250317_救急活動事例研究_83_日本語が話せない外国人の複数傷害現場-冬場の深夜帯で犯人も特定できていない-_稲敷広域消防本部_市村友章_古畑昌良

 
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症例

近代消防 2024/06/11 (2024/07月号) p66-8


目次 [隠す]

1.稲敷広域消防本部の概要

当消防本部は茨城県の南部を管轄する広域消防本部である(001)。管轄面積は550.51㎢、管轄人口は263,393人であり、5消防署,2分署,2出張所を配している(002)。

消防職員は401人、救急救命士は137人で救急車13台(他非常用5台)を運用している。令和3年救急件数は12,957件であった。医療機関は管内に二次病院として5施設ある。三次医療機関はなく、管轄外へ搬送している。

001

稲敷広域消防本部の位置

002

管轄域を緑で、消防機関を赤星で、二次病院を青三角で示す

2.はじめに

外国人同士の喧嘩により4人の傷病者が発生した事例の統括救急隊長として現場に出場した。活動中は刃物及び犯人の有無が不明で安全が確保できなかった。

3.症例

x年12月x日午前01:13、外国人からの救急要請。片言の日本語で「喧嘩している」との情報により、入電から2分後に救急隊及び救助隊が1隊ずつ出場した。加害のため警察官も同時に出場を要請している。出場から3分後に現場到着。

救急隊が到着すると、男性Aが男性Bを抱えて歩いて近づいて来た(写真001)。  抱えていた男性Aは腸管が脱出(写真002)しており、抱えられた男性Bは左胸部から出血(写真003)していた。 その後男性C(写真004)と女性D(写真005)が歩いて来た。車内収容前のSTARTトリアージ結果を003に示す。犯人の特定ができていないので傷病者達に聞いてみると、日本語がよく話せない上に興奮状態のため聴取不可能(写真006)であったためそのまま4名を車内収容した。車内収容時のPAT法によるトリアージ結果を004に示す。

車内収容後の処置内容を005に示す。救助隊員2名を車内に入れ、計4名で処置を開始した(写真007)。開放性気胸疑いには救命士を(写真008)、腸管脱出疑い及び左上腕活動性出血疑いには救助隊員を1名ずつ配置した(写真009)。私は処置に不慣れな救助隊員の補助及び右第一指間腔切創の傷病者から情報収集を行った(写真010)。

搬送隊及び搬送先、重症の程度を006に、時間経過を007に示す。病院選定は各隊がそれぞれ行なっている。

写真001

男性Aが男性Bを抱えて歩いて近づいて来た

写真002

男性Aは腸管が脱出していた

写真003

男性Bは左胸部から出血していた

写真004

その後男性Cが歩いてきた

写真005

さらに女性Dが歩いてきた

写真006

日本語がよく話せない上に興奮状態のため聴取不可能であった

写真007

救助隊員2名を車内に入れ、計4名で処置を開始した

写真008

開放性気胸疑いには救命士が処置を行った

写真009

腸管脱出疑い及び左上腕活動性出血疑いには救助隊員を1名ずつ配置した

写真010

筆者は救助隊員の補助及び右第一指間腔切創の傷病者から情報収集を行った

003

STARTトリアージの結果

004

PAT法トリアージの結果

005

処置内容。s/o: suspect of, 疑い

006

搬送隊及び搬送先、重症の程度

007

時間経過

4.考察

(1)安全確保について

活動中は刃物及び犯人の有無が不明で安全が確保できなかった。ただ、刃物の確認ができないのと全員負傷していたので犯人はいないと判断し4名車内収容した。その後、安全確保のためポンプ隊1隊及び救急隊3隊の増隊要請を行った。最終的に全員搬送できたが、隊員を含め関わる全ての人の安全確保が今後の課題となる。

(2)トリアージのタイミングと場所について

車内収容前にSTARTトリアージを行なった。STARTトリアージはごく短時間で終わらせた。本来であればもう少し時間をかけても良いのだが、犯人の特定はできていないが寒冷期と傷病者のことを考えれば、トリアージの速さが早期の車内収容を可能にしたと思われる。車内収容後にPATトリアージを行い、増隊を要請した。

(3)統括救急隊長としての活動

稲敷広域消防本部での統括救急隊長は以下のように定められている。「救急現場に複数の救急隊が出場する場合、最先着救急隊長は「統括救急隊長」とし、傷病者の把握・トリアージ・救護・医療機関選定等の統制を行い、後着救急隊を統括する。なお、医療機関の選定にあっては、通信指令課と連携を図るものとする」。私は統括救急隊なので搬送はせずに情報収集を行うのが基本であった。しかし私は一番日本語ができる人から情報収集したかったので自隊で搬送と判断した。これにより3隊を増隊し、病院選定はそれぞれの隊に独自に行わせた。しかしこの活動を振り返れば、私は搬送隊にならず現場に留まり情報収集を続けるべきだった。その上で病院選定の錯綜を防ぐために私、もしくは通信指令課が病院剪定を行うべきであった。

5.結論

(1)冬場の深夜帯に発生した、日本語が話せない外国人の複数傷害現場に出場した。

(2)救急活動中には犯人も刃物も特定できていなかった。

(3)本事例での問題点を考察した。

ポイントはここ

この報告のポイントは安全確保であろう。言葉が通じず興奮している患者から犯人を聞き出すのは無理である。この点から筆者の「4人とも刃物は持っておらず負傷していることからこの中に犯人はいない」と言う判断は的確だったと考えられる。

今回の外傷として最も危険なのは気胸である。この処置を救命士に任せたのも的確である。腸管脱出は見た目は派手だがすぐ死亡するものではないので、処置に時間をかけることができる。

・名前:市村 友章
・読み仮名:いちむら ともあき
・所属:稲敷広域消防本部
・出身地:茨城県牛久市
・消防士拝命年:2014年
・救命士合格年:2015年
・趣味:サッカー指導

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