130614自己評価の信頼性

 
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130614自己評価の信頼性

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 この連載のために文献を探していたら、ログロールの時の頭の支え方に2通りあることを発見した。一つは誰でもやる、患者の耳のあたりを押さえるもので「head squeeze」(ヘッド法)と呼ばれる。もう一つは患者の肩筋(肩が凝ると揉むところ)を掴み、左右の前腕で患者の頭を挟み込んで固定させるもので「trap squeeze」(トラップ法)と呼ばれる。headは頭,squeezeとは振ること、trapとはサッカーなどのトラッピング(パスを受け止めること)ではなくtrapezius(僧帽筋。肩が凝るところの筋肉)の略語である。

 北海道のJPTECの大御所2名にこのトラップ法について聞いたところ、PTCJ初期には紹介していて、今でもICLSでの患者移動で用いるとのことらしい。JPTEC時代になって廃れたのは血液や汗で頭が滑り落ちる懸念が指摘されたとのことであった。ITLSの教科書には写真入りでこの方法が載っている。

 今回は頭部保持を通じて自己評価の難しさについて検討する。

トラップ法について

 筆者らの説明1)を直訳すると「ヘッド法とは指示する救助者が単純に患者の側頭部を持ち体の回旋にあわせて首を動かすもの、トラップ法とは指示する救助者が患者の僧帽筋を掴み(このときに親指は上に向ける)救助者の上腕で確実に頭を固定するもので、このときに上腕は耳介のやや前もしくはやや後ろに位置する」としている。ヘッド法は手のひらで頭を挟むのに対して、トラップ法は腕で頭を挟むことになる。筆者らはいままでに異なった状況においてこれらの方法を比較してきた1,2)。これら二つの方法はログロールとリフトアンドスライド(ファイヤーマンズリフト)においては同じ固定力を持つ。トラップ法が有効なのは混乱して起き上がろうとする患者や頭部固定を免れようと首を捻る患者に対してで、トラップ法では患者の肩を押さえつけることができるため起き上がりを抑止でき,救助者の前腕が患者の頭部を挟むことによって肩と頭の捻れも防止できるためである。

 このように書くと有効な手段のようだが、ITLSの写真を見ると意識がない患者では腕挟みだけで頭を抱えるのはとっても重そうなので、多分上腕で挟むより上腕に載せる形になりそうだ。患者に意識があり、頭を自分で支えるだけの力が残っている人に有効と思える。

機械計測と比べる

 同じ筆者がこの頭部保持を題材に自己評価の正確さを検討している1)。被検者が「うまくできた」というのは本当にうまくできているのかセンサーを使って確認するという意地の悪い実験である。実際に救急現場もしくは病院にいて救急に携わっている12名を被検者とした。頭の持ち方はヘッド法とトラップ法の2種類、シナリオはリフトアンドスライド、ログロール、立ち上がる患者、体をねじる患者の4つとした。自己申告では頭部保持をしている救助者と患者役のそれぞれに、シナリオが終わった後でうまく頭部保持ができていたかを0(完璧)から10(最悪)までの点数で評価してもらった。機械計測では患者役にセンサーを取り付け、頭尾方向と左右方向の体の捻れを測定している。機械計測での評価は「成功」が角度5°未満の動き、「やや成功」が10°未満の動き、「失敗」が10°以上の動きである。

 自己申告ではさすがに現役で活動している人たちだけあって救助者役・患者役とも最多値が3であった。役柄によっての違いを見てみると、救助者役は最も悪い値が6なのに対して、患者役では8を付けた人がいるのだが、全体としてみると救助者役と患者役はほとんど同じ数字を書いているように見える。これが機械計測となるとかなり異なっており、自己評価で0(完璧)とした24例にも1例「失敗」が含まれているし、自己評価1では1/3が、自己評価2では約半数が「失敗」とされている。これは患者役の評価でも同じで、患者役が0(完璧)とした50例中8例は失敗とされているし、患者役の評価1では1/3が、患者役評価2ではほぼ半数が失敗とされている。

 手技別ではリフトアンドスライドでは機械計測では±10°の間に収まっているのに対して、ログロールでは-10°から40°の間と頭が大きく動くことが示されている。最も頭が動くのは起き上がるシナリオで、-20°から90°まで動いている。90度はつまり直角まで頭が動くことになので、頭部保持の効果は全く認めないことになる。

 だが、自己評価が全く客観性に欠けるかと言えばそうではなく,この機械計測の値と救助者役の自己評価点数は4つのシナリオすべてで相関している。自分がだめだと思ったら確実に首は動いているし、自分が完璧だと思ってもある程度首は動いている,ということである。

手技を選ぶこと

 ログロールが危険な手技だということはこの連載でも何度も述べているし、JPTECが特別なものでなくなった現在では理解している人も多いようだ。人がいるのならリフトアンドスライドを選択するべきだし、患者が突然動くようならトラップ法で頭の動きを少しでも抑えるべきだろう。あとは訓練あるのみだ。患者がおとなしくてじっとしている想定ばかりでなく、突然起き上がったり体をよじったりする想定も訓練に加えたらいかがだろう。

文献
1)J Athletic Training 2012;47:42-51
2)Clin J Sport Med 2011;21:80-8


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13.6.14/6:09 PM

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