月刊消防 2025/06/01号 47(06), 通巻552号 p66-7
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捻挫の処置を科学する
はじめに
たまに救急車で運ぶ事もあるし、自分が起こす事もある「捻挫」。20年以上前から捻挫の処置は「RICE」と教わってきたし、私もそのように本に書いてきた。ところが、ガイドライン2020を見返すと、圧迫包帯は効果不明と書いてある1)。
RICEとは
バレーボールなどでよく起こす足首の捻挫で受傷直後に行う処置である。
R:Rest、安静。シーネなどで固定し患部を動かないようにする。損傷を進行させず、現在以上の内出血をさせず、早い回復を目指すのが目的。
I:Ice、冷却。患部を冷やす。もっぱら氷水が使われる。どれくらい冷やしておくかは成書によってまちまちだが、10-20分冷やして2時間放置、また10-20分冷やすと書かれているものが多いようだ。
C:Compression、圧迫。弾力包帯などを患部に巻く。患部の腫れを防ぐとともに、患部の安定を図る。
E:Elevation, 挙上。台などに足を置き高さを持たせること。低いところに患部を放置すると腫れるので、それを防止する。
このうち、R,I,Cについては効果不明ばかりか、RとIについては過度の処置は有害とされている。Elevationについては研究は行われていないが、重力により腫れを抑える可能性はあるとされる2)。
Compression:無効
応急処置の項目で、捻挫の時の包帯について記載している1)。結論は「推奨も否定もしない」とのこと。だが書かれた内容は否定的である。
まず、痛みを減らす効果は認められない。何もしない、包帯で圧迫、包帯を軽く巻く、シーネでの固定、足関節装具を使った固定の5種類の方法を比べた結果、患部を包帯で巻いても痛みは他の方法と差はなかったとある。
腫れも減らない。圧迫しているんだから腫れを抑える効果はあるだろうと思ったらそれもないようだ。普通の包帯ではなく弾力包帯を使えば腫れが減るという報告は1本だけあるのだが、メタアナリシス(同類の論文を混ぜて一つの論文とする)では否定されている。
動きに対する良い効果も認めない。包帯巻きと足関節装具で、関節の可動域を調べた研究があって、可動域は同じと結論づけられている。早期の運動は早期の回復につながるため大きな利点となるのだが、それも認められないようだ。
同じ圧迫でも空気で足首を圧迫・解除する装置するマッサージ機であれば浮腫の軽減と痛みの減少、早期の機能回復が望めるようだ3)。
REST:関節が固まる
他の項目も見てみる。怪我をしたからと言っていつまでも関節を動かさないでいると関節が固まることは理解しやすいだろう。下腿骨の骨折でギブズを巻かれた後、骨がくっついても歩行や運動に苦労している人を見た事も多いはずだ。
現在、REST(安静)については期間をできるだけ短くして、我慢できる痛さの運動負荷をすぐかけることが勧められている。強い運動負荷をかけなくても、自分か誰かに足首を前後に動かす柔軟体操をするだけでも可動域は早く広がり4)、運動への復帰がくなるとされる5)。
ICE:評価が分かれる
冷却については、当てている間は痛みが減る。問題は何度くらいでどれくらいの時間冷却すればいいかである。結果が分かれるのは復帰までの期間である。15度から29度の冷却を毎日30分7日間続けた結果では、痛みや可動域や負荷重量に差はなかったとしている6)。しかし、それ以外の論文7)では、冷やしても長期の痛み・腫れ・機能維持には効果がないとしている。
では逆に温めたらどうなるか。長期的には痛みが軽減される8)。腫れについてはひどくなるという報告8)と軽減すると言う報告9)がある
勉強しよう
私もコロナ前まではRICEが絶対だと思ってそう書物にも書いてきた。しかしコロナ中に捻挫の処置についての原稿を書く時に文献を調べてみて愕然とした。RICE、特にICEの評価が大きく変わっているのは知らなかった。考えれば、冷やせば回復が遅れる=痛みが長引くのは、体の仕組みを考えれば当たり前のことだ。いつまでたっても勉強は必要だ。
文献
1)一般社団法人日本蘇生協議会:JRC蘇生ガイドライン2020。pp368-9、医学書院、東京、2021年
2)World J Orthop 2020 Dec 18;11(12):534-58
3)Arch Phys Med Rehabil 1990 May;71(6):380-3
4)Phys Ther 2001 Apr; 81(4):984-94
5)Scand J Med Sci Sports 1996 Dec; 6(6):341-5
6)Arch Emerg Med 1989 Mar;6(1)1-6
7)Br J Sports Med 2018 Aug; 52(15):956
8)Foot Ankle Spec 2016 Aug;9(4):307-23
9)J Hand Ther 2009 Jan-Mar;22(1):57-69
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