueシステム(以下「SLRシステム」という。)を考案しました。
2システム概要
⑴SLRシステムの概略
写真3-1システム全景
SLRシステムの根幹となるのが、かぎ付きはしごを2台使用することです。2台のかぎ付きはしごの両端をウェビングテープイエローにて固定し連結させます。
◎ここがポイント!
2台のはしごを連結することにより、基底部を抑える隊員が必要最低限となり、活動の幅が広がります。
さらに独立した2つのシステムを同時に使用するよりも、1つのシステムにすることで監視がしやすく、安全管理の徹底を図れます。
2台のうち1台には救助者用としてCSRプーリーキット(4倍力システム)とビレイロープを設定し、もう1台には要救助者用としてメインロープ、ビレイロープを設定します。
救助者用のメインロープとしてCSRプーリーキットを使用し、操作員は上階の隊員が行い、ビレイロープを操作しながら進入します。
進入後、要救助者用の1台から縛帯資機材を垂下させ、要救助者にメインロープ、ビレイロープを設定し、先に進入隊員を地上へ降下させ、要救助者を安静に降下させるシステムになります。
⑵SLRシステムが選択される救助現場写真
3-2予想される現場状況
宙吊り状態の救出事案において、選択される救出方法はいくつかあると思います。車両クレーン、はしご車、はしごクレーン、アリゾナボーテックス、人力確保。
しかし、車両が直近部署出来ない状況下であったり、はしごクレーン等で使用する大型資機材の搬送不可であったり、隊員の負担が大きい場合があると思います。
一方、SLRシステムは限られた活動スペースで大型の資機材は使用せず、さらには隊員の負担を軽減することが出来ます。
以上のことから、SLRシステムは二の手三の手となる重要な救出方法の一つとして挙げられるシステムとなるでしょう。
⑶SLRシステムの特徴
SLRシステムは、キャンタリバーラダーの応用として、考案された救助方法です。まずキャンタリバーラダーの特徴である、てこの原理を利用します。しかしベランダ幅によってはかぎ付きはしごの先端が出過ぎてしまう場合もあります。そのまま使用すると力点には大きな力が加わり、隊員への負荷が増し、最悪の場合、システムの崩壊に繋がります。(図1)
◎ここがポイント!
手摺や框にかかる支点の位置から作用点の位置をできるだけ下げ、力点となるかぎ付きはしごの基底部の踏む力を最小限にすることにより隊員の負荷も軽減されます。(図2)
ベランダ幅が狭い場合には、掃き出し窓を解放するなど、基底部を下げるための後方スペースの確保が必要です。
写真3-3
進入中の状況
これらのことを踏まえたSLRシステムの特徴が以下の5点になります。
・大型資機材を使用しない
・隊員が容易に進入可能
・強固な支持物や上部支点等を必要としない
・確保員の負荷が少ない
・CSRプーリーキッドやロードテンダー(4倍力システム)を使用することにより上下活動が容易
3使用資機材
3-4使用資器材一覧
かぎ付きはしご×2CSRプーリーキット(4倍力システム)×1
編み構造ロープ×4カラビナ×4
ロードテンダー(4倍力システム)×1
ビクティムハーネス×1ウェビングテープイエロー×2
オープンスリング×2
4システムのメリット・デメリット
⑴メリット
・少ないスペースで活動可能
・強固な支持物は必要ない
・活動人員4名で救出可能
⑵デメリット
・手摺や框が強固でなくてはならない
・ある程度のベランダ幅が必要
・吊り下げ救助のみで引き揚げは不能
5活動の流れと設定詳細
⑴資機材の搬入
全ての資機材を活動場所へ搬入します。屋内が狭隘であれば、上階からロープ等で引き揚げます。
かぎ付きはしごを架梯する手摺や框等に養生を設定します。
⑵かぎ付きはしご設定
ア 2台のかぎ付はしごをウェビングテープイエローにて両端を強固に連結します。
イ 1台にはオープンスリングを使用し、CSRプーリーキッドを設定します。最下段から這わし、ビレイロープを設定します。もう1台にはキャンタリバーラダーの設定要領でメイン、ビレイロープを設定します。メインロープの先にはロードテンダーと縛帯資機材を取り付けます。
写真3-5上からの設定状況
写真3-6連結固定状況
写真3-7横からの設定状況
写真3-8前からの設定状況
ウ要救助者用のかぎ付きはしごを要救助者の居る直上に設定し、支点、力点、作用点の位置を確認します。
写真3-9システムと要救助者との位置関係
◎ここがポイント
各はしごに設定した高取支点の位置を互いに寄せ過ぎず、遠ざけ過ぎずを意識し設定します。救助者の作業効率が悪くなる可能性があります。
⑶隊員進入及び救出
ア CSRプーリーキッドを使用するため余長が取り切れず、隊員進入時制動がかからない状態になります。そのため、ビレイロープに一時荷重をかけ替え、進入位置に移動後、CSRプーリーキッドに再度荷重をかけ直します。
写真3-10荷重かけ替えビレイ
写真3-11荷重かけ替え状況CSR
イ CSRプーリーキッドで要救助者位置まで降下した後、上階から縛帯資機材を降下し、要救助者の縛着を実施します。縛着後、ロードテンダーを引き、要救助者の荷重を元々吊られていたロープ等からメインロープにかけ替えます。
写真3-12救助ロープへの荷重かけ替え状況
縛着した要救助者に誘導ロープを取り付け、救助者は地上に降下します。
写真3-13救助員の降下状況
エ上階隊員はメインロープ、ビレイロープを、地上の隊員は誘導ロープを操作し、安静に要救助者を地上に降ろし救出完了となります。
写真3-14救出状況
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