雑誌 健康教室 2022年9月号
特集
救急処置のヒヤリ・ハットに専門家がアドバイス!
事例1 給食後にドッジボールをしたら… ●山口県在住 元養護教諭
事例2 体育大会の練習で女子生徒が口腔内を損傷 ●川原由理子
事例3 テニスボールが目を直撃 ●奈良あゆみ
事例4 げんこつで殴られ目を強打 ●横溝玲子
事例5 生徒が意識を消失 ●高等学校養護教諭
事例6 気管カニューレが抜去し呼吸困難に ●中国地方 特別支援学校 養護教諭
解説 「ヒヤリ・ハット」事例に学ぶ〜M-SHELL理論で振り返ってみよう〜 ●大沼久美子
解説 養護教諭へのヒヤリ・ハットへのアドバイス ●玉川進
事例1
運動誘発アナフィラキシー
目次
症例の概要
・小学4年生男子
・小麦アレルギー+ドッチボール
・エピペン注射
・反省1は未然に防げなかったこと
・反省2は校内の応援体制
1.アドバイス
1)対処は適切でした
2)発生を防ぐことは可能ですが、今回のようなことは起こり得ます
2.食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは 1)
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を摂取した直後に運動するとアナフィラキシーを起こすものです(1-001)。疫学調査では発生頻度は中学生6000人に一人、男子に多く、初回発症は10-20歳代です。
アナフィラキシーの原因は小麦62%、甲殻類28%です。アレルゲンを摂取するだけでは症状は起きず、摂取後2時間以内に運動するとアナフィラキシーを起こします。発症時の運動は球技が38%、ランニング28%、歩行17%です。また、普段はアナフィラキシーを起こさない人でも、1-002の条件が重なると発症する人もいて、誘発検査の再現性が少ない原因となっています。
生活指導が大切です。運動前にアレルゲンを食べないこと、食べてしまった場合には2時間は運動を避けることが必要です。また、鎮痛解熱剤が発症に関与することがありますので、服用は慎重に行います。
1-001
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
1-002
発症に影響する要因
全身状態;疲労、寝不足、感冒
自律神経;ストレス
女性ホルモン;月経前状態
気象条件;高温、寒冷、湿度
薬剤;鎮痛解熱剤
その他;アルコール、入浴、花粉
3.訓練
本事例は食物依存性運動誘発アナフィラキシーの典型例です。普段から指導していても、今回のようなことは起き得ます。
事例で書かれてあるように、いくら訓練をしていても「いざとなると頭の中が真っ白になります」。定期的に訓練を重ねて、チームとして対応できるようにしましょう。
4.こんなことがありました
(1)
甲殻類のアレルギ-を持っている中学1年生の男子生徒が、給食で「つみれ団子」を食べました。放課後の部活動で少し気分が悪くなりましたがそのまま練習を継続。口の周りと頬に発疹、吐き気の症状が現れてたため保健室へ来室。アレルギ-反応と判断し、医療機関へ搬送。給食で食べた揚げに「イカ」による運動誘発性によるアナフィラキシ-と診断されました。
(2)
卵アレルギ-を持っている中学2年生の男子生徒が、給食で提供された温食(みそおでん)を食べ、昼休みに友達とグラウンドでサッカ-をしました。教室に戻って5時間目の授業を15分ほど受けたところで、口の周りに発疹が出たため保健室へ来室。医療機関へ搬送。「うずらの卵」よる運動誘発性のアナフィラキシ-と診断されました。卵をよけて食べていましたが、煮崩れした卵が汁に溶け出し、アレルギ-症状が出たと考えられます。
文献
1)食物アレルギー診療ガイドライン2016ダイジェスト版
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