月刊消防 2023/06/01号 p76-7
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睡眠と脳卒中・心筋梗塞
はじめに
睡眠の量や質が病気に関係するのは以前から分かっていることで、例えばうつ病では朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」がよく知られているし、逆に睡眠時無呼吸症候群は高血圧や心筋梗塞のリスクを高めるとされている。今回は睡眠と脳卒中・心筋梗塞の関係について述べる。
脳卒中と睡眠
脳卒中になってからは睡眠障害になるのはわかる。脳に障害が出るからだろう。逆に、睡眠障害が脳卒中の危険因子となるか調べたデータがある1)。アイルランドやカナダなどの多施設合同研究である。この研究では、初回の急性脳卒中を発症した2238例(脳梗塞1799例、脳出血439例)と、この患者群と年齢および性別でマッチングさせた2258例を対象とした。1ヶ月前の睡眠状態をアンケートで調査して、睡眠障害と急性脳卒中の関連を調べた。その結果、急性脳卒中の危険因子とされたのが、5時間未満の短時間睡眠(オッズ比3.15、以下同じ)、9時間以上の長時間睡眠(2.67)、質の低下(1.52)、入眠障害(1.32)である。また仮眠については1時間以上の仮眠が1.88、予定以外の仮眠が1.59であった。さらに睡眠時の呼吸停止は2.87、いびきは1.91とされた。
なお、ここで出しているオッズ比はリスク比とは異なり、睡眠時間5時間未満の人が5時間以上の人に比べて脳卒中を3倍起こしやすい、ということではない。数字が大きければそれだけ可能性が高い、という程度に理解していただきたい。
心筋梗塞と睡眠
次は心臓。まずは心筋梗塞になった女性について、発症前に睡眠に変化はあったかどうか調査したものである2)。アメリカからの報告。初めて心筋梗塞を経験した女性1270例のうち、632人が心筋梗塞前に睡眠障害の新規発症または悪化を経験していた。この変化の率は人種を問わず同様であった。睡眠の変化が見られやすい傾向として、年齢が高い、体重が重い、認知機能が低下している、不安を抱えている、異常な疲労を覚える、という背景があった。筆者らはこの睡眠障害が心筋梗塞の前兆となっている可能性があるとしている。
中国人を対象に急性心筋梗塞のリスクを調査した報告がある3)。対象は心筋梗塞患者314例、冠動脈疾患患者395例、健常人164例。質問紙を用いて調査した。その結果、24時以降に寝ること、目覚めが午前7時以降であること、6時間未満の睡眠時間の3つが急性心筋梗塞のリスクを高めることがわかった。逆に夜間の光照射レベルが低いほど急性心筋梗塞のリスクは低下した。年齢を加えた検討では、24時以降に寝ることと6時間未満の睡眠時間の二つは、どの年齢であってもリスクを高めることがわかった。65歳未満では昼寝がリスク低下に役立ち、65才以上では夜中に3回以上起きることはリスクを高めていた。
逆に、心筋梗塞後に見られる睡眠障害についての報告4)を見る。ドイツからの報告。急性心筋梗塞後に心肺機能モニタとしてポリグラフィーという装置をつけるらしく、その装置では無呼吸の時間や回数が計測できる。それを指数化して、無呼吸+低呼吸の頻度が軽度、中等度、高度の3つに分けた。また無呼吸症候群の原因として閉塞型、中枢型、両方の因子が認められる混合型の3つに分類した。対象患者は223例。平均年齢63歳で男性が82%である。患者のうち無呼吸もしくは低呼吸を認めたのが86%であった。そのうち経度は37%に過ぎず、63%は中等度や重症の睡眠障害を持っていた。原因としては41%が閉塞型、42%が中枢型であった。さらに、一回の心室収縮で溜まっている血液の何%が押し出されるかと言う左室駆出率は、睡眠障害が重症な患者と中枢型は正常の患者に比べて有意に低かった。
睡眠時無呼吸症候群と脳卒中
睡眠時無呼吸症候群(以下「症候群)は寝ている時に呼吸が止まるもので、息が苦しくなるため目が覚めてしまい熟睡できない。その結果常に眠い、昼間に急に寝てしまうという症状が出る。さらに循環器系にも大きな影響を及ぼす。
症候群は脳卒中のリスクを高める。さらに症候群の重症度が高まるにつれてる。これは男性に顕著であって、女性では重症度と発症に有意な関連はない5)。
脳卒中後に症候群を呈する頻度は非常に高く、70%としている論文もある6)。また症候群を持っている脳卒中患者は持っていない患者に対して脳卒中の再発率が50%増加する7)。
ほどほどの睡眠で病気を防ごう
私は今は9時間くらいは寝ている。若い時から睡眠時間は確保しないと何もできなかったので、寝なくてもいい人の話を聞くと羨ましいと思っていた。けれどこの脳卒中の論文1)には時間が短いのも長いのもダメだと書かれているので、人間、何でもほどほどがいいのだろう。ゆったりと寝られて気持ちよく朝を迎えられる。この当たり前のことを大事にしていきたいと思う。
文献
1)McCarthy CE: Neurology 2023 Apr 5:10. 1212 Online ahead
2)Heart Lung 2012 Sep-Oct; 41(5):438-45
3)BMC Cardiovasc Disord 2021 Oct 7;21(1):481
4)J Sleep Res 2017 Oct;26(5):657-64
5)Am J Resp Crit Care 2010 Jul 15;182(2):269–77
6)J Clin Sleep Med 2010 Apr 15;6(2):131-7
7)J Physiol Pharmacol 2008 Dec;59 Suppl 6: 615-21
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