近代消防 2025/05/15 (2025/06月号) p75-7
応急手当普及員が指揮する中で市民による除細動を実施し社会復帰した症例
愛知県知多市消防本部
長屋良亮
目次
1.はじめに
応急手当普及員が現場に居合わせ周囲のバイスタンダーを指揮し、心肺蘇生を実施した結果、社会復帰に結び付いた症例を経験した。バイスタンダーのスキルの重要性が改めて感じられた事案であり、今回の症例発表で社会復帰率向上の一助になればと思い発表する。なお、写真は全て再現である。
2.症例
64歳男性。
市内事業所にて卒倒し、心肺停止との指令で出動した。
現場到着後、聴取した情報では18:15ごろに会社事務所内にて椅子に座った状態から気が遠くなるように意識消失していった(001)とのことであった。
知多市は知多半島の西側に位置しており、本症例の発生場所は当市西側に位置する臨海工業地帯の某事業所内で発生した。出動場所である事業所はAEDが設置されており、出動途上ではバイスタンダーによる除細動が18:20と18:22の2回、実施されたとの情報が入っていた。
主な活動概要をtable001に示す。初期波形は心室細動で18:24に3度目の除細動を行なった。気道トラブルは一度も出現していない。現場にて1度自己心拍が再開し、体動もあるため心肺蘇生を中断したが数十秒で再度心肺停止に移行した。病院収容までの除細動回数はバイスタンダーが実施したのを含めて合計7回。アドレナリン投与は計2筒であった
18:44、発症から約29分後に搬送途上で自己心拍及び呼吸が再開し、病院収容まで継続した。
入院後は特発性心室細動と診断され集中治療室に入室、翌日抜管され、リハビリを開始している。その後脳機能障害を認めず社会復帰している。

001
意識消失した傷病者

table001
活動概要
3.考察
社会復帰に結び付いた要因は3つ考えられる。
(1)バイスタンダーと応急手当普及員との連携
バイスタンダーは応急手当普及員を含めた13人であった。バイスタンダー心肺蘇生はそれぞれ役割分担がなされていた(002)。救命の連鎖である「早期認識と通報」「一次救命処置」に移行するまでの流れや我々救急隊にも引けを取らない組織的な連携こそ社会復帰に結び付いた要因である。
(2)早期の除細動
普及員の方が現場で指揮をとり(003)事業所内にあるAEDを装着(004)、除細動を実施している(005)。発症から最初の除細動までの時間は5分。もし、救急隊を待っていれば9分経過することになった。令和4年版消防白書によれば令和3年中の目撃のある心原性心肺機能停止傷病者に対し、市民による除細動が実施された場合の1か月後の社会復帰率は40.1%となっている。
(3)良質な胸骨圧迫
バイスタンダー13名のうち、救命講習受講経験者は11名と多く、我々が到着した時の胸骨圧迫は非常に良質なものであった(006)。また、現場の活動スペース及び搬送経路は広く(007)、離脱時に自動式心マッサージ機を装着し、搬送途上も絶え間ない胸骨圧迫を継続することができた(008)。当市では現在、全ての救急車に自動式心マッサージ機を積載しており、良質な絶え間ない胸骨圧迫を行えるように日々各グループで研鑽を積んでいる。

002
連携の概要

003
普及員の方が現場で指揮

004
AED装着

005
除細動実施

006
胸骨圧迫は非常に良質なものであった

007
広い搬送経路

008
搬送途上も絶え間ない胸骨圧迫を継続することができた
4.当市におけるバイスタンダースキルアップのための取組み
最後に当市の取り組みを一部紹介する。これらは、決して当市特有の取組みというわけでもないが、バイスタンダーがスキルアップするためにはどうするべきか、常に試行錯誤しながら日々の業務や講習に取り組んでいる。
(1)応急手当普及員の養成
3年ごとに市内事業所に案内文(009)を送り普及員講習を開催し新規普及員の養成を行っている。
(2)時短コースの開催
短時間の講習を開催している。資器材を充実させ、受講者数を絞ることで、短い時間で蘇生技術の習得を可能としたものである。また、それとは別に、eラーニングによる事前学習によって講習の時間を短くする実技救命講習も開催している。短時間で集中して行えることから受講者の負担も抑えつつ、質の高い講習が行えていると考えている。

009
応急手当て普及員講習の案内
ポイントはここ
とても恵まれた環境で卒倒したことは幸福だった。
病院外心停止の統計研究は過去多くなされている。共通するのは、家庭で卒倒する患者に比べ、事業所や役所など公衆の会場での卒倒は予後が良いことである。
バイスタンダー効果についての総説1)によれば、病院外心停止について、(1)心肺蘇生を受けた患者は受けなかった患者より予後が良い(2)人工呼吸を習得していないバイスタンダーは胸骨圧迫だけを行うべき(3)AEDを見つけることが大切であり、AED使用により使用しない場合の2倍の生存率を得ることができる(4)心肺蘇生とAEDのトレーニングを促進することが重要、としている。この症例報告と一致するところである。
文献
1)Oliveira NC: Hellenic J Cardiol 2024 Sep 12;S1109-9666(24)00201-X online ahead
プロフィール

名前:長屋良亮(ながやりょうすけ)
所属:愛知県知多市消防本部
出身地:愛知県知多郡阿久比町
消防士拝命:平成12年
救命士合格年:平成25年
趣味:育児


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