救助の基本+α(20)槽内救助
2018年4月11日水曜日
槽内救助
1 はじめに
はじめに、私たちの町、上尾市について紹介したいと思います。上尾市は、首都東京から北へ約30㌔の距離にあり、埼玉県の南東部に位置しています。上尾市は「あなたに げんきを おくるまち」をスローガンに、新たな時代に向けた町づくりに取り組んでいます。
上尾市消防本部は、1消防本部2署4分署体制で構成されており、上尾市中央部分を縦断しているJR高崎線を境に東西の署で救助隊を保有しております。また平成27年4月より緊急消防援助隊に特殊装備部隊として3t重機及び搬送車が総務省消防庁より配備されています。
上尾市では年間約200件の救助出動があり、多様な救助事案に対応するために、日々訓練を行っております。今回は、救助の基本+αシリーズ「槽内救助」について執筆させていただきます。
上尾市のイメージキャラクター
「アッピー君」
2 槽内救助とは
槽内救助とは、地下に埋没された受水槽、浄化槽、地下槽、地下タンク等出入り口が狭い立て坑内で発生した事故による要救助者の救出活動です。
上尾市では以前、井戸に落ちた要救助者を救出した事例があります。
今回はマンホール内における酸欠事故の救出活動を紹介したいと思います。
通常大気中の酸素濃度は約21%ですが、18%が安全限界、16%で頭痛や吐き気を発症、8%以下で死の危険があります。酸素欠乏の危険性を踏まえ、呼吸保護具の使用や環境測定等の安全管理に配慮して活動します。
3 使用資器材
マンホール救助器具一式(ロールグリス本体、アルミニウム製三脚、ロープコントローラー×2)
ロープ30m×4(隊員確保、要救助者2次確保、ボンベ投入用、誘導)
カラビナ
空気ボンベ(投入用)
空気呼吸器
複合ガス検知器×2
担架・縛帯(デラックスサバイバースリング、エバックハーネス、バーティカルストレッチャー)
4 活動
① 環境測定
有毒ガス及び、酸欠等が疑われる場合には空気呼吸器を着装し環境および槽内を複合ガス検知器
(GX-6000)にて測定。可燃性ガスが検知された場合には警戒区域を設定する。
② ボンベ投入
測定の結果に応じて空気ボンベを投入し槽内環境の改善を行い、隊員進入後に要救助者の近くに移動する。
送排風機での換気は有効であるが、進入スペースが狭い場合には活動障害となる。
また、吹き返しが考えられるので、地上での検知活動を継続する。
ボンベを毛布で覆うのは、ボンベの保護と同時に、壁面等の接触による火花の発生防止になる。
③ 進入
進入スペースの大きさを考慮し、可能であれば空気呼吸器を背負ったまま進入する。
タラップ等が活用できる場合には隊員を確保し、進入。活用できない場合にはマンホール救助器具等を使用し降下する。
進入隊員の不測の事態に対応できるよう、空気呼吸器を着装した隊員を待機させておく。
④ 要救助者縛着(資器材選定)
槽内環境が良い場合は要救助者に不安等を与えずより安全な方法で救出し、重症度、危険性が高い
場合にはより短時間で救出できる方法を選択する。
また救出時間、槽内環境の危険性、救出空間の狭隘度合及び、要救助者の受傷機転等を考慮し縛着を行う。
デラックスサバイバースリング
槽内環境の危険性が高く、緊急に救出する必要がある場合に選定する。
素早く縛着することができる。
エバックハーネス
槽内環境の危険度が低く、救出口に余裕がありSMR(全脊柱固定)
を考慮する必要がない場合に選定する。
意識のある要救助者に不安を軽減でき、容易に縛着することができる。
バーティカルストレッチャー
槽内環境の危険性が低く救出口が狭い場合に選定する。
SMRを考慮した搬送ができ垂直吊りすることもできる。
⑤ 救出
要救助者の直下に当たらない位置で誘導ロープを操作し、壁面等に接触しないようにする。
マンホール救助器具にて救出する場合は三脚の転倒に注意する。
救助工作車クレーン
地盤が強固で車両が部署できる場合は救助工作車のクレーンや梯子車などを有効活用する。
5 +α
槽内救助時の環境測定は通常、槽外から有毒ガス測定器(GX-111)等を使用し実施するが、当救助隊ではそれに加え、進入隊員が軽量のポータブル複合ガス測定器(GX-6000)を携行し、環境測定を行っている。
複数の測定器を活用することで、より正確な環境測定ができること、進入隊員が周囲環境を常に把握できることにより不安感を軽減できる。測定器は、大腿部に装着することにより、活動時でも両手を使わずに測定値を確認できる。
タラップ降梯時の測定値確認
要救助者縛着時の測定値確認
進入隊員の不安を取り除くものとして、信号付き投光器を携行し進入する場合も蓄光式コードを使用することで、進入隊員が退出路を視認できる。
6 おわりに
上尾市消防本部では定期的に電力会社の地下施設やごみ焼却施設等を使用し、日ごろの訓練環境とは違った環境での活動訓練を実施しております。
近年、都市構造の複雑化に伴い、現場活動も多種多様化し、人命救助活動は困難の一途をたどっております。この様な時代の変化に対応するには、現場に即した状況で、様々な訓練を行い高度な専門的知識や技術の向上を図る必要があると考えます。
訓練は隊員間のコミュニケーションを向上させ、隊のレベルアップにも繋がると思います。
今回、「槽内救助」を紹介させていただきましたが、ひとつの方法として参考にしていただければ幸いです。
上尾市消防本部
東消防署 消防第一課 特別救助隊
消防士長 下山 啓介
消防士長 松崎 智弘
協力
下栃棚 純也
大澤 友秀
渡邉 雅人
山下 剛流
小川 晃輝
春原 健太
野村 健太
天羽 哲郎
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