250609最新救急事情(256)病院外心停止に影響を与える因子

最新救急事情

月刊消防 2024/09/01号 p20-1

最新事情

病院外心停止に影響を与える因子

今回は、病院外心停止に関する最新の文献を読んでみる。

目次

蘇生に成功する因子

まずは中国から。マカオで記録された904例の病院外心停止の調査報告 1)である。平均年齢は74歳。男性は62%で過半数を占めている。有意差の確認は、生存入院と生存退院の2つで行われている。

結果を示す。最大の蘇生成功因子は、蘇生開始時に除細動可能の心電図を呈していることであった。次に男性であること、救急隊の到着が早いこと、卒倒から除細動器装着までの時間が短いことであった。これらの因子は年齢に関係せず、どの年代であっても有意差を認めた。

これらのデータは以前から言われていたことの焼直しに過ぎないが、男性が蘇生率が高いのは意外である。

病院外心停止患者のその後

病院外心停止を起こした後に生存した人はその後どうなるかを調べた報告2)である。2010年から2019年の間にレバノンのコルマール市立病院に運ばれた病院外心停止患者のうち入院した318人を2023年3月まで追跡した。生存退院は34%なので、心拍が再開してもその2/3は死亡退院している。さらに調査終了時に生存していたのは27%であった。入院後に冠動脈造影検査を受けた患者割合は全体の66%, 造影検査で冠動脈疾患が見つかったのはその半分で、ほとんどは冠動脈形成術を受けている。院内死亡を高める因子は心電図での右脚ブロック、糖尿病、高血圧、末梢動脈疾患患者であった。右脚ブロックは洞結節の障害を伴っている可能性があるし、糖尿病、高血圧、末梢動脈疾患は全身の動脈が弱っていることを示している。

蘇生に成功するのだから冠動脈疾患がほとんどだろうと思ったが造影した患者の半分にしか見つからないというのは意外であった。

癌は蘇生に影響を与えない

フランスから。病院外の突然の心停止と癌の関係を調査したものである3)。2011年から2019年までにパリとその近郊で発生した病院外心停止のうち生存入院できたのは4069例。その中で現在癌を患っているか過去に癌を患ったことのある患者(ここでは一括りに癌患者とする)207例を調査対象とした。ここでは生存入院だけ扱っているのに注意して頂きたい。末期癌で蘇生不能だった患者は除かれている。

結果として、癌患者は癌でない患者に比べて高齢であり、女性が多かった。癌以外の基礎疾患として心血管疾患の有病率が高かったとしているが、これは平均年齢が癌患者69歳で非癌患者の59歳より10歳も高齢なのだから当然だろう。癌患者では心停止の原因が心臓疾患である割合が非癌患者に比べて有意に低く、呼吸器疾患である割合が有意に高かった。一方有意差がない項目は、目撃のある卒倒の割合、バイスタンダーによる心肺蘇生の割合、生存退院率の割合であった。さらに癌患者が生存退院するためには、卒倒を公共の場所で起こすこと、目撃者が心肺蘇生を行うこと、AED装着時に除細動可能な心電図であることが挙げられている。

病院前蘇生中止のルールに完璧なものはない

明らかに死亡している患者以外は全て病院に運ばなければならない日本の救急隊は気の毒だ。救急隊が蘇生を中止できる国であっても蘇生中止=責任発生になっては困るので、世界中で蘇生中止ルールが検討されている。イギリスを中心とした筆者らは文献データベースを用い、発表年に制限を設けず世界中の蘇生中止ルールを探し検討した4)。その結果、1993年から2023年までに発表された29の蘇生ルールについて検討を加えることにした。29のルールで扱っている症例数は112万を超える膨大なものである。この29のルールのうち、最も優れていると考えられる「Universal termination of resuscitation(UTR)」*5)であっても統合感度は0.62(死亡した患者の中で、このルールでは蘇生中止と判断された割合), 統合特異度は0.88(ルールで蘇生中止となった患者の中で、実際に死亡した割合)であった。筆者らは、蘇生中止ルールの採用により生存者の見逃しや人的・物的資源の浪費につながると警告している。

UTRについては私もこの連載(2023年2月号)で論じている。そこでは特異度0.995としていた。今回の報告では0.88としているのは、幾つもの研究・報告を合体させた結果である。特異度が0.88しかないのであれば、ルールを採用して100人の蘇生を中止していればそのうち12人は見殺しにすることになってしまう。「例外なく」というのは不可能な注文であり、そこに救急隊のやりがいもあるのだろう。

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*Universal termination of resuscitation

一次救命処置(BLS)対象。全ての項目を満たすこと

(1)電気ショック適応のない心電図リズム

(2)救急隊員による目撃のない心停止

(3)現場での心拍再開がない

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文献

1)Arch Acad Emerg Med 2024 May 9;12(1):e48

2)Curries Probl Cardiol 2024 Jun 20; 49(9):102719

3)Weizmam O:Heart 2024 Jul 2. Online Ahead

4)JAMA Net Open 2024 Jul 1;7(7):e2420040

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