木材伐採作業中の下敷き事故

 
  • 726読まれた回数:
症例
DSC_2383

木材伐採作業中の下敷き事故

2018年4月5日木曜日

Jレスキュー投稿

2017/2月号掲載

木材伐採作業中の下敷き事故

出雲市消防本部

新田 幸一1) 板倉 孝洋1) 飯塚行則2)

1)出雲市消防本部出雲消防署 特別救助隊

2)出雲市消防本部 指令課

著者連絡先

出雲市消防本部

〒693-0004 島根県出雲市渡橋町253番地1

電話 0853-21-2119

 

はじめに

今回、車両停車位置から徒歩にて事故発生現場まで長時間を要する山中で、木の伐採中に作業員が伐採木の下敷きとなり、CPAに陥るも社会復帰した救助事例を経験したので紹介する。

 

1 通報内容

 平成28年3月某日の14時30分頃、携帯119番通報で「20歳代の男性作業員、山中において雪害木の処理作業中、伐採木の下敷きとなった」と作業関係者からの通報。

通報者によると現場まで整備された道はなく、車両の進入が不可能で高低差のある山間部を入山した地点(写真1)で、発生場所は携帯電話の電波が届かない地理状況である。

写真1

実際の事故現場。

2 指令及び出場、現場到着までの状況(写真1)

 災害受信時、目標物がなく現場の特定に時間を要した。さらに出場途上、発生場所は救命救急センターまで救急車搬送で約1時間と推測される地点であった。

通報内容から、本事案に管轄指揮隊(1隊)、特別救助隊(1隊)、活動支援隊(2隊)、救急隊(2隊)が出場する。また、発生場所から車両停車位置まで陸路搬送に長時間を要するため、防災ヘリでの救助を考慮し島根県防災航空隊に出場準備を依頼、さらに現場医師投入のため島根県ドクターヘリの出場要請を行ったと指令室より出場途上に追加情報を得る。

県道沿いの集結場所へ到着。現場への入山口付近で、最先着の指揮隊と救急隊Aが作業関係者と接触し「山の斜面の倒木を伐採作業中、伐採木が高所から斜面を転がり落下(写真2)して下敷きになった(写真3)。既に木は除去した(写真4)が呼吸状態が悪く現場までは、徒歩で30分程度を要する」との情報を得た為、119番入電時に情報提供を行った島根県防災航空隊へ本要請を行い、入山口付近に現場指揮本部を設置する。

通報内容及び関係者からの情報をもとに、要救助者は「救急隊判断緊急度(赤)」と推測し、現場指揮本部において想定される現場環境、傷病者状況の共有を図る。最先着隊が作業関係者から状況聴取中に最寄りの署から活動支援隊Aが到着した。活動支援隊Aと救急隊A(先着活動隊)で、救助資器材(SKED、3つ打ちロープ等)及び救急資器材を携行し関係者の誘導で入山を開始する。程なく到着した特別救助隊も救助資器材(山岳救助資器材等)を携行し入山を開始する。また、現場から最寄りの臨時離着陸場へ着陸したドクターヘリの医師、看護師を活動支援隊Bによって入山口まで搬送し支援隊Bと共に入山を開始する。

先着活動隊が入山開始から約20分後、要救助者に接触した際、緩斜面で関係者に介護されおり、要救助者情報は次の通り。

写真2

写真右側のような伐採木が高所から斜面を転がり落下

写真3

作業員が伐採木の下敷きになった

写真4

関係者により倒木は切断され抜去された

3 要救助者、接触時の状況(写真2)

初期評価(写真5)にてJCS―Ⅰ桁、呼吸やや早く、橈骨動脈微弱、やや不穏状態で顔面蒼白を認め、右肩の痛みを訴えていた。全身観察にて前頸部及び胸部点状出血(+)(写真6)右下腹部圧痛(+)右上肢運動・知覚異常(+)を認めた。

さらに関係者からの聴取によると、体幹部が倒木の下敷きになっていた時間は約5分程度。倒木を除去後、意識及び呼吸がなかったため胸骨圧迫法を行ない、2分後に弱い反応が出現したことを聴取する。

胸部点状出血から、外傷性窒息による心肺停止状態CPA(自己心拍再開ROSC)を疑い、直ちに高濃度酸素投与、発生機序から高エネルギー外傷とし全脊柱固定を行なう。

情報及び観察結果から、救急隊判断緊急度として「総合判定Ⅰ(赤)」と出場隊員で情報共有する。後着した医師により、診察と点滴処置を実施(写真7)、収容先の島根県立中央病院救命救急センターへ受け入れ要請を行った。

写真5

要救助者と接触

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

写真真6

要救助者の前胸部に見られた点状出血。再現写真。

写真7

後着した医師により診察と点滴処置を実施

4 救助活動

陸路での徒手搬送は時間を要するため、現場医師と協議を行い、要救助者の容体からも上空へ到着した防災ヘリでの早期救出、病院への搬送を行うこととする。防災航空隊員2名がWホイスト降下により投入され要救助者の状況等を引き継ぎ、バーティカルストレッチャー(写真8,9)でピックアップされ、島根県立中央病院救命救急センターへ搬送となる(表1)。なお、要救助者の早期病院収容が優先であること、下山ルートの安全も確認されていたため防災航空隊員1名は当本部の隊員と徒歩にて下山した。

写真8

要救助者に行った全身固定。再現写真。

写真9

防災航空隊により島根県立中央病院救命救急センターへ搬送

表1

本事例での時間経過

5 考察

 本事案は、受信時から現場到着及び救出活動が困難と推測され、入電当初から消防機関、医療チーム、県防災航空隊の連携を駆使し対応することで救命効果が期待できると判断し活動を行った。結果、医療機関収容までスムーズな活動が行えた。

受信時の情報を基に出場隊に指令室からの要救助者の情報提供、さらに現場到着し、観察及び応急処置の内容、患者の評価を全出場隊員で共有し活動すること、さらには他機関と情報共有及び意思統一することで、救命率の向上につながると考察する。

また、出雲市消防本部では平成9年より、救急隊が傷病者観察等で得た結果から「総合判定Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」というワードを使用し「Ⅰ(赤)・Ⅱ(黄)・Ⅲ(緑)」の3段階評価で重症度を管轄医療機関と共有している。これは平成25年から全国統一された「救急隊判断緊急度」と類似したものであるが、共通ワードがあることで傷病者重症度と伝達時間の短縮が図られることは大きなメリットと考える。さらに「病院判定Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」として医療機関より「重症度」及び「診断名」がフィードバックされ、救急隊判断との整合性を検証することで、現場活動の質を向上させる一助となっている。

本事案は関係者により要救助者に倒れ掛かった木材が除去されていたが、仮に除去されていない場合には、険しい山道を複数の救助資器材を長距離搬送しなければならない。その様な場合における資器材の選定、安全、迅速な搬送方法などを日頃から訓練するとともに、防災ヘリ等を活用して現場の直近へ人員や資器材をホイスト装置で投入するなど効率的な活動も視野に入れることも課題である。

6 おわりに

 今回の事案のように、消防、防災航空隊、警察、医療チーム等、複数の機関が合同で活動を行う事案が近年多発している。この様な現場では、共通用語を統一し、特に情報共有を図り円滑な活動をする必要がある。今後も計画的に合同訓練や意見交換などの検討会を継続することによりスキル、知識の習得を高め、横の繋がりを深めることで顔の見えるより良い関係を構築していき、一人でも多くの尊い命を救うために研鑽していきます。

新田幸一

・消防士拝命年  平成6年
・年齢        40歳
・趣味        釣り・キャンプ

板倉 孝洋

・消防士拝命年  平成6年
・年齢        40歳
・趣味        ドライブ・キャンプ

 

医師からアドバイス

旭川医療センター 玉川進

林業・木材製造業労働防災防止協会によれば、多少の増減はあるものの林業作業中の死傷者の数は年々減少している。しかし平成27年においても死亡者数は38名であり、その半分は自分が木を切っている時に起こっている。死傷者の年齢は60歳以上が1/3であるが、それより下の年齢では20代は少ないものの、20代、40代、50代はほぼ同数となっている。

本事例での心肺停止の原因は、胸郭が強度に固定されたための窒息である。前胸部に見られた点状出血は法医学では溢血点と呼ばれるもので、窒息を原因とする低酸素もしくは死線期の血圧の上昇により毛細血管壁が破綻し、小出血を起こしたものである。縊死時の眼瞼結膜にできるものが代表的であるが、餅などで喉を詰まらせた時にもよく観察される。

点状出血が見られ、それが窒息によるものと推定されれば、原因を取り除いた上で気道確保を行わない限り救命は不可能である。本事例では周囲の作業員が総出で倒木を取り除いたことで胸郭が解放され換気が可能となった。また他の作業員による胸骨圧迫も受けていることは、島根県での救急救命の取り組みの成果と言えよう。

症例
スポンサーリンク
opsをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました