241015救急隊員日誌(234)自分を超えて消防署を支える

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2024/01/01, p63
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「自分を超えて消防署を支える」

 

 子供の頃は、「自分が中心になって世の中が回っている」と思っていた。自分の目に見えないものは存在せず、そう、自分がまるで世界の主人公かのように感じて生きていた。
消防士になってもその考えは変わらなかった。「群れの一部になりたくない」と励んでいた。消防署という小さな職場で群れるのではなく、大きなことを成し遂げた方が自分の利益に繋がると思っていた。やがて、消防士の経験が増えるにつれて、徐々に「世の中は自分中心で動いていない」ことに気づく。気づくというか、現場で学ぶという方が正しい。「誰かがいないと、僕は何もできないんだ・・・。」と気づき、絶望感を味わう。しかし、その事実をいつの日か受け入れて、そして様々なことを諦めて、社会と折り合いをつけて大人になっていく。
 僕の考えが間違っていたことは、例えばアリの群れを見ればわかる。一匹一匹のアリは、見事に連携して大きな目的を果たしている。「この餌はどこに運べば繁盛するのか。」「巣を守るためには、総出で外敵と戦わなければならない。」とか。例えば一匹のアリが「群れの一部になりたくない」と考えたとしたらどうか・・・。その結末は想像の通りだ。そう。世の中は、自分を中心に回ってなんかいないのである。
 何が言いたいかというと、組織人である以上歯車になることの力を知ろう。ということだ。どんな役割でも仕事の目的を理解し、適切な歯車に形を変える力を身につける。大きな歯車かもしれないし小さな歯車かもしれない。歯の一部が欠けた歯車が、ちょうどいいのかもしれない。その組織の中で求められている役割を理解し、自分自身も仕組みの一部に組み込まれるようにする。もしあなたが、「私一人の力で全てやってあげている」と考えたとしたら、それは錯覚だ。この世は、たった一人では仕事ができないようになっている。その現実に早く向き合うべきだと思う。
 そんなこと言っても、「うちの会社には、あなたがいないと困るんだ!」と言われると嬉しい。人は誰しも、替えの利かない人になりたいからだ。もちろん僕だってそう。特別扱いされたい。エースでいたい。でもよく考えてほしい。組織としては、「その人がいないと仕事が回らない」というとても危ない状況なのである。つまり良い組織というのは、「組織の中でいつでも替えが利く」状態を維持している組織のことだ。例えその優秀な人が抜けたとしても、他の職員がカバーできる。そう、組織にとってスーパーマンは必ずしも必要ではないのである。
 私の消防署でも例外ではないのだが、組織はつい個人に依存している状態を放置してしまう。率先して人がやらないような仕事をやってくれる人が、あなたの職場にもいると思うが、その存在に甘えてしまう。だから忙しい職員はとても忙しいし、暇そうな人は、いつまでたっても時間を持て余している。という状況が発生する。そしてその優秀な職員は、次第に疲弊し、呆れて転職してしまう。もしくは病気になってしまう。そのような状況を作り出さないためには、組織として個人に依存しない仕組みが必要なのだろうと思う。
 公務員は2、3年で部署を移動する。これは個人に依存せずに仕事を進めると言う点において、とても理にかなったシステムだ。限られた期間の中で仕事を回すには、自らが周囲に合わせ、そのメンバーに沿った歯車とならざるを得ない。世界の主人公は一人でなくて良い。歯車それぞれが主人公となるように、仕事を進めていきたいと思うのであった。

 

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