230123救急活動事例研究 62 発生概要不明なクラッシュ症候群疑いの 傷病者に対し、心停止前静脈路確保を行った症例 金沢市消防局 大地崚眞・鴻野一成・小浦場晶・松原弘隆・鈴木翔太・岡田響太・中井絢美 石川県立中央病院 田中良男

 
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症例

近代消防 2021/06/10 (2022/7月号) p72-5

救急活動事例研究 62

発生概要不明なクラッシュ症候群疑いの 傷病者に対し、心停止前静脈路確保を行った症例

金沢市消防局 大地崚眞・鴻野一成・小浦場晶・松原弘隆・鈴木翔太・岡田響太・中井絢美

石川県立中央病院 田中良男


氏名:大地 崚眞(おおち りょうま)
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所属:金沢市消防局 駅西消防署
出身地:石川県金沢市
消防士拝命:平成25年
救命士合格:救命士資格なし、救急科標準課程(救急隊員歴5年)
趣味:1歳の娘と遊ぶこと

 

はじめに

1階階段の手すりに右足が挟まって抜けない傷病者に対しクラッシュ症候群を疑い術前輸液を行なった症例を経験したので報告する。

症例

47歳男性。

(1)覚知から観察まで

覚知日時は、x年2月x日6時35分。「1階階段の手すりに右足が挟まって抜けないそうです。現地に警察官がいます。酔っ払いです」との通報で出動した。出動場所は、ホテルの屋外階段である。挟まれありとの情報により救助隊も出動している。

覚知から8分後に傷病者と接触した。傷病者は、ホテルの屋外階段の手すりの間に右下腿部が挟まり動けない状態であった(001,002)。本人の話では「自力で脱出できず警察に通報した」とのことであった。

初期評価とバイタルサインを表1に、全身観察の結果を表2に示す。右下腿部に軽度の発赤を認め、知覚は消失していた。右足背動脈は触知不能であった。

001

傷病者は、ホテルの屋外階段の手すりの間に右下腿部が挟まり動けない状態

 

002

挟まった部分

   

表1

初期評価とバイタルサイン

表2

全身観察の結果

(2)病態判断

1)本人は酩酊状態で発生状況や時刻が不明である。そのため、長時間挟まれている可能性あり

2)右下腿部の知覚なしを主訴しており、挟圧部の発赤、足背動脈も触知不能である

以上の2点からクラッシュ症候群を考え対処することとした。

(3)救急活動

早期にドクターカーを要請したが患者対応中のため、出動不能であった。

救急隊の対応として、

1)心停止前輸液を行った(003)。3次医療機関に特定行為の指示要請と受け入れ要請をした。

2)救助隊に対して、輸液完了まで救出活動は行わないように指示した(004)。

行った処置を表3に示す。外気温が6.9℃のため体温は35℃になっており保温に努めた(005)。

接触から9分後に救出活動を開始した。救助隊が手すりの切断と拡張を行い(006)、その間救急隊は、心電図モニター等で容体確認を継続した(007)。救助時の心電図を図に示す。接触から15分後に救助活動は終了した。救出後にも傷病者の容態に変化はなく、心電図にも致死性不整脈やT波増高などの所見は見られなかった(008)。

時間経過を009に示す。

    

003

心停止前輸液を行なった。再現写真

 

004

救助隊に対して、輸液完了まで救出活動は行わないように指示した。再現写真

 

表3

行った処置

 

005

アルミシートによる保温

 

006

救助隊が手すりの切断と拡張を行った

 

007

救助活動中も心電図モニター等で容体確認を継続した。再現写真

 

008

救出前と救出後の心電図の比較。致死性不整脈やT波増高などの所見は見られなかった

上:接触から9分後。下:接触から15分後。

 

009

時間経過

(4)病院到着

病院到着時のバイタルサインを表4に示す。救出前と大きな変化はなかった。

院内での主訴は、右第1、2趾にビリビリとした知覚異常と右大腿部から下腿部にかけて痺れであった。歩行は可能で、立位時と歩行時に強い痛みを訴えていた。血液検査で、クレアチンキナーゼと乳酸の上昇がみられた。

診断は、クラッシュ症候群及び高クレアチンキナーゼ血症であった。医師からは腎障害・高カリウム血症をきたす可能性があるため入院を勧められたが本人が拒否し帰宅となった。

 

表4

病院到着時のバイタルサイン

考察

クラッシュ症候群は交通事故や自然災害による建物倒壊などで発生する。そのためほぼ全例で発生時刻が判明している。しかし、本症例は目撃がなく、本人も飲酒により記憶がないため、概要が不明という珍しいケースであった。

私たちは、現場の状況、主訴、身体所見からクラッシュ症候群を積極的に疑った。石川県メディカルコントロール協議会では、長時間の狭圧解除から発症するクラッシュ症候群に対し、血中のカリウム、ミオグロビンなどを希釈する目的で心停止前静脈路確保及び輸液を行うことがプロトコルで定められている。これに従い、早期に心停止前輸液を実施した。接触から処置完了までは7分と迅速な活動であった。

クラッシュ症候群は、輸液療法が治療の主体となり、特に救出現場から輸液を開始することで急性腎不全や高カリウム血症を回避できる可能性があるととされている。本症例では、救出前から早期に輸液を行ったことで致死性不整脈や高ミオグロビン血症、乳酸アシドーシスの発生を抑制し、結果として良好な転帰に繋がった可能性があると考える。


ポイントはここ1)

クラッシュ症候群の本態は壊死した筋肉の成分が血流再開によって大量に全身にばらまかれることによる症状である。救出直後の症状としては高カリウム血症による致死的不整脈、病院収容後の症状としてはミオグロビンが腎臓糸球体を障害することよる急性腎障害が知られている。治療は患者が救出される前からの大量輸液である。2003年のトルコ・ビンゴル地震では、救出する前から輸液を受けた患者は輸液を受けなかった患者より死亡率が低かった。

輸液は大量かつ長時間にわたって行う(図1)。以前は救出する前にタニケットを巻くことで救出時心臓へのカリウム流入を防ぐとしていたが、現在は生死に関わる出血がある場合のみタニケットを使うとしている。これはタニケットによる合併症が無視できないためである。

 

図1

現場での輸液プロトコル。文献1から引用

文献

1)CJASN February 2013, 8 (2) 328-335

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