120603高齢者の救急対応(3)心疾患

 
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高齢者への救急対応(第3回)

「心疾患」

名前 千種 将志(ちぐさ まさし)
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所属 留萌消防組合消防本部予防課予防係
年齢 25歳
出身 北海道浦臼町
出身校 北海道ハイテクノロジー専門学校
消防士拝命 平成20年4月
救急救命士資格取得 平成20年4月
趣味 サッカー・釣り

はじめに

今回、「高齢者の心疾患」をテーマとし掲載することとなりました。

現在、心疾患は悪性新生物に続き日本人の死因第2位であり、救急搬送における心疾患の割合も非常に高いものとなっております。

平成22年の留萌消防組合における救急出動件数は952件、そのうち心疾患で搬送した患者は95名でした。また、95名中78名の約8割が65歳以上の高齢者と心疾患患者の占める高齢者の割合は非常に高いものでした。

高齢者の心疾患の特徴

一般的に言われる高齢者の心疾患は、狭心症では胸部痛などの特徴的な症状より呼吸苦や疲労感、またはただ気分が悪いといった漠然とした症状を訴える患者が多いこと、心筋梗塞では胸の痛みを訴えず消化器症状を訴える患者が多いなど、通報内容や現場での聞き取りでは心疾患とは分からないことが特徴として挙げられます。はっきりとしない症状の患者をいかに心疾患と判断し活動できるか。これには症状・バイタルのみならず、問診の果たす役割が非常に重要になってきます。

問診では過去の病気や現在の通院状況が大切です。高齢者は加齢に伴う動脈硬化のほか、高血圧・高脂血症・糖尿病等の動脈硬化のリスクを高める基礎疾患(表1)で通院している可能性が高く、また過去に心筋梗塞・狭心症など循環器系の疾患を発症している例もあります。また、高齢者は自分の既往症や常備薬を救急隊にうまく伝えることができ患者も多くいます。そのような時は、家族などに発症したときの状況や、既往症、常備薬、掛かりつけなどを聴取し、的確な情報を得て搬送病院の医師に引き継ぐようにしましょう。

表1
————–
心疾患の危険因子
————–
高血圧
肥満
高脂血症
糖尿病
痛風
長年の喫煙
————–

急性心筋梗塞

急性心筋梗塞では約80%が激しい胸痛に襲われると言われています。しかし高齢者の場合、胸痛を全く感じない場合や、若干の違和感を感じるのみで、平気そうな顔をして「なんか胸が変な感じがする」などとの返答が返ってくる場合があります。所見や症状だけにとらわれず、確実に主訴を聞きだし「胸が・・・」という言葉を聴取できたなら心疾患の可能性があるということを常に頭において活動しましょう。

急性心筋梗塞の基本的な搬送は座位です。これには心臓の前負荷を減らし、心筋の酸素の重要を減らす作用がありますが、傷病者によっては仰臥位や側臥位が最も楽だとの訴える傷病者もあり、搬送体位に迷うこともあります。そのような時は、本人にどの姿勢が一番楽な姿勢かを聴取し、傷病者にとって一番負担のかからない体位で搬送しましょう。また、傷病者の多くは接触時に自然と自分が一番楽な体勢をとっていることが多いので、苦しくて会話できない傷病者や認知症のある傷病者など本人に確認を取れない場合はその時の体位を参考にするのも良いかと思います。ただし呼吸苦を訴えている患者を仰臥位搬送してしまうと、呼吸苦を悪化させ容態が変化する可能性があるので注意が必要です。

また、急性心筋梗塞の傷病者で特に注意が必要なのは、急激な容態の変化です。心疾患を疑う患者に対しては、心電図モニターを装着し心機能の異常によるST波形の異常の有無、重大な不整脈の発生や波形の変化に注意し搬送しましょう。また、搬送するにあたり常に患者の容態を観察し、除細動や必要に応じた救急救命処置を念頭に置きながら搬送しましょう。

○症例1

89歳 女性 診断名:急性心筋梗塞

通報内容:母がトイレの中で嘔吐し体に力が入らず動かすことができないので救急車お願いしますとの通報で出動。

 現場到着時、傷病者は家族の介添えのもと、トイレ内に座位でいました(写真1)。

JCS1、脈拍43回/分、Spo2 89%。全身冷汗が見られ、苦悶様表情。トイレ内に吐物あり。本人に主訴を聴取したところ、胸が気持ち悪く呼吸がしづらいとのことでした。
家族に事情を聴取し、急に吐き気を発症しトイレに連れて行ったところ、体に力が入らなくなり動かすことができなくなったとのこと。既往症に高血圧で病院に掛かっているとのことでした。

 フェイスマスクによりO2 2L投与実施し、本人が仰臥位での搬送を希望したため、仰臥位でスクープストレッチャーに収容し、車内に収容しました(写真2)。

 車内収容後、バイタル測定し脈拍42回/分、呼吸30回/分、Spo295%(2L投与継続)、血圧182/104mmHg、体温35.8?、心電図モニターにてST上昇が確認できました。(写真3)

その後、変化なく病院へ収容し、医師へ引き継ぎました。

うっ血性心不全

うっ血性心不全での主な主訴は呼吸苦ですが、嘔気、冷汗などの症状がみられ、呼吸器・循環器・消化器系疾患などの可能性も疑われる場合があり現場での判断が難しい場合があります。そのような場合はまず生活習慣や既往症を聴取しましょう。高齢者でうっ血性心不全を起こしやすくする疾患は虚血性心疾患がもっとも多いと言われております。次に挙げる症例2の場合も家族に既往症を聴取したところ心筋梗塞がありました。高齢者の場合は何らかの疾患にかかっている可能性が高く、既往症は全ての症例において大きな手がかりとなります。

心疾患傷病者では全身にわたる冷汗、嘔気や便意、呼吸困難など心疾患を疑わせる症状が多く見られる人もいますが、心疾患傷病者であっても場合によっては症状が全く現れていない人もなかにはいますので、どんな些細な症状や訴えも見逃さないように十分注意が必要です。

また、心不全を呈している患者では胸の不快感より呼吸器症状が現れやすいという特徴がありますが、少しでも心疾患を疑うならば必ず心電図モニターを装着し波形を確認しましょう。

心不全の場合、心臓のポンプ出力の低下により、全身に血液を送り出せない状況になり、心臓に入り込む血液量も不足します。その結果、肺の機能を低下させSpo2を低下させてしまいます。心筋の酸素欠乏を防止する為、状況を見て酸素投与を行いましょう。また、酸素を投与してもSpo2が改善されない場合には、呼吸と同期させての補助換気も考慮しましょう。

症例2

82歳 男性 診断名:うっ血性心不全

通報内容:現在呼吸が苦しく吐き気があるが吐くことが出来ず動くことも出来ないので救急車お願いしますとの通報により出動。

 現場到着時、傷病者は便意を催し、自宅トイレ(洋式)に家族の介添えのもと立位でいました(写真4)。

意識レベルはJCS1、顔貌は蒼白で苦悶様、全身に冷汗が見られ呼吸は努力様でした。

 本人に主訴を聴取したところ、呼吸が苦しいだけで胸の不快感は全くなく、若干の嘔気があるとのことでした。家族に状況を聴取し、通報の10分程前に突発的に呼吸苦を発症し自力歩行困難になったとのこと。既往症に呼吸器系の疾患はありませんが、過去に心筋梗塞になり、現在も定期的に通院しているとのことでした。現場にてバイタルを測定し、脈拍114回/分・Spo2 64%・体温36.4?。Spo2の低下が顕著に見られたため、リザーバ付き酸素マスクにてO2 10L投与を行い、レスキューシートを活用(写真5)し

座位にて車内に収容しました(写真6)。

車内収容後バイタル測定を行い脈拍110回/分・呼吸38回/分・Spo285%(10L投与継続)・血圧168/92mmHg(右)142/82mmHg(左)・瞳孔左右3mm(対光反射:迅速)、搬送途上にSpo295%まで上昇、呼吸苦も若干改善し病院へ収容し医師へ引き継ぎました。

おわりに

先に述べた通り、高齢者の心疾患は救急出動する上で必ず搬送する症例であり、発症すれば重症度・緊急度ともに非常に高くなります。特に高齢者の場合は傷病者により様々な症状を呈し、現場で判断するには難しい場合もありますが、的確な処置・搬送を行い、それ以上症状を悪化させることのないよう医師に引き継げるようにしましょう。


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12.6.3/2:28 PM

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