250617応急処置アップデート Q and A 30 熱中症アップデート_2_水分編

救急の周辺

雑誌 健康教室 応急処置アップデートQ and A

2024年09月号(2024/08/10発行号)p64-5
応急処置アップデート Q and A

目次

Q

熱中症の応急処置としての経口補水液の活用方法について、知りたいです。

A

運動前から運動後にかけては本人の望むものを飲ませます。脱水症状があるときは経口補水液は有効ですが、症状がないのに飲ませる意味はありません。

解説

水分補給については頻回に質問を受けます。原則を示します1)。

1.熱中症になるのは運動前で決まる

下記「養護の先生が経験した症例」でも触れているように、若い人が普段の生活や運動で熱中症になるのは必ず原因があります。睡眠不足や体調不良は誘因となりますので要注意です。またスポーツ選手では計画的に暑さに順応させる(001)ことも必要です。

2.好きなものを飲ませる

水分補給については(002)

1)運動直前での大量補給は逆効果

これから暑いところに出るからと行って大量の水を飲むのは意味がないどころか逆効果になりかねません。大量に水分を飲むとすぐ尿として排泄されるからです。朝からちゃんと食べて飲んで、脱水を補正しておくのがベストです。

2)運動時に脱水補正は無理

大量に汗が出る場合にその全量を運動中に補給しようと思わないこと。汗として出た水分量を口から補うには胃の能力を超えるためです。

汗でナトリウムが失われて筋肉の痙攣が起きる場合には、0.5-0.7%の食塩水を飲ませることが勧められています。生理食塩水は0.9%なのでそれよりは薄い食塩濃度です。

3)運動終了後には体重減少の同量から2割り増しの水分量を補給する

運動で500g体重が減ったとすると、水分は500gから600gが必要になります。この時にも好きなものを飲ませれば良いのですが、経験上では汗をかいた場合は塩分のあるものを欲しがります。トマトやスイカなどの野菜も、たくさんのビタミンやミネラルが含まれているのでオススメです。

3.好きな時に飲ませる(003)

熱中症の広報で聞く「定期的に水分をとりましょう」というのは脱水に気付きづらい高齢者に対する話です。若い人たちが同じことをすると、水中毒やペットボトル症候群になってしまいます。

若い人では、好きな時に好きな量を飲ませるのが正解です。喉の渇きを覚えたら水分を補給する。これができるような環境を指導者は整える必要があります。

4.経口補水液が美味しいと思えるのは脱水があるから

経口補水液を飲んだことはありますか。健常人にはとでもじゃないですが飲めたものではありません。しかし、熱中症になった人や頻回の下痢を訴える人にはとても美味しい飲み物のようです。人の味覚は素晴らしいですね。

経口補水液は、発展途上国でコレラなどの感染症で極度の脱水があっても点滴ができない人たちのために作られたものです。誰でも簡単に作れます(004)2)ので、スポーツをやる人なら自分用にアレンジしてみてもいいでしょう。スポーツドリンクに比べ食塩が多く糖分が少なくなっています。

養護の先生が経験した症例

「小学校5年生修学旅行中の熱中症」

少人数の小学校のため、高学年は合同で修学旅行と合宿を行っています。この年は5月下旬に修学旅行に行きました。修学旅行先は、半袖で過ごせる天気。学校出発時は肌寒く長袖で、地域によって気温差がだいぶあるなと感じ、熱中症予防のため、こまめに水分補給をするように声がけをしていました。また、見学先にお願いし、冷たい麦茶を補充してもらうようにしていました。

修学旅行の2日目、小学5年生の男子が朝から微熱を訴えました。朝食もあまりとれず。他に症状は見られませんでしたが、念のため見学を取りやめ、養護教諭と二人でホテル待機としました。すると昼前には体温が38℃まで上がったため、受診したところ熱中症と診断され、点滴治療が行われました。本人に確認すると、水やお茶類を飲むのが嫌で、実は修学旅行出発時からほとんど水分をとっていないということが分かりました。水分補給をしたかどうかの確認時は、ごまかしていたと打ち明けました。(保護者に電話連絡すると、好き嫌いが多く、家では、スポーツドリンクやジュースばかり飲んでいたとのことでした。)

その日はホテルに戻りましたが、翌日も点滴治療のため受診となりました。

 5月であっても熱中症を予防することの必要性と水分補給をしたかどうか目視での確認も必要だと感じた事例でした。

「学級担任が熱中症」

9月。校舎内を巡視していると教室で机に突っ伏しているA先生を発見。子供たちは給食の準備をしていました。子供たちに「A先生、どうしたの?」と聞くと、プール学習の後に戻ってから、座って休んでいるとのこと。A先生に声をかけると「頭がガンガンして、ふらふらする」というので、子供たちに「A先生、ちょっと借りるね」と保健室につれていきました。

A先生の皮膚は冷たく、発汗が見られたため、経口補水液で水分補給、腋窩など身体を氷嚢で冷やしながら、ベッドで休養してもらいました。前日は夜遅くまで仕事し、この日は体育の授業中、プールサイドで帽子等はかぶらず、炎天下の中プール学習の指導をしていたそうです。

ベッドで休んでいる間、子供たちが何度も保健室にお見舞いに来ていました。

子供たちの熱中症予防のため、プールサイドに日陰を準備し、水筒も持参させていましたが、先生自身も予防対策をしてほしいと思った事例でした。

文献

1)Br J Sports Med 2023 Jan; 57(1):8-25

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