雑誌 健康教室 2022年1月号 46-7
応急処置アップデート the movie
#22
発熱
目次
動画解説
今回は発熱です。学校のみなさんも医療従事者も、新型コロナには振り回されました。執筆段階では不気味なほど患者数が少ない状態が続いていますが、もともと風邪のウイルスですので、春までは気を抜かずに対応しましょう。
001
どこの学校でも健康観察を毎日行なっているので、それぞれの平熱を把握するのは容易です。平熱から1℃以上高い場合は発熱ありと判断します。
002
ストレスにより発熱する児童生徒がいます。その場合でも「今回も心因性だ」と決めつける前に、感染症の可能性がないか確認しましょう。
003
救急車を呼ぶ基準はどの病気でも変わりません。初めての痙攣、意識障害、ショック症状です。
004
療養は安静が基本です。平熱より1℃高いようなら家庭送致を考えます。
005
新型コロナに限らず、インフルエンザやノロウイルスなど、感染症が考えられる場合には患児周辺の消毒を行います。
アップデート
1.家庭送致の基準
去年(2021年)夏に故 杉浦守邦先生の「養護教諭のための診断学<内科編>」の改定作業をしました。杉浦先生は「38℃以上の発熱が続けば家庭送致を考えるべき」と述べられていました。旭川近郊のH先生によると「保健調査票等の平熱と比べて+1℃なら早退させています」とのこと。今はコロナ対応で児童生徒の平熱が把握しやすいこともあり、同本改訂版では「+1℃で家庭送致」で統一し、この応急処置アップデートでも同様の判断基準を示しました。
2.小学生と新型コロナワクチン
アメリカでは5歳から11歳までのワクチン接種が始まりました。日本でも遠からず始まると思われます。執筆時点ではファイザー製のワクチンのみ認可、投与量は12歳以上の量の1/3、3週間の間隔を置いて2回投与となっています。
ファイザーから発表されたデータを見てみます1)。第2・3相試験ではワクチン投与が1518人、偽薬投与が750人です。1回目の接種後に新型コロナに罹患した患者の割合はワクチン群が0.2%、偽薬群が2.3%と有意な感染防止効果を認めています。副反応については15歳以上と同じ症状は起こりますが局所症状の割合が増えて全身症状は減少します。例えば穿刺部の疼痛は小学生では70%程度に対して16~25歳が30%程度、発熱は小学生6.5%に対して16-25歳で17.2%でした。死亡に直結するような重篤な副反応は観察されませんでした。
この結果を受け、アメリカ食品医薬品局CDCはワクチン接種の推奨年齢を5歳以上に引き下げました。その理由は「成人に比べ小児では新型コロナ感染による症状はマイルドではあるが、感染によりひどい体調不良や入院、場合によっては死亡する可能性もある」「コロナ感染後遺症の存在」「他人へ新型コロナをうつす可能性」を排除するためとしています2)。
3.3回目の新型コロナワクチン接種
3回目のワクチン接種が行われることになりました。対象者は2回接種を終えた全ての国民で、医療従事者、高齢者、それ以外の人の順で接種が進められます。
ワクチンの感染予防効果は3ヶ月から6ヶ月の間は93.0%以上で推移しましたが7ヶ月後になると65.5%に急落したのがその理由です。3回目の接種によって中和抗体価は約10倍に増加します4)。一方副反応については疲労、頭痛、筋肉痛など2回目と変わらない症状が起き、その頻度も2回目と同じ程度でした5)。私の周りの若い女性は2回目の接種で寝込んだ人がかなりいるので、その点は心配です。
この3回目の接種については利益と不利益を天秤にかけて慎重に考えるべきだという論文も出ています6)。イスラエルでは12歳以上の全員に3回目の接種を進めるようですが、アメリカやイギリスは高齢者か医療従事者に限定して接種するようです。
文献
1)https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-11-2-3/02-COVID-Gurtman-508.pdf
2)https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/children-teens.html
3)N Engl J Med 2021 Sep 30;385(14):1330-2
4)N Engl J Med 2021 Sep 15;NEJMc2113468.
5)https://www.fda.gov/media/152176/download
6)Lancet 2021;398(10308):1377-80
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
hataguchi.jpg
唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
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旭川医療センター病理診断科
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