雑誌 健康教室 2022年10月号48-9
応急処置アップデート Q and A
不定愁訴
目次
Q
なにか心因的な原因があり過呼吸になってしまっている場合や、喘息等は見た目でわかることが多いのですが、とくに見た目に異常がなく、ただ苦しさを訴える児童がたまにいます。
・どこまで保健室で経過観察をしたらいいのか(訴えがある以上、授業には出さないでずっと休ませるのか)
・ここは見逃したくないチェックポイント等はあるか
・心疾患を疑う兆候
・受診の目安
などなど、たくさんありますが教えていただけますでしょうか。
小学校の養護教諭の先生からのQ
A
症状や訴えから重大な疾患を除外していきます。同時に体温などバイタルサインのチェック(001)を行います。特に大きな問題がないのでしたら、児童生徒の話を聞いて授業に戻るか帰宅させるか決めてください
図1
バイタルサイン
解説
1.不定愁訴とは
原因はわからないがあれこれ幾つもの症状を訴え続ける状態、もしくはその訴えそのものを不定愁訴と言います。症状として多いのが頭痛、筋肉痛、腰背部痛、倦怠感、悪心、食欲不振などです(002)。病院では身体所見を取り、レントゲン検査、血液検査などで疾患を探します。訴えに合致する疾患が見つかればその治療を行い、見つからない場合は心理的・精神的な関与を疑います。
図2
不定愁訴
2.フィジカルアセスメント
「Physical(身体の) Assessment(評価)」。目の前の患者の状態を、見たり聞いたりして判断することです。問診や視診などが含まれます。順番としては遠くから近くへ、痛くないものから痛いものへと診察を進めてきます(003)。
(1)問診:訴えを聞きます
(2)視診:訴えのある部分を見ます。
(3)触診:触れることで皮膚や痛みの状態を探ります。
(4)打診:叩いた音や振動から、内部の様子を探ります
(5)聴診:聴診器を使って体内の音を聞きます
このうち、打診については経験が少なければ判断ができないため難しい手技です。
図3
フィジカルアセスメント
3.揃えておくべき道具(004)
体温計、ペンライト、舌圧子は用意しておきましょう。パスルオキシメーターは呼吸機能を簡便に測定できるとともに心拍数もわかりますので有用です。聴診器は喘息発作の時に役立ちます。
図4
用意すると良い道具
4.精神的な問題による症状
精神的な問題により体の不調を訴える症例があります。
うつ病(気分障害):気持ちを言葉で表せない子供では、身体症状が出やすくなります。また気分にむらがあったり、落ち込みよりイライラが前景に立ちます。症状は睡眠障害、食欲低下、朝に元気が出ず夜に元気になる、興味や意欲の低下があります。うつ病が疑われる場合には精神科受診を勧めます。
心身症:ストレスが原因で身体症状が出るものです。頭痛や消化器症状がありますが、喘息や頻尿も心身症として出ることがあります。身体症状がメインですので、まずその症状にふさわしい病院を受診させます。医師が精査した上で「心身症」と診断されれば主に心療内科で治療されます。
5.訴えを聞くこと
苦しさを訴えている時は、いつから、どこが、どの程度苦しいのか、過去に同じことがあったかなど、系統立てて聞くことにより何が原因なのか推測することができます。また経験のある養護教諭なら精神的に問題があるかも判断できるでしょう。
こんなことがありました
中2の女子。授業中に息が苦しいと言って、泣きながら来室。首元を抑えています。
浅い呼吸をしていたため、鼻から吸って、口から吐くと呼吸の指導をしていくと、呼吸は落ち着いてきました。パルスオキシメーターを装着し98%でした。熱は36.8℃。保健調査にはぜんそくの記載はありませんでした。家庭に連絡を取り、ぜんそくの既往があることが分かり今回のもぜんそく発作のようでした。30分間保健室で経過観察して教室に戻しました。書き出してみると、なかなか的を得ないケースになっていて、もっと問診や表情の観察が必要だったなと・・反省中です。
今回すぐに保護者に連絡が取れたので対応ができましたが、どこまで様子を見てよいのか。心因性なのか?本当にぜんそくなのか?他の疾患の可能性についても教えていただきたいです。
↓
筆者より:この症例は過換気発作の類と思われます。喘息で首元を抑えているのは見たことがありせん。喘息発作では座位で口すぼめ呼吸をしているのが普通です。喘息の場合は聴診器で呼気時のピーという高い音が必ず聞こえます。疑った時は自分で必ず確かめましょう。また一般の方は、よく咳き込んだり喉が枯れたりすることも喘息と称することがあります。
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