250613救助の基本+α(97)救命索発射銃_駿東伊豆消防本部沼津南消防署_高橋祐輔

基本手技


月刊消防 2024/09/01, vol 46(9), 通巻543, p31-5

「救助の基本+α」

救命索発射銃

目次

1 はじめに

  このたび「救助の基本+α」を担当します駿東伊豆消防本部沼津南消防署の高嶋と申します。私自身、毎回この連載を読むことをとても楽しみにしており、基本的な技術の再確認に活用させていただいています。

今回私が選んだテーマは、「救命索発射銃」です。次節で紹介させていただきますが、駿東伊豆消防本部は、駿河湾と相模灘に面しており、毎年水難事故も発生し、また、台風等による雨量増加に伴う冠水被害にも対応することが多い地域です。令和5年に駿東伊豆消防本部管内で発生した救助出動は 378件で、そのうち水難事故は30件を占めていますが、救命索発射銃を使用した事案はありませんでした。

救命索発射銃の取扱訓練は定期的に実施しますが、災害現場での使用頻度は非常に少ないように感じます。しかし、いざ現場で使用するときには要救助者を目の前にした1分1秒を争う状況であることが予想されます。

救助隊なら誰もが取扱訓練を実施したことがある資機材ですが、基本に立ち返って使用方法を再確認したいと思います。また、災害現場でよりスピーディーに設定できる方法も検討していますので紹介させていただきます。

2 消防本部について(001)

   本組合は、平成28年4月に発足し、沼津市、伊東市、伊豆市、伊豆の国市、東伊豆町、函南町及び清水町の4市3町で構成された一部事務組合であり、静岡県東部伊豆半島北側を管轄しており、首都から100kmの圏内に位置しています。

北部地域は、平坦な市街地が連続し、沼津駅を中心とする市街地が形成され、比較的人口密度が高い都市的要素を有しています。

南部地域は、中山間地が多く、山地が海岸線まで迫る急峻な地形を形成している地域が多く市街地が点在化しています。

管内の東は相模灘、西は駿河湾に面しており、伊豆半島中央の天城山を源に持つ狩野川が縦断し、世界遺産の韮山反射炉や日本屈指の温泉地を数多く持つ豊かな自然環境と温暖な気候に恵まれている地域です(。

管轄面積は921.22㎢、海岸線は約130km、管轄人口は約41万人、消防職員定数609人、1本部8署3分署7出張所体制の消防組織となっています。

  災害発生時の指揮命令系統を明確化するために方面体制を組織しており、管轄を第1方面から第3方面に分け、それぞれの方面に水難救助隊を配置し管内全ての水難事故に対応しています。

001
駿東伊豆消防本部の位置

3 救命索発射銃の紹介

型式

ミロク式救命索発射銃M-63型(株式会社ミロク精機製作所)

ここで紹介する救命索発射銃は、沼津南消防署の救助工作車に配備されているもの

です。

諸元・性能

型式M-63
発射形式高圧空気
空気圧力9.0~15.0MPa
到達距離ゴム弾85m 浮環弾70m
発射角度35°
口径63㎜
銃身長450㎜
本体重量4㎏
ロープポリプロピレン 3.5㎜×160m

⑶ 各部の名称

ア 発射銃本体(002)

イ 弾体の種類

(ア) ゴム弾(63φ×120㎜、重量0.5㎏)(003)

  • 浮環弾(63φ×290㎜、重量0.65㎏)(004)
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002

発射銃本体

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003

ゴム弾

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004

浮環弾

⑷ 操作方法

ア 実発射前に銃の作動を確認するため、空打ち(圧力10MPa)2発を行います。

イ 本発射銃バレルリング(安全装置)の凸部を刻印「S」に合わせ、引きがねを引

けない状態にします。(005)

ウ 空気ボンベと銃をゴムホースで接続します。(006)

エ ゴムホースのニードルバルブを閉じてから、空気ボンベのバルブを静かに開き、充填圧力を9~14MPaにし、確認してからボンベバルブを閉じます。

オ ゴムホースのニードルバルブを開き、ホース内の空気を抜き、銃からホースを切り離します。

カ 銃口を斜めに上方に向け、索付弾体を銃身に挿入します。(007)

キ バレルリングの凸部を刻印「F」にもどし、安全装置を解除します。

ク グリップを右手で握り、左手で銃身を充分掴み、銃床をしっかり肩に当て、引きがねを一気に引きます。(008)

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005

本発射銃バレルリング(安全装置)の凸部を刻印「S」に合わせる

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006

空気ボンベと銃をゴムホースで接続

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007

銃口を斜めに上方に向け、索付弾体を銃身に挿入

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008

銃を固定し引き金を引く

⑸ 注意事項

ア 全ての操作の前にバレルリングがかかっている事を確認します。

イ 発射直前まで引きがねに指をかけないようにします。(009)

ウ 空気を充填したら銃口を上方に向け、以降発射完了まで銃口は上向きに維持します。

エ バレルリングを動かす際、引きがねには指をかけないようにします。

オ 15MPaを超える圧力が入った場合、空打ちし再充填します。

カ 左利きの人は銃を構えたとき、圧力計が発射の反動で顔に当たる可能性があります。(010)

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009

発射直前まで引きがねに指をかけないこと

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010

左利きの人は圧力計が顔に当たらないように注意

⑹ 弾体とロープの接続

ロープの先端に作成してある輪を、弾体側の輪の中を通過後、弾体を1周くぐらせて本結びの形になるようにつなぎます。

(011)~(014)

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011

ロープの先端に作成してある輪と弾体の輪を寄せる

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012

ロープの先端に作成してある輪を、弾体側の輪の中にくぐらせる

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013

弾体を1周くぐらせる

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014

本結びにする

4 ロープ整理方法についての検討

発射銃のロープ整理を、みなさんはどのようにされていますか。沼津南消防署では、1秒でも早く救命索を発射するため、ロープの収納方法と発射前のロープ整理方法を確立しています。これにより、ゴム弾発射に必要なロープの長さ85mを整理するのに要する時間は、2人作業で約30秒です。これに対して、1人でロープをバッグから取り出して地面に手広めした場合は、約2分かかるという検証結果となりました。救命索発射までの時間を大幅に短縮することが期待できますので、その方法を紹介させていただきます。

  • ロープ整理方法

救命索発射銃付属のバッグに収納されているロープの長さは 160mですが、2種類の弾体のうち、ゴム弾の飛距離85mが最大の発射距離となりますので、発射前に整理が必要な長さは85mを想定しています。

ア 使用するもの

付属のロープバッグからロープの先端をゴム弾の飛距離分85mを出し、その中間である42.5mの部分を赤色で着色して、整理が必要なロープ長の中間位置が分かるように目印をしています。沼津南消防署では、小型のツールポーチ2個、ポーチ携行用のカラビナ2個を独自に用意しています。ロープの赤い印を中心に、ツールポーチ2個に分割してロープ85mを収納しています。(015)

イ 発射前の配置状況

隊員2人がツールポーチとフックをそれぞれ1個ずつ携行して対面します。

 (016)

ウ ロープの延長

(ア) 隊員2人が対面し、フックを保持して互い違いになるように少し重ねます。

   ロープの赤い印が中心となるように、フックの重なっている箇所に乗せます。(017)

(イ) フックにロープを乗せたら、対面した位置から、互いに5mほど下がって距離

をとります。これでロープ85mがツールポーチから繰り出されます。

(ウ) ロープが繰り出されたら、ロープを地面に下ろしてフックから外します。

(018)

エ 発射前のロープ整理状況(019)

015

ロープの赤い印を中心に、ツールポーチ2個に分割してロープ85mを収納する

016

隊員2人がツールポーチとフックをそれぞれ1個ずつ携行して対面する

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017

フックを保持して互い違いになるように少し重ねる

018

ロープが繰り出されたら、ロープを地面に下ろしてフックから外す

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019

発射前のロープ整理状況

 

5 おわりに

 ここまで、救命索発射銃の基本的な取扱方法と、沼津南消防署で実践しているロープ

整理方法を紹介させていただきました。はじめに述べたとおり、救命索発射銃の使用頻

度はあまり多くありませんが、取扱いを間違えれば危険も伴います。みなさんの所属に

配備されているものについても使用上の注意点などがあると思いますので、再度確認し

てみるのも良いかもしれません。

沼津南消防署のロープ整理方法については、手間だと感じられた方もいるかもしれま

せん。事前に揃えなければならない物もあり、収納にもひと手間かかります。しかし、

その手間が救助活動を1秒でも短縮できるのであれば無駄ではないと考え、紹介させて

いただきました。皆様の感想や、更により良い方法などがございましたらお聞かせくだ

さい。


プロフィール
著者 高嶋 佑輔(タカシマ ユウスケ)
takashima.JPG
所属 駿東伊豆消防本部 沼津南消防署 救助係(特別救助隊)
出身 静岡県沼津市
拝命 平成24年4月
趣味 ドライブ、映画鑑賞
 
基本手技
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